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あなたの妻にしてください
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【まえがき】
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です※
の2作目です。
1作目はネタに全振りしたので、2作目は王道、よくあるパターンで攻めました。
===============================
太陽がレナータ山脈に沈み始めるころ、街はオレンジ色に染められていく。マイリスは王城のバルコニーから眺めるこの風景が好きだった。この王城から扇形に広がる街並み。中心部は貴族たちの別邸と呼ばれるタウンハウスが立ち並び、そこから遠ざかるにつれ、庶民たちが住まう建物が密集している。だが、沈む太陽に染められている街は一つ。住んでいる者、住んでいる形は違っていても、この王都は一つの街。
夕焼けの時間。たまに、飛竜が王都の上空を飛び回る。飛竜はこのプレトニバ王国を守る神獣とも呼ばれている生き物。だが、今日は飛竜の姿は見えなかった。
「マイリス。ここにいたのか」
名を呼ばれ、マイリスは振り返る。そこにいたのは彼女の仮夫であるランバルト・ヴォルテル・プレトニバ。彼の黒い髪は夕焼けに染められて、真っ赤に見えた。
「ランバルト様も、共に夕焼けを見ませんか?」
マイリスが誘ったとしても、この仮夫が彼女の誘いにのった試しはない。
「少し風が出てきた。身体が冷える前に、中に入りなさい」
事務的にそう声をかければ、ランバルトは踵を返し、夕日を背に浴びながら部屋の中へと戻る。だが、マイリスはその仮夫の背を見送ることなく、街並みを見つめていた。マイリスの銀髪は風に弄ばれて、ひらひらと揺れている。
マイリスはランバルトの仮妻。マイリスとランバルトは仮婚の二人。
プレトニバ王族はなかなか子宝に恵まれない。だから、仮婚という期間を設けていた。仮婚期間の夫婦はそれぞれ仮夫と仮妻と呼ばれる。この仮婚期間に子を授からなければ、二人の縁は無かったことにされる。その後、仮夫は新しい仮妻を迎えるし、お役目を終えた仮妻は、そこそこいいところの男性の元に嫁がされる。嫁ぎ先も王族の仮妻を娶ったということは一つのステータスになるから、仮婚が失敗に終わったという噂を聞き付ければ、我こそはと仮妻を求める。
マイリスは次第に紫色に染まっていく空を見つめながら、小さく息を吐いた。マイリスはこのプレトニバ王国の者ではない。ここから、南にあるトロナ小国の第二王女であった。トロナ小国は島国で閉鎖的な国。だからこそ、この大国であるプレトニバ王国と繋がりを持つことができるということは、トロナ小国の発展のための手段の一つでもあった。
この縁談が舞い込んできたとき、誰よりも驚いたのはマイリスの父親であるトロナ国王。なぜ、あの大国の王太子がマイリスを妻にと指名してきたのか、何度も何度も首を傾げていた。だが、今から十年以上も前に、プレトニバ国王がこの小国を訪れたことがあり、きっとその縁だろうと、トロナ国王は勝手にそう思っていた。
マイリスはトロナ小国の未来を背負ってこのプレトニバに嫁いできたのだが、仮婚と呼ばれる期間があることを知らなかったし、この期間中に子を授からなければ、他の男性の元に嫁ぐようになるということも知らなかった。勉強不足と言われればそれまでなのだが。マイリスが仮妻となってそろそろ一年が経とうとしている。つまり、仮婚の期間は残すところ一年。だが、この一年、仮夫であるランバルトは、一度もマイリスと閨を共にしていない。つまり、子を授かるような行為を致していないということ。
このままでは恐らく、今後一年も、彼はそのような行為に及ぶことは無いだろう。
どうやら彼は、マイリスと正式に結婚をしたくないようだ。
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です※
の2作目です。
1作目はネタに全振りしたので、2作目は王道、よくあるパターンで攻めました。
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太陽がレナータ山脈に沈み始めるころ、街はオレンジ色に染められていく。マイリスは王城のバルコニーから眺めるこの風景が好きだった。この王城から扇形に広がる街並み。中心部は貴族たちの別邸と呼ばれるタウンハウスが立ち並び、そこから遠ざかるにつれ、庶民たちが住まう建物が密集している。だが、沈む太陽に染められている街は一つ。住んでいる者、住んでいる形は違っていても、この王都は一つの街。
夕焼けの時間。たまに、飛竜が王都の上空を飛び回る。飛竜はこのプレトニバ王国を守る神獣とも呼ばれている生き物。だが、今日は飛竜の姿は見えなかった。
「マイリス。ここにいたのか」
名を呼ばれ、マイリスは振り返る。そこにいたのは彼女の仮夫であるランバルト・ヴォルテル・プレトニバ。彼の黒い髪は夕焼けに染められて、真っ赤に見えた。
「ランバルト様も、共に夕焼けを見ませんか?」
マイリスが誘ったとしても、この仮夫が彼女の誘いにのった試しはない。
「少し風が出てきた。身体が冷える前に、中に入りなさい」
事務的にそう声をかければ、ランバルトは踵を返し、夕日を背に浴びながら部屋の中へと戻る。だが、マイリスはその仮夫の背を見送ることなく、街並みを見つめていた。マイリスの銀髪は風に弄ばれて、ひらひらと揺れている。
マイリスはランバルトの仮妻。マイリスとランバルトは仮婚の二人。
プレトニバ王族はなかなか子宝に恵まれない。だから、仮婚という期間を設けていた。仮婚期間の夫婦はそれぞれ仮夫と仮妻と呼ばれる。この仮婚期間に子を授からなければ、二人の縁は無かったことにされる。その後、仮夫は新しい仮妻を迎えるし、お役目を終えた仮妻は、そこそこいいところの男性の元に嫁がされる。嫁ぎ先も王族の仮妻を娶ったということは一つのステータスになるから、仮婚が失敗に終わったという噂を聞き付ければ、我こそはと仮妻を求める。
マイリスは次第に紫色に染まっていく空を見つめながら、小さく息を吐いた。マイリスはこのプレトニバ王国の者ではない。ここから、南にあるトロナ小国の第二王女であった。トロナ小国は島国で閉鎖的な国。だからこそ、この大国であるプレトニバ王国と繋がりを持つことができるということは、トロナ小国の発展のための手段の一つでもあった。
この縁談が舞い込んできたとき、誰よりも驚いたのはマイリスの父親であるトロナ国王。なぜ、あの大国の王太子がマイリスを妻にと指名してきたのか、何度も何度も首を傾げていた。だが、今から十年以上も前に、プレトニバ国王がこの小国を訪れたことがあり、きっとその縁だろうと、トロナ国王は勝手にそう思っていた。
マイリスはトロナ小国の未来を背負ってこのプレトニバに嫁いできたのだが、仮婚と呼ばれる期間があることを知らなかったし、この期間中に子を授からなければ、他の男性の元に嫁ぐようになるということも知らなかった。勉強不足と言われればそれまでなのだが。マイリスが仮妻となってそろそろ一年が経とうとしている。つまり、仮婚の期間は残すところ一年。だが、この一年、仮夫であるランバルトは、一度もマイリスと閨を共にしていない。つまり、子を授かるような行為を致していないということ。
このままでは恐らく、今後一年も、彼はそのような行為に及ぶことは無いだろう。
どうやら彼は、マイリスと正式に結婚をしたくないようだ。
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