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だから彼女を好いていた(2)
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外では、まだ幼い子たちが元気に走り回っていた。
『ラティアーナ様、追いかけっこをしましょう』
五歳くらいの男の子に手をひかれて誘われたラティアーナは、すぐに子どもたちの輪に混ざる。
『きゃ~』
『ラティアーナさまが追いかけてくる~』
『にげろ~』
子どもたちの元気な声を聞きながら、ラティアーナも一緒に走り回る。
そうこうしていると、マザーが子どもたちを呼びに来た。
『おやつができましたよ』
『では、そろそろ中に戻りましょう』
ラティアーナの言葉に従う子どもたちは、一列に並んで中へと戻る。その一番後ろを歩くのはラティアーナだ。
『うわぁ、いいにおい』
食堂に入ると、ビスケットの甘いにおいが漂っている。
『ラティアーナ様に作り方を教えてもらったんだよ』
子どもたちはおやつの時間となる。
それを微笑みながら見送ったラティアーナは、マザーに挨拶をして神殿へと戻っていく。
彼女が孤児院へくるときは、遠くに神官の姿が見えた。それはラティアーナの護衛だったのだろう。
ラティアーナは孤児院で子どもたちに字を教え、おやつを共に作り、刺繍と編み物を行い、元気な子どもたちと外を走り回っていた。
それを終えると、子どもたちと一緒におやつを食べた。
些細な時間であるが、彼女はそれらを通して子どもたちに自立できる力を身に着けさせていたのだ。
本を読めば自然と文字を覚える。覚えた文字を書かせることで定着する。
おやつを作るのは、料理をするための基本事項を教えるため。刺繍や編み物は針子として働くために必要な技量であるし、外を走ることで体力をつける。
もちろん、子どもたち自身はそれに気づいていないし、もしかしたらマザーも気づいていないかったのかもしれない。
彼らが孤児院から出たときに、少しでも使える力を身に着けてほしいという思いがラティアーナにはあったのだ。
今ではデイリー商会のお針子として働いている少女は言う。
『ラティアーナ様のおかげで、こうやって仕事を得ることができました。針子としての仕事はもちろんですが、読み書きも少しはできますので』
ラティアーナが孤児院に足を運んだのは、たった二年であったのに、それでも子どもたちはめきめきと能力を身に着けていたのだ。
『ラティアーナ様が……聖女をおやめになったとお聞きしたのですが……』
彼女もどこか言いにくそうに尋ねてきた。それでもラティアーナがどうしているのか、気になっているのだろう。
ラティアーナが今、どこで何をしているのか、誰も知らない。神殿ですら把握していないのだから。
『そうなのですね……。ラティアーナ様には、感謝しても感謝しきれません』
彼女は静かに微笑んだ。
さらに、同じくデイリー商会で働いている少年も口にする。
『ラティアーナ様が孤児院に来て下さるようになったのは二年前ですが、それまでと僕たちの生活はがらりと変わりましたよ』
彼は体力があるため、主に商会で扱う商品の荷下ろしを行っている。
『それまでは、僕たちもマザーも。ひもじい思いをしていましたからね。ここだけの話ですが……』
そこで彼は少しだけ声を落とす。
『昔から寄付というものはあったらしいのです。だけど、その寄付は孤児院ではないところに流れていたみたいなんですよね。誰の寄付がどこにいっていたんでしょうね。不思議です』
そう言って首を傾げた彼は、本当に不思議そうに目を細くしていた。
『だけど、ラティアーナ様が孤児院に来てくださるようになってから、その寄付というものがきちんと届くようになったんです。最初の寄付と、届けられた寄付が同じところからのものかどうかはわからないですけど』
この子は賢い。
だがそこで、彼は商会の人間から呼ばれた。
『あ、すみません。もう、休憩時間が終わるので』
貴重な時間に付き合わせて悪かったと言うと、彼は『久しぶりにラティアーナ様の話ができて嬉しかったです』と、笑みを浮かべていた。
ラティアーナは孤児院の子どもたちから好かれていた。そして、同じくらい感謝されている。
ラティアーナは今、そんな子どもたちのことをどう思っているのだろう――。
『ラティアーナ様、追いかけっこをしましょう』
五歳くらいの男の子に手をひかれて誘われたラティアーナは、すぐに子どもたちの輪に混ざる。
『きゃ~』
『ラティアーナさまが追いかけてくる~』
『にげろ~』
子どもたちの元気な声を聞きながら、ラティアーナも一緒に走り回る。
そうこうしていると、マザーが子どもたちを呼びに来た。
『おやつができましたよ』
『では、そろそろ中に戻りましょう』
ラティアーナの言葉に従う子どもたちは、一列に並んで中へと戻る。その一番後ろを歩くのはラティアーナだ。
『うわぁ、いいにおい』
食堂に入ると、ビスケットの甘いにおいが漂っている。
『ラティアーナ様に作り方を教えてもらったんだよ』
子どもたちはおやつの時間となる。
それを微笑みながら見送ったラティアーナは、マザーに挨拶をして神殿へと戻っていく。
彼女が孤児院へくるときは、遠くに神官の姿が見えた。それはラティアーナの護衛だったのだろう。
ラティアーナは孤児院で子どもたちに字を教え、おやつを共に作り、刺繍と編み物を行い、元気な子どもたちと外を走り回っていた。
それを終えると、子どもたちと一緒におやつを食べた。
些細な時間であるが、彼女はそれらを通して子どもたちに自立できる力を身に着けさせていたのだ。
本を読めば自然と文字を覚える。覚えた文字を書かせることで定着する。
おやつを作るのは、料理をするための基本事項を教えるため。刺繍や編み物は針子として働くために必要な技量であるし、外を走ることで体力をつける。
もちろん、子どもたち自身はそれに気づいていないし、もしかしたらマザーも気づいていないかったのかもしれない。
彼らが孤児院から出たときに、少しでも使える力を身に着けてほしいという思いがラティアーナにはあったのだ。
今ではデイリー商会のお針子として働いている少女は言う。
『ラティアーナ様のおかげで、こうやって仕事を得ることができました。針子としての仕事はもちろんですが、読み書きも少しはできますので』
ラティアーナが孤児院に足を運んだのは、たった二年であったのに、それでも子どもたちはめきめきと能力を身に着けていたのだ。
『ラティアーナ様が……聖女をおやめになったとお聞きしたのですが……』
彼女もどこか言いにくそうに尋ねてきた。それでもラティアーナがどうしているのか、気になっているのだろう。
ラティアーナが今、どこで何をしているのか、誰も知らない。神殿ですら把握していないのだから。
『そうなのですね……。ラティアーナ様には、感謝しても感謝しきれません』
彼女は静かに微笑んだ。
さらに、同じくデイリー商会で働いている少年も口にする。
『ラティアーナ様が孤児院に来て下さるようになったのは二年前ですが、それまでと僕たちの生活はがらりと変わりましたよ』
彼は体力があるため、主に商会で扱う商品の荷下ろしを行っている。
『それまでは、僕たちもマザーも。ひもじい思いをしていましたからね。ここだけの話ですが……』
そこで彼は少しだけ声を落とす。
『昔から寄付というものはあったらしいのです。だけど、その寄付は孤児院ではないところに流れていたみたいなんですよね。誰の寄付がどこにいっていたんでしょうね。不思議です』
そう言って首を傾げた彼は、本当に不思議そうに目を細くしていた。
『だけど、ラティアーナ様が孤児院に来てくださるようになってから、その寄付というものがきちんと届くようになったんです。最初の寄付と、届けられた寄付が同じところからのものかどうかはわからないですけど』
この子は賢い。
だがそこで、彼は商会の人間から呼ばれた。
『あ、すみません。もう、休憩時間が終わるので』
貴重な時間に付き合わせて悪かったと言うと、彼は『久しぶりにラティアーナ様の話ができて嬉しかったです』と、笑みを浮かべていた。
ラティアーナは孤児院の子どもたちから好かれていた。そして、同じくらい感謝されている。
ラティアーナは今、そんな子どもたちのことをどう思っているのだろう――。
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