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悪役令嬢への気持ち(3)

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 悪役令嬢とは、王太子妃候補の素行調査をする諜報員を指す。相手に知られぬように調査を行うため、諜報員と呼ばれている。それを悪役令嬢と指すのは、流行りの物語にのった表現でもあった。
 なぜなら、この素行調査が王太子妃候補ヒロインを貶める場合もあるからだ。エリーサにかぎってはその心配はないが、ウォルグの父親、つまり今の国王の時代はなかなか大変であったと聞いていた。
 国王がまだ王太子であったとき、王太子妃候補は母親の現王妃を含む三人がいた。当時、王太子妃の最有力候補は、母親ではなかったらしい。想いは通じ合っていたが、気持ちだけではどうにもならない問題があったのだ。
 だが最有力候補の令嬢は、学園では他の令嬢たちを使用人のように扱っていた。それは当時の諜報員が入手した情報だった。卒業パーティーですべてを明かされた彼女は、諜報員に向かって『あなたって、物語に出てくる悪役令嬢のようね』と捨て台詞を吐いたところから、隠語で諜報員のことを『悪役令嬢』と呼ぶようになったという噂もある。
 そのいきさつをリスティアに教えたところ、彼女は文字通り目を丸くしていた。
「てっきり、この物語の悪役令嬢を求められるのかと思っておりましたわ」
 目を細めて首を傾げる様子は、ウォルグの心をざわつかせる。
「だが、諜報員と言ってしまうと、君も緊張するだろう? であれば、この物語のような悪役令嬢を目指せばいいのではないか?」
 ウォルグはリスティアに二冊の本を手渡していた。一冊は、悪役令嬢が活躍する物語。もう一冊は、『悪役令嬢諜報員』について書かれている報告書。
 物語に出てくる悪役令嬢は、とにかく頭の回転が早い。そして、それとなく運動神経もいい。リスティアは学習面においては優れているが、運動神経がいいとはけして言えなかった。そのため、ウォルグはダンスレッスンと称して、彼女の身体能力を高める訓練を始めた。
 彼女はダンスの基礎はできているが、お世辞にも上手とは言えないし、テンポも少し遅れていた。彼女の言い分は「学園に入学してから練習する機会が減ってしまいましたので」であったが、授業には社交の嗜みとしてのダンスのレッスンもあった。
 そのときの彼女の様子を思い出すが、やはりダンスが得意とはいえないようだ。
 彼女の苦手なところを見つけた途端、一気に親近感が沸き、人間味を感じた。
 また、彼女にはエリーサの素行調査の他にもう一つ、頼みたい件があった。
 きっかけはウォルグが彼女を悪役令嬢に誘った日。彼女のほうから、気になる書類を見せてきたのだ。
 ウォルグはそれを預かり、兄と父親に相談をする。なにやらの不正なお金の行方を示す証拠に見えた。それらをかき集めると、今、父親が頭を悩ませているオスレム男爵の件へといきついた。
 さらにエリーサからは、オスレム男爵令嬢であるミエルの話を聞いた。ミエルは手足に痣をたくさん作っているようだ、と。学園の授業でできた痣ではない。となれば、いつ、どこで、が問われる。
 エリーサはミエルが意味もなく痛めつけられているのではないかと、心配していた。その情報はエリーサからリスティアへと伝わる。
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