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第36話 銀狐、白蛇に会う 其の一

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 こう白霆はくていの泊まったこの碧麗へきれいという名の街は、麗南に広がる『愚者の森』の入口と接している為、昔から森抜けに利用されている。
 日の出と共に森に入り、日の入りと共に森の切れ目にある小さな宿場街に辿り着くこと。そして森を抜けるまでは決して夜に出歩いてはならないことが、かつての暗黙のしきたりだった。『愚者の森』は様々な魔妖の住み処だ。ほとんどの魔妖は夜に行動が活発になり、妖力も増す者も多い。野生に近い魔妖ならば狩りの時間でもある。夜間に森を歩くのは余程の剛の者ではない限り、自殺行為に等しい。
 だが近年、森の中央にある開けた場所に宿泊所を造った剛の者がいた。主は人と魔妖の混血だったが妖力が高く、宿泊所を自分の縄張りだと牽制して、野生の魔妖を遠ざけたという。
 この宿のおかげで森抜けは、昔に比べて格段に楽になったのだ。

 
 晧と白霆の二人は朝餉の後、宿を出て旅の準備の為に大通りの屋台で買い物をした。保存食と水が主だが、一番の目的は白霆の靴と足を覆う為の鱗皮りんひだ。
 街道の石畳は実は『愚者の森』の中には存在しない。道を石畳にする為の工事を行える剛の者がいないのだ。だが森の木を開き、長年人々の踏みしめた土がちゃんと道になっていて迷うことはない。しかし整備されていない道の為、天気が崩れれば途端に泥に足を取られてしまう。しかも雨上がりの泥の中に、人や魔妖の足の肉が好物な妖蛭が潜んでいることもある。
 白霆の靴は膝まである、旅用のしっかりとした皮靴だ。だがこれでも妖蛭の牙に掛かれば、容赦なく皮ごと足の肉を持っていかれるだろう。
 鱗皮はその名の通り、ある鱗に術を加えて大きく引き伸ばし、皮状にしたものだ。この鱗は熱にも寒さにも強く、何よりも丈夫で固い。妖蛭が食らい付いても足まで届くことはない。
 数日前に『愚者の森』に雨が降ったことを知っていた晧は、予め里を出る時に用意していた。森は生い茂った木々の葉によって陽が遮られている為、一度雨が降るとなかなか地面が乾かない。

 
「助かりました、晧」

 
 森の道を共に歩きながら白霆が言う。
 案の定、道は泥濘んでいたが、水にも強い鱗皮のおかげで足を取られることもなく歩くことが出来たのだ。
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