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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第386話 やばい、ここで暴動になったら収拾がつかないよ…

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 結論としてわたし達を乗せた魔導車はケントニスさんの許に辿り着く事は出来なかった。
 だって、大使館から帝都の宮殿に行く途中にシュバーツアポステル商会の本店があるんだもの。

 これは、みんなも知らなかったようで、リタさんがいつも皇宮へ向かう道を通ったら人ごみに嵌まってしまった。
 しかし、あいつら本当に良い場所に本店を構えているな、皇宮が目と鼻の先に見えるじゃない。
 きっと、我が物顔で皇宮の中も歩いているんだろうな。

 やむをえず、魔導車をソールさんに任せ、リタさんはフェイさんをお供に歩いて皇宮へ向かうことにしたの。
 わたしは皇宮に入る訳にはいかないので、魔導車で留守番しているつもりだったのだけど、衛兵さんと『黒の使徒』の連中のにらみ合いの様子が知りたくて途中まで一緒に行くことにした。

 人ごみを掻き分けて皇宮へ向かって歩いていると突然目の前が開けた。
 どうやら、住民たちは衛兵さんと『黒の使徒』の睨み合いを遠巻きに見ているようで、最前列まで辿り着いたらしい。

 目の前には『黒の使徒』の一団がシュバーツアポステル商会の建物に対峙している。その数は二十名ほどだろうか。

 半数ほどはいつでも魔法を放てるようにして待機している。例によって虚仮脅しに最適な火の魔法だ。

 その中で、一番建物に近い位置にいる男が衛兵さんに向かって叫んでいた。

「何度言えばわかるのだ!
 そこは我らが『黒の使徒』が経営する商会である。
 衛兵如きが手を出して許されるものではないのだぞ。
 即刻、商会の一同を開放し、我々の前で謝罪するのだ。
 今詫びを入れるのであれば、衛兵隊長一人の首で赦してやろうと言っているではないか。」

 相変わらず居丈高な物言いだ、この人達は周囲の視線を気にしないのだろうか。
 衛兵さんは犯罪者の摘発に動いただけなのに、それを咎めるというのはどういう了見だろうか。

「おまえらこそ、こいつ等と共犯と看做されたくないのなら即刻解散して、道を開けろ。
 おまえ等がそこにいるから野次馬が集まって往来が滞っているではないか。
 こちらは衛兵の詰め所に放火を企てた組織に対して、家宅捜査を行ったいるのだ。
 衛兵の正当な業務を妨害するのであれば、おまえらも公務執行妨害で捕縛してもいいのだぞ。」

 建物の二階の窓から顔を出した衛兵さんが強気な発言を返してきた。
 周りの民衆からは「良いぞ、よく言った」とか「こんな奴らに負けるな」とかいう歓声が上がったよ。

「何を戯けたことを申すか。
 もし、そこの者達が衛兵の詰め所に火を放ったと言うのであれば、それには正当な理由があったのであろう。
 『黒の使徒』に属する者は神の代行者である。その行いは全てが正しきことなのだ。
 それをおまえらの決まりしたがって裁こうなどとは不遜も甚だしいぞ。
 つべこべ言わずに商会の者を全員解放し、おまえらはここで謝罪すれば良いのだ。」

 『黒の使徒』の思い上がった発言に周囲の不穏な空気は高まっていく。これは拙い…。
 これだけの人が無秩序に暴れたら収拾がつかなくなっちゃう。

「何が、自分達の行いが正しいだ、思い上がりもいい加減にしろ。
 この事務所の中から、シュバーツアポステル商会の商売敵を殺害した証拠を押収したぞ。
 それに今帝都で問題になっている小麦の不正な払い下げに関する証拠も掴んだ。
 シュバーツアポステル商会が小麦の取引で不正に得た利益の行き先も分かった。
 半分近くがおまえら『黒の使徒』に流れているじゃないか。
 盗人猛々しいというのはこのことだな。」

 そうして、衛兵さんは紙束を手に幾つかの殺人に関するシュバーツアポステル商会に残されていた覚え書を読み上げた。
 少しは弱腰になるかなと思ったが、さにあらず。
 『黒の使徒』の男はさも当然のことであるかのように言ったの。

「それがどうかしたのか?
 シュバーツアポステル商会に敵対することは、それすなわち神の代弁者たる『黒の使徒』に敵対することだ。
 神罰が下るのは当然であろう、我々が神の代行者として神罰を与えたのだ。何が問題ある。
 小麦取引の不正だと?何を戯けたことを言う。
 不正などではなく小麦の価格に神に対する寄進を乗せた正当な価格ではないか。
 シュバーツアポステル商会が一手に引き受けなくて、誰が寄進を取りまとめると言うのだ。
 民衆も国教である『黒の使徒』に奉仕できるのだ、感謝して欲しいぐらいだ。」

 どうしてここまで強気になれるのだろうか?
 傍から見ているわたしの方がビクついてしまうよ。だって、今にも暴動が起こりそうなんだもの。

 わたしが不安になっていると、王宮方面から人ごみを掻き分けてやってきた一団が見えた。
 その数百人ほど、みな完全武装に見える。


     **********


「道を開けんか!愚民ども!」

 そう叫びながら現われたのには見事に『色の黒い』人だった。
 その男は、『黒の使徒』の一団の許に辿り着くとこう言ったの。

「司祭様、ご無事でしたか?」

「おお、そなたは確か魔導部隊の中隊長ではないか。
 お勤めご苦労であるな。
 衛兵隊の愚か者共が『黒の使徒』の縁の商会を罪人として摘発しようとしておって、困っていたところだ。
 少しお灸を据えてやってもらえぬかな。」

「それは大変ご迷惑をお掛けしました。
 即刻、身の程知らずの衛兵どもを成敗して見せましょう。」

 そんな、会話を聞いた民衆が黙っているわけがない。

「ふざけるな、おまえら兵隊はそんな無法者の味方をするのか!」

「成敗するのは衛兵ではなくそいつ等だろう!」

「民衆を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

 等々、そんな罵声が『黒の使徒』と魔導中隊に浴びせ掛けられた。

「うるさいぞ、愚民ども!
 そんなところに集まっていると任務の邪魔だ。
 即刻解散しろ!」

 と中隊長が恫喝すると共に、複数の隊員から火の玉の魔法が民衆に撃ち込まれた。
 こいつ等もチンピラとやることは同じか…。
 わたしは呆れつつ、風のおチビちゃんにお願いし、全ての火の玉を上空高く吹き上げてもらった。
 向こうがワンパターンだと、此方も機械的に対応できて楽だね。

「なに!」

 中隊長は目を疑ったようだ。民衆へ向けて放った火の玉が突然の強風で上空に巻き上げられたのだから。

 そろそろ、収拾に動きますかね。
 本当は、まだこのタイミングで表に出る気はなかったのだけど仕方がない。
 何もかもが、此方の思い通りに進むわけではないからね。

「あんな大きな火の玉を人混みに投げ込んだら危ないでしょう。
 シャレになっていないわよ。」

 わたしはそう言いながら、『黒の使徒』と魔導中隊の連中に向かって歩いていった。



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