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悪役令嬢への気持ち(2)

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 とにかく、リスティアに興味を持ってからは、空いた心の穴が次第に埋まっていく。
 リスティアは見ていて面白い。特に本を読んでいるときの彼女の表情はくるくるとよく変わる。本を読みながら転寝を始めることもある。ピクっと身体を震わせる姿は、母親に抱かれて眠っている子猫のようにも見える。誰もいないと思って、油断している姿も愛らしい。
 ここには普段とは違う彼女がいた。
 そうやって、黙って彼女を見続けて一年が経ったある日――。
 ウォルグは父親である国王から呼び出された。
「エリーサ嬢の素行調査を頼める人物に心当たりはないか?」
 この国では、王太子妃となる人物の素行調査を行う。書類上の表面的なものだけでなく、できるだけ相手に近づき人間性を確認するのだ。
 エリーサの人柄は昔から知っているが、それでも慣例であるため、第三者による調査は必要とのことだった。
 口が堅く、公平で公正であり、信頼できる人間。そのような人物がいなければ、ウォルグが調査しろとまで言われる始末。
 だが、ウォルグには一人だけ心当たりがいた。むしろ、彼女は適任だと思うし、彼女に声をかける絶好の機会であるとも思っていた。
 無意識のうちにリスティアの名を告げていた。
「ウォルグ。お前がその名を口にする意味を知っているな?」
 ここで彼女の名を出すということは、父王にウォルグの気持ちを伝えたことに該当する。
「はい……」
「そうか」
 国王も思うところがあるのか、静かに目を伏せる。これで彼女は国王にも認められた。
 我ながらずるいとは思った。彼女に気持ちを伝える前に、彼女が逃げられないようにと取り囲んだ。
 そもそも王族の目にとまった者が、そう簡単に自由になれるわけがない。その目論見もあって、彼女の名を告げたのだ。
 そんな彼女は、学園の授業が終わると必ず地下書庫に足を運ぶ。声をかけるならそのときがいいだろう。
 その日、ウォルグは彼女より早めに地下書庫へと足を運んだ。
 彼女は間違いなくいつもの席に座る。普段のウォルグは書棚を挟んで彼女の後ろに座っているため、それにすらリスティアは気づいていないのだ。書棚の隙間から、彼女をちらっと盗み見るのがささやかな楽しみでもあり、我ながら女々しいとも思っていた。
 だが、そのような関係に終止符を打つときがきた。
『悪役令嬢にならないか?』
 書庫に入ってきた彼女の姿を見た途端、ウォルグはそう声をかけていた。
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