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断罪への誘い(7)

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 教室の隅で、誰の迷惑にもならないようにこっそりと本を読んでいた日々に、手を差し伸べてくれたのがウォルグ。リスティアが『悪役令嬢諜報員』として役目を果たせるようにと、さまざまな訓練に付き合ってくれたのだ。
 諜報員が『悪役令嬢』と影で呼ばれるのには理由がある。調査対象ヒロインは、悪役令嬢の調査結果によっては、王族との縁を失ってしまうからだ。
 今の国王も、王妃と出会うまでには幾人かの婚約者候補がいたらしい。『悪役令嬢諜報員』による試練を乗り越え、それでも国王を想い続けたのが王妃であると、リスティアは聞いていた。
 本来のリスティアの役目は、ヒロインであるエリーサの素行調査であった。アルヴィンの婚約者として相応しい女性であるか、学園でどのように過ごしているか。それを調査し、報告する役目だったのだ。ウォルグがリスティアを『悪役令嬢』に誘ったのは、彼女が級友たちに分け隔てない態度を取っており、彼女であれば公平な目で調査できると、関係者が判断したからだ。
 ウォルグが彼女に声をかけたとき、悪役令嬢に関する物語の本を一緒に貸したのは、リスティアの心を緊張させないためだと彼は言っていた。
 ――諜報員とではなく、こちらの悪役令嬢を目指すような気持ちで、僕の指導を受けてみないか?
 そう言った彼の口調は、優しかった。
「オスレム男爵。それ以上は見苦しいぞ? そろそろ、私たちも卒業パーティーに戻りたいのでな」
 アルヴィンの言葉にリスティアの兄が動いた。リスティアの兄は近衛騎士である。音もなくオスレム男爵に近づくと、そのまま捕らえて大広間から連れ出していく。
 女性騎士の幾人かはその場から動けなくなったミエルを立たせ、同じように大広間から連れ去った。
 安堵のため息がいたるところから漏れ始める。
「みなの者。茶番に付き合ってもらって申し訳なかった。どうか、このパーティーの時間を楽しんでほしい。卒業生の門出を共に祝ってもらいたい」
 アルヴィンが言い終わると、楽団が音楽を奏で始めた。今までの喧騒が嘘であったかのように、ぱっと会場は明るく華やいだ。
 リスティアは大きく息を吐いた。これで、『悪役令嬢』としての役目は終わりだ。あとのことは騎士団に任せておけばいいし、エリーサはアルヴィンの婚約者として相応しい女性であると報告済でもある。昨日、ウォルグに手渡した封筒が報告書なのだ。
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