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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第151話 王都を騒がす変質者(?)

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「しっかし、モリィシーにこんな出来の良い娘がいるとはねぇ。
 トンビが鷹を産んだって奴かい。
 初対面のうちの旦那にそんな貴重なモノを分けてくれるなんて。
 本当に心根の優しい良い子だね。」

 ジロチョー親分に元気が戻ると、オチョー姐さんが凄く感謝してくれたんだ。

「ええ、マロンは俺の自慢の娘ですから。
 実は、俺もマロンからその『水』を分けてもらったんです。
 三年程前にドジちまって、ずっとこのミンミンの村で世話になってたんですよ。
 その間、マロンとは離れ離れになっちまって…。
 俺、実は最近まで具合が悪くて、いよいよ危ねえかなと思ったんですよ。
 それで、死ぬ前に一目会いたくて、何とかマロンのいる町まで帰って来たんです。
 そしたら、俺の具合が悪いと知ったマロンが、それを分けてくれて。
 おかげで、今じゃあ、こうして普通に出歩けるようになったんですよ。」

 父ちゃんは、肘から先を失った左腕をぶらぶらさせながら言ったの。
 父ちゃんがおいらを本当に大切にしてくれているのがわかる、そんな言葉だったよ。

「おやそうなのかい、とてもそうは見えないね。
 片腕が無くなっちまってるんで、酷い怪我をしたのはわかったけど。
 今は凄く元気そうに見えるよ。
 それじゃあ、うちの旦那ももう少ししたら出歩けるようになるかね。
 でも、そんな大事な娘さんなら、王都にいる間は目を離すんじゃないよ。」

 オチョー姐さんのそんな忠告に、

「マロンから目を離すなって、王都で何か問題が起こっているんですか。」

 と、父ちゃんが問い返すと。

「いやそれがさあ…。
 最近、呆れたど変態が、王都を騒がしているのさ。
 マロンちゃんくらいの歳の女の子が一人で外を歩ているとね。
 いきなり、人気のない裏路地に引き込んで、パンツを脱がすらしいよ。
 そんな、幼女趣味のど変態が出没してるんだけど、街の衛兵は全然あてになりゃしない。
 そのど変態、栗毛色の髪の子供が趣味のようでね、マロンちゃん、どんぴしゃりだから。
 本当に、気を付けてあげなよ。」

 オチョー姐さんは、呆れ半分、心配半分みたいな口調で説明してくれたの。

 どっかで聞いたような話が出て来たよ。
 それって、この間、おいら達の町に来た連中と同じ手合いだね。
 きっと、『ウエニアール国』の国王が掛けた懸賞金目当てで、『お尋ね者』を探しているんだ。
 
 でも、いったい何で、八歳の女の子なんて探しているんだろう?

「そいつは、物騒だ。
 俺の大切なマロンが、そんなど変態の毒牙に掛ったら大変だぜ。
 オチョー姐さん、知らせてくれて有り難うございました。
 マロンを外で一人きりにしないように気を付けます。」

 まあ、おいら、一人で外へ出ることは無いから、心配する必要はないけどね。
 それに外を歩く時は、いつもとっても怖い用心棒アルトが付いているし。

    **********

「でも、王都にそんな物騒な人が出るんじゃ、おいらくらいの娘を持つ親御さんは不安だよね。
 また、王様の所に行って、厳しく取り締まるように言っておこうかな。」

 おいらが、マジにアルトを焚きつけて王様にねじ込んでやろうかと思っていると。

「あら、マロンちゃん、王様と面識があるの?
 平民で、子供なのに?」

 オチョー姐さんが、不思議そうな顔で尋ねてきたの。

「おいらが、というより、おいらが世話になっている『妖精の森』の長がね。
 アルトって言うんだけど。
 王様ったら、アルトを怒らしちゃって、酷くお仕置きされたんだ。
 それから、アルトには頭が上がらないんだよ。
 今回王都に来たのも、王様に要求を突き付けに来たんだ。
 ミンミン姉ちゃん達耳長族に手出しするのはご法度って、王様に誓わせたの。」

 おいらが、アルトと王様の関係を話すとオチョー姐さん、お腹を抱えて笑ってたよ。

「しっかし、お嬢ちゃん、えらいモノと懇意にしているんだね。
 まさか、『番外騎士団』を消し飛ばしちまったのが、その妖精さんだったなんて。
 王都では、一頃、その噂でもちきりだったんだよ。
 『番外騎士団』は誰に消されちまったのかってね。
 この国の王様は頼りないからね、少しはお灸を据えてやった方が良いんだろうよ。
 この間も、不甲斐ないところを見せてくれてね。」

 どうやら、オチョー姐さん達も国王から迷惑を被った一人みたいで、最近あったことを話し出したんだ。

 一月ほど前のことらしいんだけど、ガラの悪い五人組が『ドッチ会』に押し掛けて来たそうなの。
 どっかの冒険者ギルドのカチコミかと思わせるような、見るからにならず者という連中だったらしいよ。

「そいつら、いきなり押し掛けて来たかと思ったら。
 高飛車に、このギルドの中を検めさせろと言いやがった。
 ふざけるなっての。
 何で見ず知らずの人間に、自分ちを家捜しされなきゃならないんだって。
 私はそう言ってやったんだ。
 そしたら、連中、自分達は『ウエニアール国』の騎士団の者だなんて言うんだよ。
 私達に、旧王族の生き残りを匿っているという嫌疑が掛かっているとかぬかしやがる。
 ならず者のような風体をして、騎士団の者だってちゃんちゃらおかしいわ。
 だから、私は言ってやったんだ。
 『ここは、トアール国だよ、ウエニアール国の騎士団の命令に従ういわれはないね。
  どうしても家宅検めがしたければ、この国の王様の勅許状でも持ってくるんだね』って。」

 オチョー姐さんは、五人組にそう言って追い払ったんだって。
 後で塩を撒いたって言ってたよ。
 オチョー姐さんは、いかにもならず者って感じの五人組が騎士団員だなんて信じてなかったみたい。 
 王の勅許状を持って来いと言えば、騙りであれば二度と来ることは無いと思ったらしいの。

 そしたら…。

「呆れたことに、そいつら、本当に王の勅許状を持って来やがった。
 ご丁寧に、王宮の役人を伴なってね。
 私は呆れたよ。
 仮にも国王のお膝元で、堂々と他国の騎士団が『家宅検め』をしようと言うんだよ。
 しかも、何の証拠もなしに言い掛りをつけて。
 第一、仮に連中が言うように王族の生き残りを匿っていたとしても。
 この国の法じゃご法度じゃない訳だろう。
 何で、正論で突っぱねないのかと思ったよ、私は。
 あの王様、平民の前ではふんぞり返って威張ってるのに、まったく不甲斐ないよ。」

 オチョー姐さんは言うの。
 通常、トアール国の法に反していない場合、ウエニアール国の法に反していても咎める事は出来ないし。
 ウエニアール国の官憲がやって来て、ウエニアール国の法に反しているから捜査させろと言う理屈は通じないって。
 もちろん、ウエニアール国で法を犯して、トアール国に逃げ帰ってた場合は別だよ。
 ただ、その場合でもトアール国の許可を受けて捜査するのが決まりなんだって。

 ウエニアール国の騎士がやって来て、勝手に『家宅検め』をするなんて主権の侵害も甚だしいんだって。
 主権なんて言われてもどういう意味が分からないって言ったら。
 そんな勝手を認めるこの国の王様は、とんだ恥知らずだって。

「そいつら、この建物の隅から隅まで、蟻んこ一匹見落とさなさいくらい念入りに家捜ししていったよ。
 それで見つからないもんだから、隠し立てしたら容赦しないぞなんて脅しくる始末だ。
 私しゃ、言ってやったよ。
 あんたらのせいでうちは八年も前から開店休業状態だってね。
 そんなところへ誰が頼って来るもんかいって。
 まったく、腹が立つ。」

 オチョー姐さんは、そいつらのことを思い出して、今更ながらに腹を立ててたよ。
 どうやら、王家の生き残りがここいると言う具体的な情報があった訳では無いみたい。
 今の王が謀反を起こした時、『ドッチ会』が王族に肩入れしていたんで疑って押し掛けてきたようだって。

「しっかし、あの国の連中、八年も前のことで、今更何をバタバタしているのかねぇ」

 最後にオチョー姐さんは、そんな呆れ声を上げていたよ。
 ホント、今頃になって何をしているんだろうね。 
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