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第9章 王都の冬
第238話 精霊の森へようこそ
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エルフリーデちゃんをお誘いした二日後、わたし達は精霊の森にある屋敷に行くために魔導車に乗っている。
え、魔導車では行けないだろうって?
だって、みんな、せっかく行くのなら泊りがけで行きたいと言うのだもの。
外泊届けもなしに寮生が七人もいないことがわかったら大騒ぎになっちゃう。
ということで、ちゃんと外泊届けを出して魔導車で出かけることにしたの。
こうすれば出掛けたという事がわかるでしょう。
目的地は王宮、精霊の泉から新しい精霊の森に飛ぶの。
ちなみに、エルフリーデちゃん達にはどうやって行くのかは言っていないよ。
ルーナちゃんが、みんなをビックリさせようって言うから…。
**********
わたし達を乗せた魔導車は王宮の正門を潜り王室の居住区画である奥の宮の方に向かう。
車窓から外の様子を眺めていたエルフリーデちゃんの表情が険しくなった。
「ターニャちゃん、私の見間違えでなければこの車、奥の宮に向かっている様に見えますが。」
「うん、そうだよ。」
「奥の宮は王室の方以外は馬車や魔導車を乗り入れることは出来ないはずです…。
いえ、それ以前に奥の宮への立ち入りは表の宮の受付を通らなければいけないはず、この道で直接入ることは私のお父様でもできないはずですが?」
「そうなの?いつもここを通っているけどそんなの初めて聞いたよ。
大丈夫じゃない、この先でフローラちゃんが待っているはずだから。」
「フローラ様に話を通してあるのなら最初に教えてください。心臓に悪いですわ。」
フローラちゃんと約束してあると聞いてエルフリーデちゃんはやっと表情を緩めた。
この道を通るのってそんなに大変なことなの?ミルトさんもフローラちゃんも何も言ってなかったよ。
「でもなんで王宮なのですか?フローラ様を迎えに来たのですか?」
「本当は寮から出る必要なかったの、フェイさんとミツハさんの術で精霊の森まで行けるから。
でも、寮から外出した様子がないにもかかわらず、わたし達がいないことが寮監に知られたら大騒ぎになるでしょう。
だから、ちゃんと外出届を出して魔導車で出かける体裁をとったの。
外出届にはフローラちゃんのところへ泊まりに行くことにしてあるよ。」
「外出届、行き先を王宮にしてあるのですか?それはまた大胆な…。」
そうか、エルフリーデちゃんみたいな大貴族でも、王宮って気軽に遊びに行く所じゃないんだ。
なんだかんだで、しょっちゅう来ているのでそんな事思いもしなかった。誰も教えてくれないし…。
そして、奥の宮の正面エントランスの前を通り過ぎて、魔導車は更に奥へ行く。
「ターニャちゃん、今、奥の宮の入り口を過ぎませんでしたか?
さすがに、王室のプライベートゾーンへ車で入り込むのはマナーとして如何なものかと…。」
そんな事を言っても精霊の泉まで歩くと結構あるよ、広い奥の宮の最奥にあるんだもの。
それに王宮の中から行くと精霊の泉に出られるのは、王様の書斎からテラスへ出る扉だけだよ。
王様の書斎を通路のように使うことの方が恐れ多いと思うけど…。
そうこうしている間に精霊の泉のある広場に到着する、そこには既にフローラちゃんとミルトさんの姿があった。
「おはようございます、ミルトさん、フローラちゃん。今日はよろしくお願いします。」
「はい、おはようございます、ターニャちゃん。こちらこそ今日はよろしくね。楽しみだわ、お風呂。」
「「「「えっ、皇太子妃殿下…?」」」」
わたしがミルトさんと挨拶を交わしているとミルトさんを見たみんながわたしの後ろで絶句している。
エルフリーデちゃんがわたしの袖を引き耳元で囁いた。
「なんでここに皇太子妃殿下が?」
「ああ、精霊の森は普通の人は立ち入れないので絶対安全なんだけどね。
貴族のお嬢様を連れて子供だけで外泊というのは拙いかなと思って付き添いを頼んだの。」
「付き添いって、この国で五指に入る権力者に頼むことではないでしょうに。」
「でも、ミルトさん以外の大人は精霊の森に入れないもの。」
わたしとエルフリーデちゃんがこそこそと話をしているとミルトさんが言った。
「私のことは気にしなくてもいいわよ、付き添いと言っても形だけだから。
せっかく雪から開放されて自由に動きまわれるのだから思いっきり楽しみなさい。
わたしはお風呂でのんびりさせてもらうわ。
そうそう、せっかくの自由時間なのだから、皇太子妃殿下はやめてちょうだいね。
ターニャちゃんみたいにミルトさんでもいいしい、ミーナちゃんみたいにミルトおば様でもいいわ。
好きに呼んでちょうだい。」
ミルトさんは気さくに言うが、エルフリーデちゃん達の緊張は解けていないみたい。
まあ、そのうち慣れるでしょう。
そして、わたし達は精霊の泉の畔まで歩みを進めた。
***********
「それじゃあ、フェイさん、ミツハさん、スイちゃんの三人にお願いして、この泉と新しい森に作った泉の間に『精霊の道』を通してもらうから、道を通り抜けるときは絶対にフェイさんたちの手を離さないでね。」
わたしは今回の十人を二人ずつ五組に分け、それぞれ上位精霊と手を繋いで『精霊の道』を渡ることにする。フェイさんとミツハさんには二往復してもらうよ。
「『精霊の道』、なんですのそれ?」
エルフリーデちゃんが首を傾げる。
「ああ、説明されてもわたしも分らないから気にしない方が良いよ。
泉と泉の間を特殊な道で繋いだと思っておいて、忘れてはいけないのは絶対に精霊から手を離してはいけないと言うこと。
あっという間に着くからきっと驚くよ。」
わたしは、フェイさんにエルフリーデちゃんの手を取るようにお願いし、フェイさんの反対の手を握る。わたしが最初に行ってみんなを出迎える形にしないとね、一応わたしがホストだから。
「じゃあ、フェイさん、お願いします。
エルフリーデちゃん、フェイさんの手を離さないでね。」
わたしの合図と共にフェイさんは一歩泉に足を踏み出し、わたし達は一瞬底が抜けて落下するような感覚に捕らわれた。
そして、次の瞬間には目の前に花が咲き誇る屋敷の庭があった。
「なんか心臓に悪いですわ、一瞬奈落の底に落ちるような気がしましたわ。」
そう言って、膝の震えが止まらないのか膝に手をあて俯いていたエルフリーデちゃんだったけど、やがて顔を上げると今度は目の前に広がる光景に絶句してしまった。
「すごい、なにこれ…。」
呆然としているエルフリーデちゃんにわたしは告げた。
「精霊の森へようこそ!」
え、魔導車では行けないだろうって?
だって、みんな、せっかく行くのなら泊りがけで行きたいと言うのだもの。
外泊届けもなしに寮生が七人もいないことがわかったら大騒ぎになっちゃう。
ということで、ちゃんと外泊届けを出して魔導車で出かけることにしたの。
こうすれば出掛けたという事がわかるでしょう。
目的地は王宮、精霊の泉から新しい精霊の森に飛ぶの。
ちなみに、エルフリーデちゃん達にはどうやって行くのかは言っていないよ。
ルーナちゃんが、みんなをビックリさせようって言うから…。
**********
わたし達を乗せた魔導車は王宮の正門を潜り王室の居住区画である奥の宮の方に向かう。
車窓から外の様子を眺めていたエルフリーデちゃんの表情が険しくなった。
「ターニャちゃん、私の見間違えでなければこの車、奥の宮に向かっている様に見えますが。」
「うん、そうだよ。」
「奥の宮は王室の方以外は馬車や魔導車を乗り入れることは出来ないはずです…。
いえ、それ以前に奥の宮への立ち入りは表の宮の受付を通らなければいけないはず、この道で直接入ることは私のお父様でもできないはずですが?」
「そうなの?いつもここを通っているけどそんなの初めて聞いたよ。
大丈夫じゃない、この先でフローラちゃんが待っているはずだから。」
「フローラ様に話を通してあるのなら最初に教えてください。心臓に悪いですわ。」
フローラちゃんと約束してあると聞いてエルフリーデちゃんはやっと表情を緩めた。
この道を通るのってそんなに大変なことなの?ミルトさんもフローラちゃんも何も言ってなかったよ。
「でもなんで王宮なのですか?フローラ様を迎えに来たのですか?」
「本当は寮から出る必要なかったの、フェイさんとミツハさんの術で精霊の森まで行けるから。
でも、寮から外出した様子がないにもかかわらず、わたし達がいないことが寮監に知られたら大騒ぎになるでしょう。
だから、ちゃんと外出届を出して魔導車で出かける体裁をとったの。
外出届にはフローラちゃんのところへ泊まりに行くことにしてあるよ。」
「外出届、行き先を王宮にしてあるのですか?それはまた大胆な…。」
そうか、エルフリーデちゃんみたいな大貴族でも、王宮って気軽に遊びに行く所じゃないんだ。
なんだかんだで、しょっちゅう来ているのでそんな事思いもしなかった。誰も教えてくれないし…。
そして、奥の宮の正面エントランスの前を通り過ぎて、魔導車は更に奥へ行く。
「ターニャちゃん、今、奥の宮の入り口を過ぎませんでしたか?
さすがに、王室のプライベートゾーンへ車で入り込むのはマナーとして如何なものかと…。」
そんな事を言っても精霊の泉まで歩くと結構あるよ、広い奥の宮の最奥にあるんだもの。
それに王宮の中から行くと精霊の泉に出られるのは、王様の書斎からテラスへ出る扉だけだよ。
王様の書斎を通路のように使うことの方が恐れ多いと思うけど…。
そうこうしている間に精霊の泉のある広場に到着する、そこには既にフローラちゃんとミルトさんの姿があった。
「おはようございます、ミルトさん、フローラちゃん。今日はよろしくお願いします。」
「はい、おはようございます、ターニャちゃん。こちらこそ今日はよろしくね。楽しみだわ、お風呂。」
「「「「えっ、皇太子妃殿下…?」」」」
わたしがミルトさんと挨拶を交わしているとミルトさんを見たみんながわたしの後ろで絶句している。
エルフリーデちゃんがわたしの袖を引き耳元で囁いた。
「なんでここに皇太子妃殿下が?」
「ああ、精霊の森は普通の人は立ち入れないので絶対安全なんだけどね。
貴族のお嬢様を連れて子供だけで外泊というのは拙いかなと思って付き添いを頼んだの。」
「付き添いって、この国で五指に入る権力者に頼むことではないでしょうに。」
「でも、ミルトさん以外の大人は精霊の森に入れないもの。」
わたしとエルフリーデちゃんがこそこそと話をしているとミルトさんが言った。
「私のことは気にしなくてもいいわよ、付き添いと言っても形だけだから。
せっかく雪から開放されて自由に動きまわれるのだから思いっきり楽しみなさい。
わたしはお風呂でのんびりさせてもらうわ。
そうそう、せっかくの自由時間なのだから、皇太子妃殿下はやめてちょうだいね。
ターニャちゃんみたいにミルトさんでもいいしい、ミーナちゃんみたいにミルトおば様でもいいわ。
好きに呼んでちょうだい。」
ミルトさんは気さくに言うが、エルフリーデちゃん達の緊張は解けていないみたい。
まあ、そのうち慣れるでしょう。
そして、わたし達は精霊の泉の畔まで歩みを進めた。
***********
「それじゃあ、フェイさん、ミツハさん、スイちゃんの三人にお願いして、この泉と新しい森に作った泉の間に『精霊の道』を通してもらうから、道を通り抜けるときは絶対にフェイさんたちの手を離さないでね。」
わたしは今回の十人を二人ずつ五組に分け、それぞれ上位精霊と手を繋いで『精霊の道』を渡ることにする。フェイさんとミツハさんには二往復してもらうよ。
「『精霊の道』、なんですのそれ?」
エルフリーデちゃんが首を傾げる。
「ああ、説明されてもわたしも分らないから気にしない方が良いよ。
泉と泉の間を特殊な道で繋いだと思っておいて、忘れてはいけないのは絶対に精霊から手を離してはいけないと言うこと。
あっという間に着くからきっと驚くよ。」
わたしは、フェイさんにエルフリーデちゃんの手を取るようにお願いし、フェイさんの反対の手を握る。わたしが最初に行ってみんなを出迎える形にしないとね、一応わたしがホストだから。
「じゃあ、フェイさん、お願いします。
エルフリーデちゃん、フェイさんの手を離さないでね。」
わたしの合図と共にフェイさんは一歩泉に足を踏み出し、わたし達は一瞬底が抜けて落下するような感覚に捕らわれた。
そして、次の瞬間には目の前に花が咲き誇る屋敷の庭があった。
「なんか心臓に悪いですわ、一瞬奈落の底に落ちるような気がしましたわ。」
そう言って、膝の震えが止まらないのか膝に手をあて俯いていたエルフリーデちゃんだったけど、やがて顔を上げると今度は目の前に広がる光景に絶句してしまった。
「すごい、なにこれ…。」
呆然としているエルフリーデちゃんにわたしは告げた。
「精霊の森へようこそ!」
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