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ここにいてくれないか?(3)

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 事務官の制服を着ているシャーリーである。彼女のこの姿を見るのは、ランスロットにとっても数十日ぶりだ。普段の簡素なドレス姿は可愛らしくて好きであるが、この制服姿は彼女を艶やかに見せる。

「あの……。シャーリーです。本日からお世話になります」

 扉を開けたまま、彼女はその場で頭を下げた。だが、ジョシュアに気づいたようで、そこからピクリとも動こうとしなかった。

「シャーリー、扉を閉めて中に入って来てくれ。それから、君の机は隣の資料室に準備した」
「ありがとうございます」

 もう一度頭を下げたシャーリーは、部屋の壁際を進みながらも、その真ん中で立ち止まった。それはジョシュアがじっと彼女の動きを視線で追っていたからだ。そうなれば、さすがに彼女も何か言わなければならないと思ったのだろう。

「あの。本日から事務官に復帰しましたシャーリー・コルビーです」

 彼女はジョシュアに向かって腰を折る。

「あ、うん。私のことは気にしないで。たまにこうやってランスのところに息抜きに来るだけだから」

 ジョシュアは笑いを堪えていた。堪えようとしていたが、堪えられなかったらしい。最後は笑っていた。

 シャーリーは困った様に苦笑を浮かべている。

「シャーリー。ジョシュアのことは気にするな。とりあえず、資料室に君の机はある」
「はい」

 シャーリーは壁際を歩きながら、資料室へと向かった。

「シャーリー。扉は開けておいてくれ。俺が君を呼ぶこともあるから」
「はい」

 資料室へと入った彼女を確認してから、ランスロットは目の前のジョシュアを睨んだ。

「いい加減、自分の部屋へ戻れ」
「お前……。本当にかわいそうな奴だな。シャーリーは、まだコルビーなんだな」

 ジョシュアが笑った原因は、彼女が名乗った姓が原因だったらしい。

「うるさい」

 ランスロットが顔を真っ赤にして答えると、ジョシュアはすっと席を立った。

「これ以上、ここに長居すると、そろそろ私の護衛に気づかれそうだから。逃げるよ」

 先ほどは警護が「迎えに来るまで」と言っていたにも関わらず、今度は「逃げる」だ。間違いなく、今の言葉の方が正解だろう。

 ジョシュアは「頑張れよ」と手をひらひらと振って部屋から出て行った。その背中を、ランスロットはちっと舌打ちをして見送った。

「シャーリー」

 ジョシュアの姿がいなくなったところで、ランスロットは彼女の名を呼んだ。

「はい」

 返事をした彼女は、隣の部屋から姿を現した。

「書類のやり取りはこのテーブルを使う。俺が君に確認して欲しい書類はこのテーブルの上に置いておく。だから君も、俺に渡す書類があるときはこのテーブルの上に置いておいてくれ」

 ランスロットはソファの前にあるローテーブルを指し示す。

「わかりました」
「事務室には顔を出したのか?」
「いえ。まだ」
「では、先にそちらに顔を出してこい。事務官たちも、君が復帰することを待っていたようだから。その間、俺は君に確認してもらいたい書類を準備しておく」
「ありがとうございます」

 彼女はまた頭を下げた。

 ランスロットはそれがもどかしかった。何かあるたびに、彼女は頭を下げる。その行為が、二人の間に壁を作っているようにも思えた。

 パタンと閉められた扉から目を離せずにいた。
 彼女との距離は、どうやって縮めることができたのか。ランスロットは過去に想いを巡らせる。
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