上 下
6 / 16

しるし ギース視点

しおりを挟む
「飛んで行った場所で1番遠い所は?」
「隣町、です」
「どの程度の重さまでは飛べる?飛行に支障が出ない程度でいい。」
「重さはー、えっと~」

 考える仕草をすると、羽まで一緒に傾いでいる。
 なんなんだこの愛らしい生き物は。
 番か。

 配達に必要な情報を聞き出し、今後の予定を伝えてながら、どうするかを考える。

 雰囲気は多少和らいだものの、恐らく恐怖心は完全には消えていないだろう。
 その証拠に視線は床から離れない。
 地味につらい。

 どうしたものか……

 ふと、隣町、というキーワードに一人の男の顔が浮かんだ。

 少々、いやかなり不服ではあるが、今は頼る他ないか……

「今日の夕刻にはまたここで報告してもらう。出来そうか?」
「は、はいっ!頑張ります!」

 嬉しそうに羽をパタつかせるラザリアに、チリッと嫉妬が湧き上がる。

 ラザリアは誰に配達するかは分かっていない。全てを把握しているが故の、自分勝手な醜い嫉妬だ。

 そう言い募っても、湧き上がる嫉妬の炎は中々消えてくれない。

「では荷物を渡・そ・う・」

 だから、気付いてくれない番への、ちょっとしたイタズラだ。
 足音を消し、気付かれぬよう近付き、そっと手をとった。

「~っ!?」

 ラザリアの声にならない叫びと共に、甘い香りがぶわりと広がる。

 く……っ

 甘美な香りにクラクラと酔いしれそうになるが、本能が反応すれば身動き出来なくなる為、なんとか堪える。

 胸元から取り出した指輪をラザリアの薬指へ。

「これは、相手に渡さなくて良い」

 本当は左手に嵌めたかったが、恐らく本能に止められるだろう。

「見せれば伝わる」

 だからこれは、あくまで配達物を渡しているだけ。

「返答を貰い次第、すぐに帰還すること」

 帰ってくる頃には、ラザリアも分かっている筈だ。

「分かったか?」

 

 慈しむ様に指輪を撫でるとラザリアは可愛い鳴き声を上げた。
 俺の手からするりと逃げ出すと、配達に行くと言い部屋を飛び出してしまった。

 開け放たれたままの扉から、遠ざかっていく背中を眺め、ふと気付く。

 ソレに気付いた瞬間、急いで扉を閉め、鍵を掛ける。

 ~っくそ、俺の方が煽られるとは……

 完全に起立してしまった自身を見やり、大きなため息をつくのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】僕たちの全ての愛を、聖女様に捧げる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,263pt お気に入り:680

逃亡した王女様は王子様に捕獲されてしまいました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:39

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:196,784pt お気に入り:12,473

聖女の祈りを胡散臭いものだと切り捨てた陛下は愚かでしたね。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,046pt お気に入り:197

【R18】【続編】彼の精力が凄すぎて、ついていけません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:10,814pt お気に入り:332

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:80,721pt お気に入り:2,869

婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:37,375pt お気に入り:3,321

処理中です...