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53.見せて、アキ
しおりを挟むブワッと身体全体を襲う、何かを感じた途端。
炙られたかのように、身体が火照りだした。
「──は? えっ?」
心臓が突然、すごい勢いでバクバク言い始めたんだけど。
え? え? え? 怖っ! 何これ…っ!
吸い込む息が。
甘くて重い───?
「はっ、はぁっ。……ちょっ、え…っ?」
「大丈夫。怖がらなくていい。そのまま息を吸い込んで」
(なんで息ッ!?
こんな時に何言ってんの? 頭おかしいの!?)
……あっ! 深呼吸か!!
落ち着けってこと?
確かに脈拍の乱れ方がやべぇ。
粘着く空気のせいで、勝手に息が乱れてくる。てか吐き出す息が熱い。
あー、もう。頭がくらくらする。
自分の呼吸に集中出来ねぇ。
このまま、酸欠で死ぬんじゃねーか?
何気なく思い浮かんだ自分の言葉に、ゾワッとした。
(なにそれ怖ッ! 怖ぁあああ!!)
洒落になんねぇからっ。嫌な想像のせいで、余計に焦りと息苦しさが強くなったわボケッ。
クソッ。落ち着け俺!!
とにかく生き残りたいなら、吸って吐いてを繰り返すしかねえ!
よし!と気合を入れるけど。
今度は焦っているせいか、息がスムーズに吸い込めねぇ。
いや、吸えてる……? 浅いから苦しいだけか?
待って。そもそも今って息吸ってる? それとも吐いてんの?
やばいやばいやばい。
考えれば考えるほど、頭がグルグルしてきて、わけが分からなくなってきた。
マジかっ。完全に頭がパニックなんですがっ!?
救いを求めるように上に被さる悠を仰ぎ見る。
んんん? 何だか視界がグニャグニャする。
うわ…、目が回って悠の顔がよく見えねぇ。
「悠…ゆう…、やばい…。おれ、死ぬ……」
「フェロモン酔いを起こしているだけだ」
「……ふぇろもん?」
って、何だっけ?
言葉が頭の上を滑っていくみたいだ。
「アキの理性を剥がす為に、肌にも感じとれるくらい、フェロモンの濃度を上げている。……βに執着したがるアキには悪いけど、オレは本能を剥き出しにしたアキの姿が見てみたい」
「なに言って……」
「見せて、アキ」
ギュッと腕に力を込めながら、悠が俺の身体を抱きしめてきた。
頭ん中がふわふわするせいで、悠の言ってることの半分も理解出来ない。
ただ……密着した悠の身体からは、すげー甘い匂いが漂っている。
なんか──…
さっきから頭の片隅で、耳障りな警鐘が鳴り響いてんだけど。
匂いに意識が傾きそうになるたびに、音がデカくなっている気がする。何だよ、嗅ぐなってことか?
でもそれを無視してでも、悠の匂いが嗅ぎたくてしょうがねぇ。
抗うには過ぎる欲求に突き動かされるように、悠の首元に顔を埋めて、思い切り息を吸い込んだ。
(ん───っ!んん…っ、甘ッッ……!)
さっきは吸えないってパニックに陥っていたけど、匂いを嗅ごうとしたら、めっちゃ簡単に息が吸い込めた!
吸い込めたのはいいけど、何この匂い!?
めちゃくちゃ甘ぇっ。
匂いの濃さに、溺れそうなんだけど。──いや、溺れるってか圧倒されてんのか?
よく分かんねーけど、とにかく息は吸えてる。良かった。
ホッとしたのか、強張っていた身体の力が、一気に抜け落ちる。
大好きな悠の香りに包み込まれているせいか、リラックス効果が半端ねぇ。
「は──ぁ…っ」
空気が甘すぎるせいか、安堵の吐息まで妙に甘ったるく聞こえる。
こんなに甘いと胸焼けしそう──って、んん?
何か俺、すげーハァハァ言ってない?
リラックスどころか、身体が変だ。
腹の底からせり上がってくる衝動のせいで、また息が乱れ始めている。
(うぅう、腹ん中が熱いっ。張り付くような空気のせいで、肌がビリビリする )
この感覚、何か覚えがある。
その時も皮膚呼吸が出来なくなったみたいに、身体に熱がこもって苦しかったような……。
だめだ。しっかり思い出せねぇ。
頭が沸騰したみたいにグラグラ茹だっている。
原因はこの匂いだって分かっているのに、嗅ぐのを止められない。
「はぁっ、はぁっ。ゆう、ゆうっ」
何で俺、悠の名前なんか連呼してんの?
うぅう、乳首の辺りがムズムズする。
プクッと膨らみながら押し上げてくるむず痒さに、我慢出来ずにダルい腕を持ち上げた。
そのまま胸を掻き毟るかと思いきや、何故か悠の腕に指を這わせている。
いや、胸つき出す前にさっさと掻けよ。
もう自分でも自分の行動が謎すぎる。
頭と身体が、バグを起こしてるみてぇ。
「ゆう…っ、ゆう……っ」
(なぁっ。だから何で媚びた声なんか出してんの。キモッ!)
俺の切羽詰まった声に反応するように、肩口に押し当てていた顔を上げて、悠がこっちを見てくる。
(あ……、なに……?)
悠の顔を見た瞬間から、どうしようもなく目が逸らせなくなった。
瞬きする間さえ勿体ない。
全身が心臓になったみてぇ。血液が沸騰する。
なんだ、コレ……。匂いのせい?
でも前に経験した時は、こんなんじゃなかったよな。
こみ上げてくる衝動が全然違う。
甘さは似ているけど、こんな震えが来るような感情には支配されてなかった。
どうしよう……。
目の前にいる悠が、すげー『欲しい!』
今すぐ全部攫ってしまいたい。悠以外いらない。
悠が欲しすぎて、このまま抱いてやってもいいって気になってきた。
いや。きたってか、むしろもう抱く!
男に興味なんか全くないけど、今の悠ならメチャクチャ抱けそう。
そう思ったら身体が勝手に動いていた。
全身が『欲しい』という言葉に支配された途端、ダルかった身体が嘘のように俊敏な動きを見せる。
俺の様子を伺うように静かに見つめていた悠の襟首を掴んで引き寄せると、身体を反転させて自分の下に組み敷いてやった。
そのまま噛み付くようにキスをする。
「ゆう……っ」
「……んっ……アキ……」
何か言いかけた悠の言葉を飲み込むように、深く口付ける。
興奮しすぎてちんこが痛ぇ……!
ああもう、何でお前の舌ってこんなに甘いの!
今すぐ突っ込みたいのに、唇から離れられねぇよ。
夢中になり過ぎるあまり、時折勢いあまって歯がガツッと当たっても、興奮して唇を噛んだりしても、悠は大人しくされるがままだ。
そんな悠に甘えるように舌と歯を使いながら、触れられる部分全てを味わった。
「……っはぁ……はぁ……」
ふやけそうなほど犯していた唇の中から、舌を引き抜く。
長いこと悠の口腔を蹂躙していたせいか、唾液の糸がお互いの舌を繋ぐように伸びている。
「……あ…っ」
零れ落ちる。と思った瞬間。
悠の腹筋にグッと力が籠もった。
そのまま俺の身体ごと上半身を起こすと、舌を使いながら唾液を掬い上げるように、俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
「ん……んん……っ」
さっきまでは俺が悠を押し倒していたってのに、気が付けば対面座位の姿勢になっていた。
おかしい。
主導権が完全に悠に移ってねーか、これ。
悠を抱くどころか、身動きが取れないくらいにしっかりと両腕で拘束されてしまっている。
背中と頭に回した手で俺を固定すると、今度は悠が貪るように深い口づけを繰り返してきた。
う……っ。
にゅるにゅると悠の舌が俺の舌を擦り上げる度に、背中がゾワゾワする。
堪えきれずに悠の腹筋に股間を擦りつけるように、腰が揺れてしまった。
あ、あ、あ……気持ちぃ──…。
噎せ返るほど甘い匂いを放つ悠に抱きしめられながらされるキスは、脳がグズグズに溶けてしまいそうなくらい、気持ちいい。
「……ん……悠ぅ…っ」
あぁもう、悠の全部が堪んない!
お前の匂い、マジでヤバいから!
俺の理性を崩壊させた事を後悔すんなよ!
今からお前の全部を手に入れてやる!
悠の胸板から腰に、掌を滑らせるように移動させると、上着の裾に手をかけた。
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