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だから彼女を好いていた(3)
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◇◆◇◆◇◆◇◆
サディアスは、ラティアーナが定期的に訪れていた王都のはずれにある孤児院を訪れていた。
以前は教会であった建物を、改装したものである。といっても小さな教会であったため、礼拝堂のあった場所は子どもたちがいっせいに集まる場所として使われている。
「サディアス様、わざわざ足を運んでくださいましてありがとうございます。子どもたちも喜びます」
そう言って彼を迎えてくれたのは、孤児院で働くマザー長である。孤児院で働く女性はマザーと呼ばれているが、それを取りまとめているのがマザー長なのだ。
「ラティアーナ様がいなくなられて、子どもたちも寂しがっておりまして……」
その一言でラティアーナがどれだけこの孤児院で慕われていたのかがよくわかる。
案内された場所は執務室の一画にある、応接の場。部屋数も少ないため、マザーたちが仕事をしている部屋の一画が、こういった客人を迎えるような場所となっている。もともと、教会の集会室であった場所だ。
整理された机が六つほど並んでおり、そこでマザーたちは事務仕事を行う。それは帳簿だったり、食事のメニュー表だったり。食料の在庫の確認や、子どもたちの衣類が足りているか。建物内に修繕の必要なところはないか。次のバザーには何を出すか。
そうやって、金は出ていき、金を手に入れる。些細な金の流れではあるが、孤児院にとっては大事な収支である。
この部屋には今、マザー長とサディアスの二人しかいない。他のマザーたちは、子どもたちに付き添っているのだろう。
「やはり、ラティアーナ様はこちらにはもう、来られていないのですか?」
もしかしたら、ラティアーナは孤児院にいるかもしれないし、孤児院を訪れているかもしれない。そんな淡い期待を抱く。
「そうですね。聖女様をお辞めになったと聞いてからは、お姿を見ておりません」
だが、期待していた答えは得られなかった。やはり、孤児院でさえもラティアーナの行方は知らないようだ。
彼女の足取りのヒントになるようなものはないだろうか。
「ラティアーナ様は、こちらでどのようなことをされていたのですか?」
「特別、かわったことはされておりませんよ。子どもたちに本を読んであげたり、一緒に遊んだりと、本当に些細なことです」
マザー長の穏やかな顔を見れば、ラティアーナがどのように思われていたのかがよくわかる。
「それに、さまざまなものも寄付いただきまして」
ラティアーナは、子どもたちの健やかな成長を願って、食料や服なども寄付していたようだ。
だが、サディアスはふと考える。
ラティアーナが寄付した物の出どこはいったいどこだろう。彼女は神殿で暮らしていたから、資金があるとは思えない。それに、両親も亡くなったと聞いている。
彼女が孤児院へ寄付していた物は、どうやって手に入れた物か。
そんな疑問が沸いてきたが、それを口にすればマザー長を悩ませるだけだ。サディアスはこの考えを、心の奥底にしまい込んだ。
だが、そんなサディアスの心境に気づきもしないマザー長は言葉を続ける。
「ラティアーナ様がこちらに来られるようになってから、子どもたちの生活もよくなりましてね。一番は食べ物です。三食しっかり食べられるだけでなく、おやつも与えることができるようになりました。ですがこのおやつは、子どもたちが作っているのですよ」
マザー長はそれが誇らしいのだろう。口の脇と目尻にしわができるほど、破顔する。
「本当にラティアーナ様にはなんて御礼を言ったらいいか……」
その言葉と彼女の表情を見れば、ラティアーナがどのように思われていたかだなんて一目瞭然である。
サディアスは、ラティアーナが定期的に訪れていた王都のはずれにある孤児院を訪れていた。
以前は教会であった建物を、改装したものである。といっても小さな教会であったため、礼拝堂のあった場所は子どもたちがいっせいに集まる場所として使われている。
「サディアス様、わざわざ足を運んでくださいましてありがとうございます。子どもたちも喜びます」
そう言って彼を迎えてくれたのは、孤児院で働くマザー長である。孤児院で働く女性はマザーと呼ばれているが、それを取りまとめているのがマザー長なのだ。
「ラティアーナ様がいなくなられて、子どもたちも寂しがっておりまして……」
その一言でラティアーナがどれだけこの孤児院で慕われていたのかがよくわかる。
案内された場所は執務室の一画にある、応接の場。部屋数も少ないため、マザーたちが仕事をしている部屋の一画が、こういった客人を迎えるような場所となっている。もともと、教会の集会室であった場所だ。
整理された机が六つほど並んでおり、そこでマザーたちは事務仕事を行う。それは帳簿だったり、食事のメニュー表だったり。食料の在庫の確認や、子どもたちの衣類が足りているか。建物内に修繕の必要なところはないか。次のバザーには何を出すか。
そうやって、金は出ていき、金を手に入れる。些細な金の流れではあるが、孤児院にとっては大事な収支である。
この部屋には今、マザー長とサディアスの二人しかいない。他のマザーたちは、子どもたちに付き添っているのだろう。
「やはり、ラティアーナ様はこちらにはもう、来られていないのですか?」
もしかしたら、ラティアーナは孤児院にいるかもしれないし、孤児院を訪れているかもしれない。そんな淡い期待を抱く。
「そうですね。聖女様をお辞めになったと聞いてからは、お姿を見ておりません」
だが、期待していた答えは得られなかった。やはり、孤児院でさえもラティアーナの行方は知らないようだ。
彼女の足取りのヒントになるようなものはないだろうか。
「ラティアーナ様は、こちらでどのようなことをされていたのですか?」
「特別、かわったことはされておりませんよ。子どもたちに本を読んであげたり、一緒に遊んだりと、本当に些細なことです」
マザー長の穏やかな顔を見れば、ラティアーナがどのように思われていたのかがよくわかる。
「それに、さまざまなものも寄付いただきまして」
ラティアーナは、子どもたちの健やかな成長を願って、食料や服なども寄付していたようだ。
だが、サディアスはふと考える。
ラティアーナが寄付した物の出どこはいったいどこだろう。彼女は神殿で暮らしていたから、資金があるとは思えない。それに、両親も亡くなったと聞いている。
彼女が孤児院へ寄付していた物は、どうやって手に入れた物か。
そんな疑問が沸いてきたが、それを口にすればマザー長を悩ませるだけだ。サディアスはこの考えを、心の奥底にしまい込んだ。
だが、そんなサディアスの心境に気づきもしないマザー長は言葉を続ける。
「ラティアーナ様がこちらに来られるようになってから、子どもたちの生活もよくなりましてね。一番は食べ物です。三食しっかり食べられるだけでなく、おやつも与えることができるようになりました。ですがこのおやつは、子どもたちが作っているのですよ」
マザー長はそれが誇らしいのだろう。口の脇と目尻にしわができるほど、破顔する。
「本当にラティアーナ様にはなんて御礼を言ったらいいか……」
その言葉と彼女の表情を見れば、ラティアーナがどのように思われていたかだなんて一目瞭然である。
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