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あなたの妻にしてください
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ランバルトとの夕食は、いつも静かだ。マイリスが幾言か言葉をかけても、彼から返ってくる言葉は「ああ」「そうか」のどちらか。
そしてこれから、夕食後の『二人の時間』を迎える。といっても、何をするわけではない。ただ、マイリスがランバルトの部屋を訪れ、時間を共に過ごすだけ。
(ランバルト様は、私のことをどう思っているのかしら)
仮婚をしたとき、マイリスが十八歳。ランバルトが二十八歳。十歳の年の差。恐らくランバルトから見たら、マイリスなんて子供のような存在なのだろう。
マイリスは手の中に握りしめた小さな缶を見つめていた。これは、マイリスがランバルトの元に嫁ぐときに母親が手渡してくれたもの。
――これは真の姿をさらけ出す薬と呼ばれているお茶よ。どうしても不安になってしまったときはこれを飲みなさい。
恐らく母親はマイリスがこうなることをわかっていたのだろう。そもそもプレトニバ王国にトロナ小国から嫁ぐということがおかしいのだ。彼から愛されたいと思うのは贅沢な願いというもの。
「ランバルト様。マイリスです」
「どうぞ」
このようにマイリスが毎夜、彼の部屋を訪れても彼は拒まない。
「今日はトロナのお茶を淹れますが、よろしいでしょうか」
「好きにしろ」
言い方は冷たいが考えてみれば彼は「駄目だ」とは言わない。いつも「好きにしろ」としか言わない。
「どうぞ」
マイリスがランバルトの前にお茶をおけば、彼は黙ってそれを口元に運ぶ。ランバルトはこの時間、決まってソファで本を読んでいる。そこにマイリスがお茶を淹れ時間が過ぎるまで彼の隣にいる、というのが『二人の時間』の過ごし方なのである。
「変わった香りがするな」
「はい。トロナは島国ですから、国中、潮の香りがしております。お茶といっても、海藻から作られているお茶なのです」
「そうか」
そうか、とランバルトが口にすればこの話題は終了。これ以上の会話はない。
マイリスもお茶を口にする。懐かしいトロナの味がした。これのどこが『真の姿をさらけ出す薬』なのだろうか。いつもトロナで飲んでいた海藻茶の味しかしない。
「ランバルト様。そろそろお時間ですので、私は部屋に戻ります」
「ああ」
「ランバルト様。今日は何の日かご存知ですか?」
マイリスがそう尋ねて初めて、彼は読んでいる本から顔をあげた。
「何の日だ?」
眉根を寄せて、ランバルトが聞いてきた。だからマイリスは「何でもありません」と答えて席を立つ。
「おやすみなさい」
バタンと扉が閉じれば、二人を隔てる壁が高くなったような気がした。
(何が、真の姿をさらけ出す薬よ。ただのお茶じゃない。お母さまの嘘つき)
零れ落ちそうになる涙をこらえながら、マイリスは自室へと戻った。ハラリと涙が落ちた。
ランバルトとの夕食は、いつも静かだ。マイリスが幾言か言葉をかけても、彼から返ってくる言葉は「ああ」「そうか」のどちらか。
そしてこれから、夕食後の『二人の時間』を迎える。といっても、何をするわけではない。ただ、マイリスがランバルトの部屋を訪れ、時間を共に過ごすだけ。
(ランバルト様は、私のことをどう思っているのかしら)
仮婚をしたとき、マイリスが十八歳。ランバルトが二十八歳。十歳の年の差。恐らくランバルトから見たら、マイリスなんて子供のような存在なのだろう。
マイリスは手の中に握りしめた小さな缶を見つめていた。これは、マイリスがランバルトの元に嫁ぐときに母親が手渡してくれたもの。
――これは真の姿をさらけ出す薬と呼ばれているお茶よ。どうしても不安になってしまったときはこれを飲みなさい。
恐らく母親はマイリスがこうなることをわかっていたのだろう。そもそもプレトニバ王国にトロナ小国から嫁ぐということがおかしいのだ。彼から愛されたいと思うのは贅沢な願いというもの。
「ランバルト様。マイリスです」
「どうぞ」
このようにマイリスが毎夜、彼の部屋を訪れても彼は拒まない。
「今日はトロナのお茶を淹れますが、よろしいでしょうか」
「好きにしろ」
言い方は冷たいが考えてみれば彼は「駄目だ」とは言わない。いつも「好きにしろ」としか言わない。
「どうぞ」
マイリスがランバルトの前にお茶をおけば、彼は黙ってそれを口元に運ぶ。ランバルトはこの時間、決まってソファで本を読んでいる。そこにマイリスがお茶を淹れ時間が過ぎるまで彼の隣にいる、というのが『二人の時間』の過ごし方なのである。
「変わった香りがするな」
「はい。トロナは島国ですから、国中、潮の香りがしております。お茶といっても、海藻から作られているお茶なのです」
「そうか」
そうか、とランバルトが口にすればこの話題は終了。これ以上の会話はない。
マイリスもお茶を口にする。懐かしいトロナの味がした。これのどこが『真の姿をさらけ出す薬』なのだろうか。いつもトロナで飲んでいた海藻茶の味しかしない。
「ランバルト様。そろそろお時間ですので、私は部屋に戻ります」
「ああ」
「ランバルト様。今日は何の日かご存知ですか?」
マイリスがそう尋ねて初めて、彼は読んでいる本から顔をあげた。
「何の日だ?」
眉根を寄せて、ランバルトが聞いてきた。だからマイリスは「何でもありません」と答えて席を立つ。
「おやすみなさい」
バタンと扉が閉じれば、二人を隔てる壁が高くなったような気がした。
(何が、真の姿をさらけ出す薬よ。ただのお茶じゃない。お母さまの嘘つき)
零れ落ちそうになる涙をこらえながら、マイリスは自室へと戻った。ハラリと涙が落ちた。
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