騎士団隊長が生き返ったら、険悪だった部下に愛される?

イケのタコ

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一話 落ちたなら

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魔術とは、超自然現象を簡単に起こすものだと思われているが、いろいろ手順や法則を守って行わなければできないものだ。本人の素質も、もちろんある。しかし、奇跡のような夢のような魔術はない。
例の一つとして、火を出せる魔術をしたいと思えば赤く輝く石、火の鉱石がいる。それを魔術の媒介にして火が出せるわけであって、魔術を唱えて急に火が吹き出す訳では無い。
そう、結局のところ人間は様々な魔術を使おうと思えば、必ず媒介となるものが必要となる。

「ーーーっ転移魔術」

会場の二階から落ちたと覚悟すれば、場面は一転してイナミは水の中に投げ出されていたのだ。

黒で満たされた景色、空気の泡が上にあがっていく。
突然、身体を水に沈めて気が動転したイナミだった、が目の前に小さな灯りがついては水面を丸く照らした。
謎の光の玉は波に流されることはなく、ずっとイナミの真上を飛び回る。
それを頼りに水面に上がり、何とか岸まで泳いで助かることができた。
肺に溜め込んだ水を吐き出し、荒れた息を落ち着かせるために石の上に寝転がる。
寝転んだ先の景色は、満点の星空が輝いていた。そしてもう一つ、空に浮かぶ星では無い小さな灯りの玉がイナミの周りをウロウロと飛び続けていた。

「死ぬかと思った。これが精霊……直接この目で見るのは初めてだ」

イナミの周りを飛んでいる光の玉は、精霊。魔術研究では解明できていない生き物の一つ。
何故か精霊は様々な魔術を繰り出すのに媒介を必要とせず、神の申し子や、宇宙人といった説があるがどれも仮説すぎない。
精霊達には生き物のように意志があり、魔術師と契約することも可能である。
けれど精霊はそう簡単に契約はさせてくれないと共に、滅多に姿を表すこともないから、魔術師にとっては何としても欲しい超絶珍しい万能の魔術道具である。

イナミはこの光景に、リリィは魔術師であり精霊使いであることがすぐ理解できた。

「いいのか、俺はお前の主人じゃ無いぞ」

指先で光の玉を突けば、突き返してくるように指を押して来た。
どうやら、いいようだ。

「まぁ、一応主人の体ではあるから助けるのは当然か」

息の整ったイナミは立ち上がってすぐに異変に気がついた。

「傷が治ってる」

片腕の袖には小さな穴が数ヶ所、布に血は染み込んでいるが魔物に噛まれた傷がない。挫いた足も全て痛みがなくなり、全て完治していた。
何より、先ほど水浸しだった全体がもう乾いている。

「精霊の力?」

そうだと言わんばかりに光の玉が頭の上で跳ねた。
確かに、魔術師が精霊を欲しがるわけだ。魔術師でない俺ですら、契約したいと思う。

「傷を治してくれた事はありがとう。次はここがどこであるかだ」

知らない川に見たことがない林、夜もあって見通しの悪い景色が余計に居場所を分からなくしていた。
全く手掛かりない訳ではなく、ゴツゴツとした岩があり川の上流であったため、ここを降りていけば町がありそうである。
じっとしていても始まらない、川の流れに沿ってイナミは歩き出した。
そして、歩きながら精霊に話しかけた。
本来の契約者ではないから精霊の話し声は分からないが、こちらの声はどうやら通っているようで、話している途中何回も精霊が行動で示してくれている。

「要するに何故魔物が城に入ったかだ。城の周りには魔除けが施してあるから魔物は一匹として入れない。なら、魔術師、もしくは中の人間が手引きしか考えられないとなると、犯人はあの会場に潜伏していたわけだ」

精霊はクルクルと回転しながら目の前を漂う。

「思いたくないが、リリィもしくは俺の知り合いの可能性はある。そしてもう一つはリリィなのか、俺なのか、どちらを狙ってきたのか」

沢山の疑問、いずれ辿る道はこの腹に刻まれた術の謎に集約されるわけである。

「……いずれにせよ、この体が生きていることで損する奴がいるって訳だな」

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