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ダンスレッスンへの誘い(1)

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 リスティアは、地下書庫でウォルグと共にステップを踏んでいた。
 ――次は、やはり機敏な動きを身に着けるべきだな。手軽なところからダンスレッスンとかはどうだろうか?
 そう誘われてから、一か月も経っている。そして、地下書庫でウォルグと顔を合わせるたびに、手を取り合い、身体を寄せ合ってダンスの練習に励んでいた。
 取り巻きという名の親しい友人を作ったリスティアが次に求められたのは、やはり機敏な動きであった。犯人とバレないようにヒロインを階段から突き落としたり、教科書を盗んだりするには機敏な動きが必要だ、というのがウォルグの言い分である。
 地下書庫に訪れる人はほとんどいないとしても、けしてダンスができる広い場所とも言えない。書庫の一番奥の少し開けた場所で、二人で寄り添って基礎的なステップを踏むしかできないような空間。くるくる回ったり、飛び跳ねたりしたら、書棚にすぐにぶつかってしまう。
 だからいつも、二人で寄り添って練習をしている。
「リスティア嬢、うまくなったね」
 顔を寄せ、耳元で囁かれてしまえば、頬に熱が溜まる。
 リスティアも一通りのダンスはできるが、それはお世辞にも優雅とはいえないものだった。とにかく、ダンスができるという、その程度のものである。
 だが『悪役令嬢』として機敏な動きをするためには、ダンスの軽やかな動きが基礎にあるとウォルグは言い、二人でこっそりとこの場で練習を始めた。
 ――君が悪役令嬢になることは、誰にも知られてはならない。だから、こっそりと練習する必要があるんだ。
 彼の言葉に素直に頷いたリスティアは、エリーサとの約束がない日は地下書庫ここに来ていた。
 毎日のように練習をすれば、少しずつ成果は現れるもの。最初の頃はウォルグの足を踏んでばかりだったが、今ではそんなことはなくなった。彼の動きに合わせてステップを踏み、彼に身体を預け、彼と共に舞う。
 狭い空間だからこそ、彼と密着する必要がある。少しだけドキドキする瞬間はあったが、ウォルグのほうは涼しい顔をしているため、リスティアはできるだけ意識しないようにしていた。そうでなければ、立派な『悪役令嬢』にはなれない。感情を顔に出してはならないのだ。
「少し、休憩しようか」
 地下書庫は飲食厳禁である。書庫から出た回廊の石造りのベンチで二人並ぶと、そこで水分補給をする。
 ダンスの練習をするようになってから、ウォルグはリスティアの水筒も準備していた。王子である彼にそこまでやらせていいのだろうかと思っていた時期もあったが、ウォルグが気にするなと何度も口にしたため、今では素直に好意に甘えている。
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