異日本戦国転生記

越路遼介

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第二十話 大三島の鶴姫

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甲信駿の三ヶ国を統治する武田家、こちらでも戦国の巨獣と呼ばれた武田信玄が死んだ。
息子の武田義信、諏訪勝頼に看取られて死んだ。
こちらの世界では信玄と義信の間に溝は生じず、仲の良い親子であった。

史実で信玄と義信が不和になったのは桶狭間の戦いで今川義元が討ち死にし、後を継いだ氏真では今川氏がまとまらない、そこに衝こうとした信玄に義信が頑強に反対したことが発端だ。義信の妻は義元の娘、どうしても武田の今川攻めを飲めなかったのだろう。
しかし、こちらの世界の義信は同じく義元の娘を娶っていたが『隙があるのなら奪うのが当然の戦国の世。甲斐は水害が頻発して貧しい、肥沃で海がある駿河を得ようとするのは当然だ』と妻の反対など眼中になかった。妻を駿河に送り返し、父の信玄と共に駿河に進攻。見事、駿河一国を手中に収めたわけだ。義信の妻は武田を呪い、自害して果てた。

史実で武田を継いだ、いや孫の信勝成人まで陣代として在った武田勝頼、こちらでは諏訪氏を継いで諏訪勝頼を名乗り兄義信の家臣だ。
信玄は史実では『三年喪を伏せるよう』と言い残したが、こちらではそのような遺言はなく、死後丁重に弔われた。

勝頼ではまとめきれなかった重臣たちも義信に対しては違う。義信もまた川中島の合戦を含め数多の戦を重臣たちと潜り抜けてきたのだから。
信玄の死より数日、落ち着きを取り戻した武田義信は軍議を開いた。
「謙信が死に、景虎が継いだ。知っての通り、景虎は氏康の息子だ。北条との同盟は強固となろう。景虎が上杉領をまとめ上げる時間を与えるべきではないと思うが、どうじゃ?」
義信が切り出すと
「確かに由々しき事態にござるな。北条と上杉の同盟が親子では、そうは解消となりますまい。事実、北条は春日山まで援軍を出しているのですから」
山県昌景が答えた。軍議は続き、やはり討つべきは上杉景虎という方針になった。
「となると…織田に使者を出して何とか和議に持っていかなければなりますまい。上杉と北条のうえ、織田と戦う余力はないゆえ」
高坂昌信が言うと、では使者は誰が良いかという話になり

「真田昌幸、そちが参れ」
「承知いたしました」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

徳川家では当主の家康が隠居して信康が当主となった。
史実では天下人となった家康ではあるが、こちらでは遠江と三河二ヶ国の国主として終わりを迎えた。彼の妻瀬名は今も元気だ。
「結局、作太郎殿の妻にしようと考えて生んだすずは違う殿方の嫁になってしまいましたね」
「まあ、現状敵国の将ゆえな」

浜松城近くの隠居館、ここに家康と瀬名は暮らしていた。下男と侍女も住んでおり、悠々自適な生活を送っていた。縁側で日向ぼっこをしている家康と瀬名、もしかすると史実の家康もこんな暮らしがしたかったのではなかろうか。
「知っておりますか。信康は武田との同盟を断って織田との同盟を考えているとか」
「知っておる。まあ、好きにやらせるつもりじゃ。隠居した儂がしゃしゃり出るのは良くない」
「それにしたって…。もし激怒した武田が攻めてきたら」
「そんな余力は武田にありはせんよ。御館の乱で景虎が勝ったのは誤算であったろうな。これで北条と上杉が親子になってしまった。しかも信玄殿は死に、今ごろ当主となった義信殿は青くなっていよう。このまま同盟を続けていても北条と上杉との戦に駆り出されるだけじゃ。武田との同盟破棄はよき判断かと思うぞ」
「………」
「また景虎には上洛の意思はないであろう。謙信でさえ手取川で断念して引き上げた。あの大劣勢をひっくり返されたのは、さしもの麒麟の謙信も驚いたであろう。織田に塩見武蔵という厄介な武将がいるのも分かった。ならば当面は戦わずに武田を北条と共に攻めた方が確実じゃからの。同盟したままでは徳川にも飛び火が来る」
「…まあ、殿が同意見ならばそうなのでしょうね。私も信康殿の考えを尊重します」
家康は瀬名に膝枕をしてもらっていた。尻を触ろうとする家康の手を叩いた瀬名だった。


四国の長曾我部元親は織田への恭順の意思を示し、息子の信親を伴い安土城へと訪れた。
「ほう、立派な若武者だ。長曾我部殿はよき息子をお持ちだ」
と、史実同様に信親を褒めた。元親の妻は明智光秀の重臣、斎藤内蔵助の妹、名は安曇と言う。近江坂本にある光秀と内蔵助の墓に手を合わせに参りたいと元親が言うと
「武蔵守、案内してやるといい」
「ははっ」
元親と信親親子が信長に面会する席に同席していた長康は元親に体を向けて
「私は塩見武蔵守長康と申します。近江坂本は現在我が領地、日向殿と内蔵助殿の墓所『明秀寺』は塩見家で建てさせていただきました」
「それは…ありがとうございまする。妻も喜びまする」

琵琶湖から船に乗って坂本を目指した。元親が
「武蔵守殿の名前は土佐まで響いておりまする。天下一料理人にて稀代の名医と」
「それは嬉しゅうございますな」(すげえ美男子だな、この父と子は…)
少年期、姫若子と言われた元親、現在も美男、信親など安土城内と琵琶湖の船着き場で女たちが見惚れていた。

「武蔵守殿、伯父の最期はどんなものだったのでしょうか」
その美男の信親が長康に訊ねた。生き残った兵に聞いたのですが…と前置きして長康は話した。
「日向殿と内蔵助殿は徳川家の猛将本多平八殿に討たれたそうです。内蔵助殿は日向殿を守るため最後まで戦ったそうですが武運尽きて首を刎ねられ、その直後に日向殿も討たれてしまったと」
「「…………」」
「日向殿の内儀はいま私の妻に仕えております。内蔵助殿の妻も同じ。内蔵助殿の娘のお福殿は、まあ可愛らしい娘で」
「さようでござるか…。内蔵助殿の家族は塩見家で大切にされている。妻によい報告が出来そうでござる」
「はい、よろしくお伝えください」

明秀寺に着いた長曾我部一行、ここには明智光秀と斎藤利三の首が埋められている。
「きれいなお墓にござるな…。日向殿、内蔵助殿は家中で慕われていたのですな」
光秀と利三の墓守をしているのは、長康の坂本城現地妻の彩だ。長康は小浜に連れていき改めて側室にと申し出たが、戦災孤児の彼女が熙子に拾われたおかげで人並みの暮らしを手に入れた。かつ光秀と利三は父親のように温かく彩に接してくれた。その御恩を返したいのだと。

「伯父上、安曇の息子長曾我部信親にござる。ご最期の様子は聞きました。主君を守り最後まで戦い抜いた武人の心、それがし受け継ぎまする」
元親と信親は手を合わせた。それは戦場から光秀と利三の首を持ちかえった長康にとっても嬉しいことであった。
(綺麗な墓所だ。毎日彩が掃除して花を添えているのだな…)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

毛利家からは小早川隆景が使者としてやってきた。現状、毛利家と織田家は交戦状態になっていないものの信長が秀吉に中国を切り取れと下命し、現在秀吉が播磨と但馬に調略を仕掛けているのは毛利方も知っている。その調略はあまり上手く行っていない。武田徳川連合軍に大敗したことが響いているのだ。織田に味方して大丈夫かと。
しかし追い風は吹いた。四国を統一した長曾我部家が織田に恭順の意を示したことだ。但馬の山名家は恭順を示し、播磨の赤松家、浦上家、別所家も恭順、秀吉は胸を撫でおろしたことだろう。
なお、備前の国の戦国大名、宇喜多直家はすでに病死しており、宇喜多家は毛利家に滅ぼされて備前の国は毛利領である。

小早川隆景は織田信長に『たとえ我らを滅ぼしたとしても石見銀山が無ければ意味がないのでは?』と言った。
大内、尼子、毛利で熾烈な争奪戦を繰り広げた石見銀山。史実では昭和十六年に閉山される石見銀山が、まさかの戦国時代で閉山である。尼子経久の全力の気弾と大量の火薬爆発によって再開発は困難、地盤が緩んでしまい、無理に開発しても落盤と水害が相次ぐだけ。元就の失意は大きかっただろう。

隆景の言い分はもっともだった。尼子経久が石見銀山を破壊したと信長が伝え聞いた時『なんてことをしてくれたのか!』口に運ぼうとしていたお猪口を悔しそうに投げたという。毛利の申し出は和議のうえ不戦協定、毛利三兄弟の武勇と知略は信長も知っている。今回小早川隆景と話して、信長も思うことがあったに違いない。
「確かに石見銀山が無いのなら毛利を攻めても仕方あるまいな」
敵にするより味方にした方が賢い選択だ。一度は秀吉に中国攻めを命じたが、ここで信長は秀吉への命令を破棄して、毛利との和議を了承したのだった。その席には羽柴秀吉、細川藤孝、柴田勝家、筒井順慶、そして塩見長康も同席している。長康も始め異論は挟まなかった。


交渉が上手く行って上機嫌の小早川隆景を追いかける長康。安土城の外、隆景の供の者が構えるが、隆景は『よい』と言って長康と会った。
「小早川殿」
「武蔵殿、何か」
「私は闘気を応用して馬より早く走ることが出来るのですが…」
「ほう、うらやましいですな」
特に珍しい気術ではないので隆景は大して驚かない。
「毛利領の大三島に行くことをお許し願えたらと…」
「大三島に?」
「はい、聞けば大三島の大山祇神社には源義経や武蔵坊弁慶の武具が奉納されているとか」
「ええ、事実ですぞ。それがしはその武具を見ておりますから」
「私も武人、義経と弁慶にあやかりたいと云うことと、武器を奉納して武運長久を願いたいのです」
「織田殿はそれを?」
「はい、許可をもらっております」
「人数は?」
「供は私と同じ闘気術を使える家臣一人だけです。海は現地で船を雇い渡ります」
「それでは…」
小早川隆景は通行許可証のようなお墨付きをその場で書いて渡してくれた。
「かたじけないっ!感謝いたしますぞ、小早川殿!」
「いえ、道中気を付けて」

隆景の家臣が
「よろしいのですか?和議をしたとは言え織田家の武将ですぞ」
「なに、あの男は塩見武蔵守、若いが武将としても一級のうえに天下一料理人にして名医、ああいう人物には借りを作っておいた方がいい」

長康はその日のうちに律照尼を連れて大三島に向けて出発した。彼が一番使っているサポートカードは間違いなく【神行太保戴宗】だろう。神行法を使えば馬より早いなんてものではない。ちょっとした瞬間移動を繰り返して走るのだ。だから人とぶつかって怪我を負わせることもない。律照尼も同様なことが出来る。どうしてと問えば『八百年以上生きていると色々~』と言われて終わりだ。それで納得するしかない。

「のう、どうしてそんなに大三島に行きたいのじゃ?」
「会ってみたい女がいるんだ」
「ほう、どんな女子じゃ?」
「鶴姫という女子で、大三島の大山祇神社というところにいる」
大三島の大祝家の娘、鶴姫は『異日本戦国転生記』でもトップクラスの美少女だ。
史実では十八歳で亡くなってしまう。ゲームでも主人公が選択を誤れば同様に十八歳で亡くなってしまう。死因は入水自殺、戦死した夫越智安成の後を追ったのだ。
しかし船戦では全武将の中でトップクラスの能力を持つ。夫の仇である西国一の侍大将陶隆房率いる水軍を撃破しているのだから。

史実の鶴姫は大永六年、西暦一五二六年に誕生しているので『戦国武将、夢の共演』シナリオでなければ出会うことは難しい。史実シナリオでは十八歳で亡くならなくても、寿命でとっくに亡くなっている時代だ。
ゲームで鶴姫を嫁にすることは可能ではある。主人公が嫁にすることだけが十八歳で亡くなる展開を防ぐことになる。

「我が物にしたいのか?」
「いや、それは野暮だな。彼女には想う亡き夫がいる。会って武具の奉納にだけ立ち合ってもらえればいい。彼女は巫女だ。その姿を間近で見られるだけで俺は満足だ」
「なんじゃ、そりゃ?ようも会ったこともない女子にそこまでときめけるの」

大三島に到着した長康と律照尼、さらに大山祇神社に駆けていく。
(前世で女房の香苗と共に訪れたな。尾道でレンタカーを借りて、しまなみ海道を伝って大三島へ。鶴姫は架空の人物説もあるが、こちらの世界では実在、会うのが楽しみだ)

大山祇神社に到着した。
「さぁて、お鶴様、お鶴様は…」
義経と弁慶の武具が奉納されている宝物殿は素通りした長康だった。境内の方へ行くと
「大三島大明神様!どうか夫、鷹丸を病魔からお救い下さい!」
巫女装束でひたすら大三島大明神に願い続ける一人の美少女がいた。
「大三島大明神様!どうか夫、鷹丸を病魔からお救い下さい!」

「…………」
「おい、話が違うぞ。旦那は生きておるようじゃが」
「まあ、それならそれでいいさ」
鷹丸とは鶴姫の夫、越智安成の通称だ。ゲームの『異日本戦国転生記』では安成は亡くなっていて登場はしないが、長康が現実に生きるこの世界では病躯ながら存命のようだ。

「大三島大明神様…!ど、どうか、鶴の願いを!ゴホッ、ゴホッ!」
鶴姫は倒れてしまった。慌てて駆け寄る長康。
「大丈夫にござるか?」
「はあ、はあ…。鷹丸…」
長康もだが律照尼もびっくりしていた。こんな美しい少女がいるのかと。
「すごい熱だな、こんな状態で夫の快癒を願っていたのか…。越智安成は幸せ者だ」
長康は大祝家の者に鶴姫の住まいを訪ねて、そのままお姫様抱っこの状態で連れて行った。鶴姫をお姫様抱っこで運ぶ。長康には至福の時だった。鶴姫の住居に着いた。侍女が出てくる。
「お鶴様、また、そんなお体なのに!」
「このまま運びます。姫様の寝所はいずれに」
「こちらです」

布団に寝かせて、長康は意識朦朧の鶴姫に語り掛けた。
「鶴姫様、私は旅の医者で作太郎と申します。貴女をこれから治します」
以下、長康の名を作太郎と記す。
「わ…私…より、た…、た…か…丸を…」
息も絶え絶えに鶴姫は作太郎に願う。
「もちろん、旦那様も治しますよ」
診断結果は肺炎だった。もう少しで手遅れになるところだった鶴姫。
「気術『万病治癒』」
鶴姫の全身が作太郎の闘気に包まれた。そして
「……えっ!?」
「治りましたよ、鶴姫様」
全身が軽い、焼けるような熱さが体から消えている。
「大三島…大明神様?」
律照尼は思わず吹き出しそうになったが堪えた。

「改めて…私は旅の医者の作太郎と申します。妻と共に、こうして貴女のような病人を治すため諸国を歩いております」
「作太郎の妻、おりつです」
以下、律照尼をおりつと記す。
「ごっ、後生です!夫の鷹丸を治して下さい!おっ、お金はそんなに無くて…あの、その」
慌てた様子でおりつを見つめる鶴姫、勢いで『体で払う』と言いそうになったのだろう。それを言わせないために作太郎はおりつを妻として紹介した。いくら性に開放的な世でも妻女を連れている男に『体で払う』というのは軽率極まりなく、かつ鶴姫ほどの立場なら一度言ったことに取り消しが利かない。

大祝家の軍資金はあっても、鶴姫個人が自由に使える金はさほどにないと云うことくらいは作太郎も察している。
「ならば明日、私の武器の奉納に巫女として立ち合って下さいませ。それで結構にござる」
本来なら大山祇神社にそれなりのお布施が必要な儀式だが、それを治療代にしろと作太郎は言った。鶴姫の顔はひまわりのような笑みを浮かべて
「はいっ、私が務めさせていただきます!」
改めて越智安成の臥所に向かった。


臥所に入って、安成の姿を見る。意識はある。
「鷹丸、名医殿を連れてきたぞ!」
「…おっ、お鶴様…!今は入らず…うぐぐっ!」
(癌だな…)
眼球に黄疸があった。診断結果は熙子と同じすい臓がん。かつて日焼けして逞しい体躯だったろうに痩せて見る影もない。癌の王様と言われるだけあって全身に及ぼす激痛は癌の中でも最大級のものだ。
「ぐっ、あああっ、い、痛い!お、お鶴様…。臥所から出て…!」
「あああ…!たっ、鷹丸!さっ、作太郎様!」
「任せられよ」

作太郎は安成の左手首を掴んでギュウと握った。すると安成は動けなくなり、痛みも少し引いた。
「おっ、おりつ様、作太郎様は何を?」
「体術の応用です。激痛で暴れる患者はああして大人しくさせます」
大人しくなった安成の腹部に触れて
「気術『万病治癒』」
作太郎の闘気が安成を包んだ。すると
「……こっ、これは夢か!?」
「治りましたぞ、安成殿」
「鷹丸―ッ!」
鶴姫は安成に号泣して抱き着いた。
「お鶴様…!」
夫婦と言っても二人は主従関係でもある。大祝家の当主は長兄の大祝安舎、彼は大山祇神社の大宮司を務めている。大祝家の陣代は次兄の安房が務めていたが戦死、現在陣代は鶴姫が務めている。そして安成は大祝家同族越智家の当主だ。弟の隼丸と共に陣代鶴姫を支えていた。
「ううっ、鷹丸…。よかった、よかった…」
「お鶴様…。ご心配をかけて申し訳ございませぬ…」
「ぐすっ、ありがとうございます、作太郎様…。あれ?」
作太郎はその場から消えていた。すでに鶴姫の屋敷から出ている。何か、あの場に留まっているのは無粋な気がした。


「奉納の儀は明日、宿に泊まって大三島の美味いものでも食べよう」
「そういたそう!大三島は何が美味いのじゃ?」
「わからん!これから島の人々に訊ねて、それを知って食べるんだよ!」
「おお、そういうのも良いのう!」
と、大山祇神社を出て行こうとすると鶴姫が屋敷の外に出て作太郎たちに叫ぶ。
「作太郎様、おりつ様!かたじけのうございます!御恩は一生忘れませぬ!」
鶴姫の送りの言葉に手を振る作太郎、続けて鶴姫は
「奉納の儀は明日の早朝から行いまする!大三島大明神への儀式なので女人との交わりは今宵ご遠慮下さいませーッ!」
「「なにぃ!?」」
作太郎とおりつは項垂れた。旅先でこれでもかと言うくらい床の上で睦みあうのが二人の楽しみでもあるのに。
しかし決まりは決まり。作太郎が翌日行うのは神事なのだから巫女である鶴姫の指示を破るわけにはいかない。
「奉納の儀を終えたら、たくさんしよう」
「絶対じゃぞ!」

『わが恋は 三島の浦の うつせ貝 むなしくなりて 名をぞわづらふ』

鶴姫の辞世の句だ。

「詠ませずに済んだ…」
作太郎は微笑み、大山祇神社の鳥居を通り過ぎた後に振り向き、ご神体の大三島大明神に深々と頭を垂れるのであった。
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