エミリオとアリエッタ

柴咲もも

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 絨毯に散った白濁液をせっせと拭いながら、アリエッタは先のエミリオとの行為を思い返していた。
 未だ胸はとくとくと落ちつかない音をたてており、頬は熱を保っている。頬ばかりではない。エミリオに触れられたからだのあちこちが、甘く痺れるように疼いていた。

 随分と大胆な――淫らな真似をしてしまった。
 エミリオの匂いや温もりは、アリエッタにとっては媚薬のようなものなのかもしれない。エミリオに近付きすぎると自分が自分でなくなるようで、ときどきとても怖くなる。

 ほうっと小さく溜め息を漏らして立ち上がると、アリエッタは手早くタオルを片付けて、部屋の隅で乱れた服と髪を整えた。

「こっち来て座れば?」

 ベッドの縁に腰掛けて、エミリオがアリエッタを呼ぶ。トラウザーズの前こそきちんと閉めているものの、エミリオの襟元は肌蹴たままで、髪も乱れていた。そのうえ、どこか物憂げな表情も相まって堪らなく色っぽい。
 アリエッタはこくりと頷くと、ほんの少し距離を置いてエミリオの隣に腰を下ろした。

 窓の外には雪がちらついて、ときおり風が窓硝子をかたかたと揺らしている。陽はとっくに暮れてしまっていた。
 アリエッタが昔からエミリオを慕っていることを知っている母は、エミリオが帰省する日は気を回し、夕食の準備をひとりでしてくれる。
 まさか娘がこんな非常識な真似をしているとは思ってもいないだろうことを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

 アリエッタは顔をうつむかせたまま、隣に座るエミリオの顔をちらりと盗み見た。
 十八歳になったエミリオは、今ではアリエッタよりも頭ひとつぶんほど背が高い。肩幅も背中も大人の男性のように広くなって、大きな手のひらと少し骨ばった長い指には独特の色気があった。

 エミリオの、長い指。触れられたときのことを思い出して、アリエッタはこくりと息を飲んだ。
 行為を重ねるごとに、エミリオはアリエッタの感じる部分を記憶しているようで、彼の指は的確にアリエッタの好いところを攻める。今となっては、奉仕する側のはずのアリエッタが一方的に気持ちよくさせられるばかりだ。

 ほんの少しでも、エミリオを満足させることができていれば良いのだけれど。
 アリエッタは浮かない顔で、エプロンをきゅっと握り締めた。

「いつになったら父さんと母さんに俺たちのこと話すんだろう、って思ってる?」

 唐突に、エミリオが口を開いた。
 思い掛けない言葉に、アリエッタは慌ててふるふると首を振る。僅かに眉を顰めたエミリオはアリエッタのそばに躙り寄ると、手のひらにそっと触れて、アリエッタの瞳をまっすぐにみつめた。

「今の俺には、まだ何のちからもないから。情けないけど、父さんや兄さんの後ろ盾がないと何もできない子供ガキだから。……だから、お前のことちゃんと守れるようになるまで、もう少し待ってて」

 真摯に告げられたその言葉は、アリエッタの胸にすうっと染み渡った。
 エミリオの言葉なら、何があっても信じられる。アリエッタはそう思った。
 小さく頷いて、エミリオに身を寄せる。エミリオの腕がアリエッタの肩を抱いた。

 ほんの少しの沈黙。やがて暖炉の薪がぱちぱちと音をたてて崩れると、エミリオが不意に口を開いた。

「そうだ。アリエッタ、明日は暇?」

 弾んだ声でそう言って、アリエッタの顔を横から覗き込む。アリエッタは目をまるくして、二、三度まぶたを瞬かせた。
 当然、明日は用事があるのだけれど、もしかしてエミリオは明日が何の日か気付いていないのだろうか。

「明日は聖夜祭ですから、朝の仕事が片付いたら母を手伝って晩餐の準備に取り掛かる予定ですが」
「……聖夜祭?」

 碧い瞳を開いて、エミリオが繰り返す。アリエッタがこくりと小さく頷くと、エミリオの顔から血の気が引いた。
 アリエッタが思ったとおり、エミリオは聖夜祭のことをすっかり忘れていたようだ。この様子だと、プレゼントも用意していないに違いない。知らぬ間に、アリエッタはくすくすと笑い出していた。

「今年はわたしがケーキを焼きますから、エミリオ様も食べてくださいね」
「食べる! 食べるよ! すごい、今から楽しみだし!」

 アリエッタの手を両手でしっかりと握り締めて、エミリオは熱意のこもった眼差しを向ける。それからはたと動きを止めて、ぱっと表情を輝かせた。

「そうだ。今年はプレゼントを用意できなかったからさ、何かひとつお願いきいてやるよ」
「お願い、ですか?」

 アリエッタが瞳を瞬かせる。

「なんでもきいてやるから、明日までに考えておいて!」

 碧い瞳をきらきらと輝かせてエミリオが言うものだから、きゅんと胸が締め付けられて。アリエッタは小さく頷いて、にこやかに微笑んだのだった。


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