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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第222話 チャラいだけの兄ちゃんじゃなかった…

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 アルトに可愛い嫁さんを紹介しろと強請ったチャラいお兄ちゃんが現れたよ。
 この国の第二王子、シトラス兄ちゃん。
 耳長族のお姉ちゃんを嫁に寄こせと言っているの。

 金髪ロン毛で、少し垂れ目がちのシトラス兄ちゃん。
 正装を着崩していて見た目にいかにもチャラい感じがするの。
 王都の繁華街で客引きをしている『イケメン酒場』のニイチャンみたいな…。

「あんた、チャラいホストみたいななりして、随分なタヌキじゃない。
 私たち、妖精族に耳長族狩りに来るウエニアール国の愚か者を退治させようとは。」

 アルトは、ニコニコと笑みを浮かべながらシトラス王子の目の前に場所を移したよ。

「だって、奴ら、一応は使節団の形を取ってやってくるんだぜ。
 さっきの連中を見てるとダメと言っても聞く耳は持たないようだしぃ。
 面倒くさいことになるのが目に見えてるじゃん。」

 耳長族狩りをしようと言う者が、その辺の冒険者なら勅令に反したと死罪にしてしまえば良いけど。
 使節だなんて肩書を持っていると、そう簡単に死罪と言う訳にはいかないって。
 さっきのお爺ちゃんの話から受けた印象からすれば。
 そんなことしようもんなら、ウエニアール国の王は絶対にイチャモン付けてくるはずだって。

 だから、第二王子が耳長族を正妻としてお嫁さんに迎えるんだって。
 それによって耳長族が王家の庇護下にあることをハッキリと世間に示すと言うの。
 流石に、王家の庇護下にある耳長族を狩ろうと企てる輩は現れないだろうって。
 余程の愚か者じゃない限りね。

 それでも、分らないような愚か者には何を言っても無駄だし。
 さっきの愚か者みたいに、妖精族の力で消し去ってもらえたら有り難いって。
 妖精族の怒りをかって消される分には、シタニアール国へイチャモンをつけることは出来ないだろうからって。

「王家は、耳長族を一族に迎えることにより、耳長族の後ろ盾だと示せるじゃん。
 妖精の長さまの望み通り、耳長族が安心して出歩けるようにさせるって。
 妖精族はその王家を庇護のもとに置き、何かあったら手助けしてくれる。
 そして、俺は可愛い耳長族を嫁さんにもらえると。
 誰も損をしないナイスな案じゃん。
 ねえ、ねえ、だから、俺に耳長族のお姉ちゃんを紹介してくださいよ。」

 王様に断りもなく、王家が耳長族の後ろ盾になるなんて言っているシトラス兄ちゃん。

「あんた、『浮気はしないし、正妻一人を大切にする』と言ったけど。
 それを私に誓えるかしら。
 耳長族を嫁に迎えたら、あんたの好きな風呂屋通いも止めてもらうわよ。
 妖精に対する誓いを破ったらどうなるかは分かっているのでしょうね。」

「誓う、誓う、もう俺の下半身は耳長族の嫁専用にしちゃうぜ。
 俺も、消し炭にされるのは嫌だから、裏切りはしないって。」

 シトラス兄ちゃんはそんな調子の良いことを言ってるけど…。
 全身から漂うチャラいオーラが、いまいち信用できない雰囲気を醸し出しているの。

「ねえ、王様、こいつ、こんな事を言ってるけど…。
 耳長族をこいつの正妻に迎えるのはかまわないかしら。
 王家が耳長族の後ろ盾になると誓える?」

「まあ、そやつにも、そろそろ身を固めてもらわねばと思っていたところですし。
 耳長族の後ろ盾になるのもやぶさかではございませんが…。
 よろしいのですか、そやつ、筋金入りの遊び人ですよ。
 調子の良いことを言って、耳長族の正妻を迎えておいて、…。
 他の娘に手を出したあげく、アルトローゼン様の怒りをかうのではと心配なのですが。」

 父親に、『筋金入りの遊び人』って言われる息子って、どうなのよ。
 しかも、王族で…。

「それなら、心配しないで良いわ。
 あのチャラ王子が、おイタしないように監視をつけるから。
 チャラ王子の思惑に乗るようで癪だけど、ついでにこの王家を護ってあげるわ。」
 
 そんな訳で、予定外だけど耳長族のお姉ちゃんを一人お嫁さんに出すことにしたの。
 もちろん、連れてきた五人の中に希望者がいればだけどね。

     **********

 アルトは、いったん自分の『積載庫』の中に消えると、耳長族のお姉ちゃんを五人共連れて出て来たよ。
 意外な事に、気弱で真面目そうなイナッカ辺境伯の跡取り息子より、このチャラ王子の方が人気があったみたい。
 イナッカ辺境伯の時は出てこなかったお姉ちゃんも出て来た。
 確かに、イケメンではあるけど…、チャラい感じで、おいらはなんかイヤだな。

「ここにいる五人、この中にあんたが正妻にと望む娘がいれば言ってちょうだい。
 一応、あなたのもとに嫁に行っても良いという意向は確認してあるから。」

 アルトがそう告げた途端、シトラス兄ちゃんは一目散に動いたの。
 一番、若く見えるお姉ちゃんの前に…。

「わお! 俺の理想通りじゃん。
 ねえ、ねえ、彼女、名前、何て言うの?
 俺はシトラスってんだ、この国の第二王子。
 俺、今、嫁さん募集中なんだ。
 俺のところへ嫁に来てくれない、大切にするからさー。」

 そんな真剣味の無いプロポーズの言葉を吐くと、シトラス兄ちゃんは耳長族のお姉ちゃんの手を取ったの。

「あんた…、もう少し誠意が感じられる求婚の仕方は出来ないの。
 見なさい、その娘、引いちゃっているじゃない。」

「そうか?
 まあまあ、固いこと言わなくて良いじゃん。
 俺、絶対に浮気なんてしないから、俺のところに嫁に来てちょ。」

 軽薄はシトラス兄ちゃんのプロポーズに、アルトは呆れていたけど。
 シトラス兄ちゃんは、そんなアルトにはおかまいなく求婚を続けたんだ。
 お姉ちゃんが、首を縦に振るまで延々と…。

 「君だけだ」とか、「絶対他の女性には目移りしない」とか並べていたけど。
 言えば言うほど、嘘くさく感じたのはおいらだけかな。

 耳長族のお姉ちゃんにウンと言わせて、ホクホク顔のシトラス兄ちゃん。
 そんな満足そうなシトラス兄ちゃんに、アルトは言ったんだ。

「あんた、あれだけ調子良いことを並べ立てたんだからね。
 その娘を大切にしないと赦さないわよ。
 ご希望通り、私の里の者を少しこっちに移住させるわ。
 あんたの監視とその娘の護衛のためにね。
 あんたが約束を守って良い子にしていれば。
 ついでにここの王家も護るように指示しておくわ。」

「妖精の長さま、サンキュー!
 俺が誓約さえ違えなければ、妖精さんがうちを護ってくれるんだね。
 これで、王家は安泰じゃん。
 俺は、いつまでも若い嫁さんが貰えたし。
 妖精の長さまがやって来て、ホント、ラッキーだったよな。」

 こいつ、アルトが来て良かったみたいに言ってやんの。
 ついさっき、自分の父親が床に引きずり降ろされて首に剣を突き付けられていたのに。
 その言葉を聞いて、王様は白い目でシトラス兄ちゃんを見ていたよ。

 この後、アルトは王様と相談して、王宮の裏にある森に新たな『妖精の里』を作ると言ってた。
 アルトの森から、妖精を百人くらいそこに移すって。
 レベル百以上になって、そろそろ自分の里を持っても良い妖精が何人かいるからちょうど良かったって。
 その中から、一人を新しい里の長に据えると言ってたよ。

 こうして、アルトはシトラス兄ちゃんにハメられて、ここの王家を庇護下におくことになったんだ。
 シトラス兄ちゃん、チャラそうに見えて、実は相当の策士みたい。
 
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