幼馴染みに初めてを奪われた騎士はトラウマを克服したい

柴咲もも

文字の大きさ
48 / 67
第17話 宴の夜

 グランセル公爵邸が革命軍の襲撃を受けてから十日が過ぎ、グランセル領内や王都では、軍や警察が事後処理に忙しい毎日を送っていた。
 グランセル領で暮らす人々の心に革命軍が残した爪痕は未だ癒えておらず、その日、グランセル公爵は領民や襲撃事件に尽力した王国軍の慰安のために、盛大な宴を開いた。
 村の広場では昼間から酒と料理が振舞われ、元の計画よりすこし遅れて日暮れからはじまった夜会には、方々ほうぼうの地から多くの貴族が足を運んだ。
 公爵邸奪還の際、革命軍の主導者を捕え、人質解放の要となったセルジュは、その功績を認められ、公爵夫妻の賓客として夜会への出席を求められたのだった。
 

 公爵邸の二階に並ぶ客室の一室で、セルジュは姿見に映る自分の姿を眺めていた。
 この王国騎士団の礼服には王城で式典がある度に腕を通しているものの、今までにセルジュが夜会会場に足を踏み入れたのは、会場の警備や王太子の護衛任務のときだけだった。
 次男とはいえ貴族の子息なのだから、本来ならば社交の関係で夜会に出ていてもおかしくないのだが、セルジュの場合は女性恐怖症で屋敷に引きこもっていたからだ。
 夜会に招かれた貴族の令息らしく撫で付けた黒檀色の髪を、右から左から確認し、礼服の上着の襟元を正して。ぐっと表情を引き締めると、セルジュは夜会会場となる大ホールへと向かった。

 細やかな彫刻細工で彩られた渡り廊下の手摺りを眺めながら、ホールを満たす穏やかな弦楽器の音色に耳を澄ます。
 ふと前方に目を向けると、相変わらずの黒いドレスに白いエプロン姿のコレットが廊下の向こうから歩いてくるのが見えた。
 コレットはセルジュに気がつくと、榛色の瞳をまるくして、小首を傾げてセルジュに訊ねた。

「どうしたんですか、その格好」
「今夜の夜会に出ろと言われてな。仕方なく、だ」

 そう言ってぎこちなく笑い、片腕をあげ、上半身をすこし捻ってみせる。
 セルジュの全身をひととおり眺め、コレットがくすりと微笑んだ。

「髪をあげてるセルジュさん、はじめて見ました」
「ふん、どうせ似合わないとでも言うんだろう」
「そんなことないです。とっても素敵ですよ」

 恥ずかしげもなく言うものだから、セルジュはちょっぴり照れくさくなって、ホールの中央に吊り下げられた硝子のシャンデリアを見下ろした。
 それからこほんと咳払いをして、ちらりとコレットに目を向ける。

「……お前は?」
「はい?」
「マイヤール辺境伯令嬢ともあろう者が、夜会に出ないのか?」
「わたしは今日まで行儀見習いの身なので」
「そうか……」

 ほんの少し気落ちして、セルジュはふたたびホールを見下ろした。夜会でコレットと踊ることを、心のどこかで期待していたのかもしれない。
 セルジュが黙って立ち尽くしていると、コレットがゆっくりとセルジュの隣に歩み寄り、横から顔を覗き込んだ。

「……ちょっぴり残念だったりします?」
「俺が残念がるとでも?」

 胸の内を見透かされてしまわぬように、慌てて虚勢を張る。
 コレットはぷくっと頬を膨らませると、

「むう……相変わらず素っ気ないですね。使用人のエプロンドレス姿のわたしも今日で見納めなんですから、もっと惜しんでくれたって良いんですよ!」

そう言って得意げに胸を張った。

「勝手に言ってろ」

 鼻で笑い、セルジュは改めてコレットと向かい合った。
 セルジュが黙ってコレットをみつめていると、コレットはちょっぴり視線をさまよわせて、ほんの少しうつむいて。それからぱっと顔をあげ、にっこりと笑って明るく告げた。

「これまでの努力の成果が試されるところですね。夜会、楽しんできてくださいね」


 結局、それ以上は何も言えなくて。
 手を振るコレットに見送られて、セルジュはひとり、夜会会場へと向かったのだった。

 
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389