異日本戦国転生記

越路遼介

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第二十一話 上杉家からの亡命者

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翌朝、作太郎とおりつは大山祇神社へと向かった。旅の医者と名乗っていたため武士としての正装も必要のないものだった。
しかし鶴姫とその夫越智安成の命を助けた者として大山祇神社に着いたころには、多くの大祝家と越智家の家臣が待っており、作太郎が着くや片膝ついて頭を垂れた。
大宮司の大祝家当主大祝安舎が作太郎の前に歩み
「妹の鶴、そして鷹丸の命をお助け下さり、感謝の言葉もございませぬ」
「いえ、どういたしまして。旅の途中に妻と大山祇神社に寄り、境内で倒れていた鶴姫様を見つけまして、これは放っておけないと思った次第です」
「本日は奉納の儀を行うと。妹の鶴が立ち合わせていただきます」
巫女装束の鶴姫が作太郎とおりつを出迎えた。
「お待ちしておりました、作太郎様、おりつ様」
「お出迎え恐縮にございます。越智殿はその後…」
「はい、床払いはしばらく先になりそうですが今朝は粥を美味しそうに召し上がりました。本当に嬉しくて…」
「それはようござりました。私からお願いしておいてなんですが鶴姫様も病み上がりの身、本日はお体に無理のないよう執り行って下さいませ」
「承知しました。それではご案内いたします。こちらへ」
鶴姫の案内で大山祇神社の本殿へと。

おりつが小声で
「のう、目的は鶴姫と会うことだったのであろう?奉納する武具なんて持って来たのか?」
「ああ、無銘だけどな」
それは前世の冨沢秀雄が『異日本戦国転生記』で主人公を鍛冶師にしてプレイした時に打った太刀だ。収納法術内で塩漬け状態になっている。鍛冶師は料理人と同じく天下人の武将と時の天皇より『天下一鍛冶師』の称号を得るとエンディングを迎える。秀雄はそのエンディングに到達しているし、現在作太郎が使っている包丁のうなぎ裂きも、そのプレイ中に打ったものだ。打った刀や槍には、完成後に価値が付き、最高価値は『七』最低は『一』だ。『七』の武器を安定して打てるようになって、天下人と天皇に武器を献上して認められる。

(でも、やっぱり『七』の太刀を奉納するのはマズいよな…。現在、大山祇神社の宝物殿にある武具に『七』に相当するものは、おそらく無い。真ん中の価値『四』の太刀にしておくか)
信長クラスの大名が床の間に置いて大切にしている太刀が『五』だ。家臣が『七』を大山祇神社に奉納したら、いくら何でも出過ぎであろう。『七』ともなれば国宝級だ。おいそれと出せるわけがない。

本殿に入り、大三島大明神のご神体前で作太郎とおりつは平伏、収納法術から価値『四』の太刀を取り出し、頭を垂れながら両手で太刀を持ち捧げる。この時、立ち合いの巫女である鶴姫が祝詞を大明神へと。
(すげえ…。全部暗記しているのか。それにしても、なんて美しい声だろうか)
祝詞が終わると
「作太郎様、太刀の銘を言い『お納めください』と大三島大明神に」
「えっ?この太刀は無銘なのですが…」
「え?」
「え?」
作太郎は焦った。無銘の太刀を奉納するのはマズかったのか。
「申し訳ございません。太刀を見せていただけますか」
「承知しました」
太刀を鶴姫に渡した。価値『四』と言っても、天下一鍛冶師の仕事だ。ゲーム内のことだが。

鶴姫は刀身を見て
「これは素晴らしい太刀です。銘は私が付けてもよろしいですか」
「はい」
「『仁一文字』にいたします。この太刀は作太郎様の仁術を、この大三島で未来永劫語り継いでくれるでしょう」
「恐悦至極に存じます、鶴姫様」
「では改めて奉納を」
「はっ、コホン…」
作太郎は『仁一文字』を大三島大明神に捧げ
「武州牢人、作太郎。『仁一文字』を大三島大明神様にお捧げいたします。どうぞ、お納め下さいませ!」
鶴姫が再び祝詞を大三島大明神に。祝詞は歌のよう。律照尼も聴き惚れてしまうような美しい歌声だった。


奉納の儀が終わって間もなく
「姫様!」
越智安成の弟、隼丸が本殿へと駆けてきた。
「どうした隼」
隼丸は作太郎とおりつに一礼し、鶴姫に報告。
「重病の姫様と兄者を治した名医が大山祇神社に訪れていると聞いた近隣の民が治療をお願いしたいと」
「ああ、かまいませんよ」

「作太郎様…」
快く了承したのに鶴姫の顔は戸惑いがある。
「どうされた?」
隼丸がその疑問に答える。
「作太郎殿、治癒の法力と闘気を有する医者から病を治してもらった時、治療代は一律三貫と伺っております。しかしながら度重なる毛利の侵攻によって軍備がかさみ、毛利に降伏したあとも立て直しはままならず…。恥ずかしながら大三島の民はもちろん、我が越智家、主家大祝家も貧しく…」
「ああ、何かと思えば。医者が患者に治療代の心配をさせてはならぬもの。私は貧しい者からは取りません。富んでいる者から十分にもらっているので。私の妻を見て下さい。肌と髪は艶々でしょう。いつも腹いっぱいに食べている証です」
おりつと称し、いま作太郎の横にいる律照尼、その正体は八百比丘尼、十七歳の若い姿のままで、かつ作太郎の作る滋養溢れる料理を食べているのだから戦国時代ではあまり見られない美肌と美髪を誇る。鶴姫と隼丸は『確かに…』と納得してしまった。
「というわけで島の人々から治療代は頂戴しませんので、早速取り掛かりましょう」

「ああ…大三島大明神様の化身じゃ…」
「あああ…息子がこんな安らかな寝顔で!」
作太郎は大山祇神社に集まった患者たちを治した。そして
「ここに来られない者もいよう。患者の家族はいるか」
各患者たちの住居にも往診に赴いて治した。子供の患者も多く、作太郎が大三島に訪れなかったら亡くなっていたと思われる子供も多かった。親たちの感激と感謝は相当なもので患者宅を去る作太郎の背にずっと手を合わせていた。

おりつも作太郎を上手くサポートし、往診行脚をスムーズに行うことが出来た。作太郎との房事が楽しみな彼女であるが、さすがは八百年以上を生き北は陸奥、南は薩摩に至るまで旅をしてきた八百比丘尼、何事においても優れている。
また、治療代三貫を払えずとも作物や獲物の魚を作太郎に献上する民は多かった。
作太郎はそれらをありがたく頂戴した。

治療を終えると作太郎は臥所の越智安成を見舞った。鶴姫と隼丸も立ち合っている。
「作太郎殿、礼を申す」
「どういたしまして」
「明朝お発ちになると伺いましたが…」
「はい鶴姫様、私の治癒を待つ人は多いでしょうから一つの場所に長くは留まれません」
「また会えますかな、床払いのあと、鍛錬に励み元の体に戻ったのなら作太郎殿と酒を酌み交わしたい」
「そうですな、美貌の奥方に酌をされるのも悪くないかと」
「まあ、おりつ様に叱られてしまいますよ」
作太郎とおりつ、鶴姫主従は笑った。
「鶴姫様、台所をお貸し願えますか」
「かまいませんが」
「子供を治療したお礼に、と漁師たちが魚をくれました。鯛が数匹ありましたので食べてみたくて」

作太郎が作ったのは『鯛めし』である。現在では大三島の名物グルメだが当時は存在しない料理だった。ほぐした鯛の身と麦飯を炊く。病み上がりの安成にはお粥にして
「どうぞ安成殿、滋養がつきますぞ」
一口入れると安成は目を輝かせて鯛粥を食べていく。隼丸は
「こんな美味いものは食べたことござらぬ」
と、勢いよく鯛飯をかきこんでいく。鶴姫も巫女、武家娘として、それはないと思うくらい一心不乱に鯛飯をかきこんでいた。大宮司の長兄大祝安舎も同じだ。
「これは美味い…」

「旦那様、これは美味しい」
おりつも同じだ。料理の神様のサポートカードをセットして料理したのだから、それは美味だろう。鶴姫は
「あの、作り方を教えていただけますか」
「いいですよ。調理法を記した書をお渡ししましょう」
「ありがとうございまする。感謝いたします」
そういう鶴姫の頬には麦飯の粒が二つ三つあった。大三島の名物『鯛めし』が生まれた瞬間である。

翌朝、作太郎とおりつは鶴姫と大祝安舎を始め、多くの人々に見送られ大山祇神社を出立した。
安成も杖を突きつつ、作太郎を見送った。作太郎の姿が見えなくなると
「お鶴様、分かっていたのでございましょう。彼が誰なのか…」
「ああ、気づかぬふりを通した。それも礼儀であろうと」
「塩見武蔵守長康…。織田は強いのでしょうな、あんな男がおるのだから」
「いや、吉田郡山城のお館は和議を申し入れたとか」
「ほう…。まあ、その方がようござるな。武蔵守殿は敵に回すのではなく味方にすべき人物でござろう」
「そうじゃな、戦場で会わずに良かった。鷹丸、はよ寝床に戻れ」
「そういたします」

隼丸に添われて臥所に戻る安成。鶴姫はもう一度作太郎が去った方向を見つめ
「…毛利との和議が成り、それで大三島にやってきた。おそらくは私を我が物にせんために。だが貴公は私のみならず我が夫も治してくれた…。感謝いたす。私は貴公の女にはなれぬが…語り継ごう。私と鷹丸、そして多くの大三島の民を救いし『名医作太郎』の名を」
作太郎に治療を受けた大三島の民たちは『大三島大明神の化身』と疑わず、その後も敬い続け、大山祇神社に作太郎の木像が奉納されることになる。作太郎がそれを知るのは、かなり後年のことである。

「もっとゆっくり走らんか、昨夜のおぬしは激しすぎじゃ、たった一日女断ちしただけで猿みたいになりおって!まだあそこに何か入っているかのようなのじゃ!」
「そりゃすまなかった、ちょっと速度落とすな」
例によって神行法で走る長康、昨夜の房事は確かに激しかった。律照尼が完全に回復していなかったようだ。
(ふう、おそらく鶴姫にはバレているのだろうなぁ。気づかぬふりをしてくれたんだろう。今度は塩見武蔵守として会えればいいのだが)
以下、作太郎の名を長康。おりつの名を律照尼に戻す。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

小浜城に帰った長康と律照尼、北沢小兵衛が出迎え
「殿、上杉家から亡命者が訪れております」
「上杉から亡命?」
「はい、いまはご家老の屋敷に留め置いておりますが…」
「何人だ?」
「女三人にございます」
「分かった。会おう。家老の作田伯耆もそのまま立ち合うようにと」
「はっ」

律照尼と城で別れて、長康はそのまま作田邸へ。作田伯耆の正室菜美が出迎え居間へと。長康が入ると作田伯耆が平伏し、亡命者三名も平伏した。女のうち一人は妊娠している。上座に腰を下ろして
「塩見武蔵守である」
「元上杉景勝家臣、直江信綱の妻、お船と申します」
史実では直江兼続の姉さん女房だった女性だ。綺麗な人だ、長康は素直にそう思った。
「上杉景勝の妻、菊にございます」
妊娠しているのが彼女だ。景勝の妻で菊と云えば武田の姫である。現在、武田と上杉は交戦状態のはずだが、聞けば謙信の時代に一時の盟約を結んだ時に嫁いでいったとか。政略結婚とはいえ、さぞや肩身が狭かったと思うが景勝とは仲睦まじく史実では授からなかった景勝の子を宿している。
「長尾政景の娘、華にございます」
「え?」
長康はわけが分からなかった。長尾政景の娘の華姫と言えば上杉景虎の正室。御館の乱に勝利したのは景虎であるのに、その正室が何で亡命者になって織田の将の元に来るのか。
「殿、それがしの方で詳細は伺っております。お話しても」
「頼む、伯耆」

御館の乱、上杉謙信が亡くなって、樋口兼続がすぐに春日山城の金蔵の占拠のため兵を出した。
しかし、たった一人のくノ一に樋口の先遣隊は全滅させられたと。そのくノ一は景虎が上杉謙信の養子になるさいに小田原から同行してきた下女であるが、その正体は北条幻庵の娘で景虎正室雪姫であった。その後に風魔忍軍が次々と春日山に襲来、雪姫は忍軍を指揮して景勝に着いた武将を次々と討ってしまった。景勝と兼続は何とか景虎と風魔の攻撃に耐えていたが、上杉の忍び軒猿衆も景虎につき、さらに武州鉢形城主である北条氏邦が大軍を率いて景虎の援軍に来たことで景勝の敗北が決定した。景勝は自分が腹を切ることで春日山城内の将兵の助命を請うため景虎に使者を送った。その使者が樋口兼続だった。
彼の英邁さを知る景虎は『景勝死後は儂に仕えよ』と勧誘するも兼続は拒絶。他の大名の元に行かれたら厄介極まりない存在になるであろう樋口兼続。どんなに優れた者でも自分に仕えぬのなら用はない。むしろ今後の景虎にとって害悪にしかならない。『ならば死ね』と、その場で樋口兼続の首を刎ねたという。

兼続の死を知った景勝は徹底抗戦を決意、しかし景虎の理不尽な戦闘力の前には意味すらなかった。
「与六、今から参るぞ…」
そう無念の涙を流し、忠臣の後を追うのだった。

景勝が死しても春日山攻めは終わらない。景勝側についた直江信綱は
「我らの希望は菊姫様に宿る殿の御子のみじゃ。菊姫様を連れて直江津に迎え。越後から出て柴田か塩見を頼るのだ。両名敵将ではあるが、女子供に温かい仁と聞く。きっと庇護してくれよう」
直江信綱は血路を切り開き、お船と菊姫を春日山城から逃したものの信綱は景虎の兵に討たれてしまう。お船は泣きながら身重の菊姫と城を脱出。何とか直江津に着いて船を探していたところ
「お船、お菊殿、こっちじゃ!」
華姫が先に到着しており、他国に渡る船を見つけていた。お船と菊姫は驚く。華姫は仇敵上杉景虎の正室あるからだ。警戒する二人に歩み
「…景虎に父と母を殺された。この身も蹂躙された!」
「「…………」」
「許すものか!」
華姫の父長尾政景、母の仙桃院は景虎に惨殺された。その悪夢のような光景を目の前で見た華姫。あげくその場で景虎に凌辱された。今までの夫婦の睦みあいではなく、ただ戦闘で昂った性欲を処理するため使われただけ。
冷たい躯となった父母の横、裸のまま放置された華姫、焦点の定まらない瞳で天井を見つめていた。
騙されたのだ。上杉景虎は最初から上杉家を乗っ取るために謙信の養子になった。今まで華姫に見せていた笑みと優しさはすべて嘘だった。絶望しかなかった。

「どんな気分?昨日まで美男の旦那様に蕩け切っていた馬鹿なお姫様、まあ最後は厠に使ってもらえてよかったじゃない。あっははははは!」
華姫を散々あざ笑って雪姫は去った。涙が溢れる。悔しい、悔しい。華姫は何とか自分を奮い立たせ、直江津に向かい、到着すると小浜商人の船を見つけた。乗せてもらえるよう交渉しているところにお船と菊姫が直江津に着いた。幸いに三人とも乗せてもらえることになり、小浜到着後に船の長が塩見家に報告、家老の作田伯耆が庇護する運びになった。

長康は一通り報告を聞くと、ため息が出た。
(直江兼続…。惜しい男を…)
長康は思わずにはいられなかった。存命なら三顧の礼をしても召し抱えたい人材だ。
何より、ぜひ直江兼続本人に会ってみたかった。彼が主人公だった大河ドラマは欠かさず見ていたものだ。
(とは言うものの…『異日本戦国転生記』で発生する御館の乱で景虎が勝利した場合、兼続は景勝と運命を共にして亡くなってしまう。それはいま俺が生きる『戦国武将、夢の共演』シナリオでも同じ。主人公がどう頑張っても、それは防げない…。俺に仕えずとも、一目会いたかった)

作田伯耆が
「手取川で慶次殿が景虎と一騎打ちをしましたが、慶次殿が言うには『手加減をされていた』とのこと」
「あの前田慶次相手にか?」
「はい、景虎はその非礼を詫びたうえ『今は敵味方共に力を見せるわけにはいかぬのだ』と言っていたそうな」
「養父謙信にも隠し通さなければならないほどの力だったのか…。紗代も兄の景虎は強いと言っていたが、それはほんの一部を見てのことだったのかもしれぬな…」

その景虎には、さらに厄介なくノ一が側にいる。
(雪姫、あのヤンデレくノ一か…。馬鹿みたいに強いんだよな…)
父の幻庵が風魔忍軍を統括する将、かつ史実にも伝わる雪姫の景虎への深い愛情、これがどうしてヤンデレくノ一という設定になったか長康にも分からないが『異日本戦国転生記』でも人気のヒロインだ。
黒いおかっぱ頭で、美しい顔立ちに鋭い眼光が合う。漆黒の忍び装束の背中からお尻にかけてのラインは美しいことこのうえない。彼女ゆかりの地である小机城と神鳥前川神社には聖地巡礼と訪れるファンもいるほど。
しかし現実に立ちはだかるとなれば冗談ではないと長康は言いたい。

「殿、改めてそれがしの独断で彼女たちを庇護したことをお詫び申し上げます」
頭を下げる作田伯耆、しかし
「いや、これでよいのだ。確かに上杉家とは交戦状態にあるが、彼女たちには関係ない。まして妊婦までいるのだ。おぬしの行動は正しい。詫びる必要などない。上様には俺から報告しておく」
「はっ」
「華姫殿」
「はい」
「つらかったであろう。俺は医者だが心の傷には無力だ。ゆっくりと時間をかけて癒されるがよろしかろう」
「ありがたきお言葉…。そうさせていただきます」
「菊姫殿」
「はい」
「お腹のお子を大事にされよ。俺は医者で出産の補助を心得ており、実際に妻や家臣の妻たちの赤子も取り上げている。出産に際して不安なことは、いつでも相談されるがよい」
「はい、ありがとうございまする」
「お船殿」
「はい」
「敗走のさいに随分と手傷を負ったようにございますな。よければ私が法術で治しますが」
「それは…お願いできますか?足と腕に膿んでしまった傷もあるので…」
「お安い御用です」
長康はお船の負傷を治し、若干の軽傷を負っていた華姫と菊姫の体も治したうえ、洗浄の法術を施した。体はもちろん、着物や髪も清潔な状態となる。お船は驚き
「これが洗浄の法術…」
「はい、なかなか気持ちいいでしょう」
髪の毛が流れるようなサラサラの髪になった菊姫は
「驚きました…。我が夫景勝は武蔵守様が手取川で素早く兵をまとめて魚鱗の陣を構築した瞬間を目の当たりにしたそうですが『あれは養父謙信でも出来ない芸当であろう。恐ろしい男が織田にいるものだ』と武蔵守様を語っておりました。私たちもお会いするまでどれだけ恐ろしい方なのかと少なからず怯えていたのですが…こんな温かい方だとは思いませんでした」
「ほう、景勝殿が…。何にせよ恐れられるは武門の誉れ、ありがたきこと」
その時、華姫のお腹が鳴った。恥ずかしがる華姫だが長康はニコリと笑い
「ちょうどいい。伯耆、台所を借りるぞ」

台所に行く長康、作田伯耆が変わりに説明した。
「我が殿は『天下一料理人』でもあるゆえ、馳走になってはいかがかな」
これは初耳だったお船たち。うな丼ではないが、大三島で仕入れていた魚を使って三人に振舞った。作田伯耆と、その妻菜美も一緒に。特に鯛めしは大好評で心に傷を負っている華姫も美味しい美味しいと口のなか一杯に鯛めしを入れた。
(華姫か…。史実では御館の乱で敗れた景虎に最後まで運命を共にしたお姫様だったな。こちらでは、その景虎を憎悪しているとは分からんものだな…。人の縁と言うのは)
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