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2・学園でのこと
2-14・見当違いの断罪劇③
しおりを挟む婚約破棄。誰と誰の?
ルーファのあの発言だけでは、さっぱりわからない。否、ルーファが口にして、かつアルフェスのあの態度を見る限り、俺とアルフェスの、で、間違いないんだろう。
周りはすっかり余興を眺める空気になってしまっている。ああ、また殿下のいつもの……といった風に。
なぜなら、殿下が楽しそうに笑っていて、それに気付いているのが、俺だけではないからだ。
皆、ある意味で慣れている。
「お兄様は酷いです。仮にも婚約者であるアルフェス様にあんな態度ばかりとって……」
場の空気に構わず、ルーファは切々と言葉を続けた。哀れっぽく、俺を非難する眼差しで。
俺の眉間のしわが、ますます深くなる。
あんな態度、と言われて、心当たりはもちろんあった。何せ今までさんざん詰られてきている。多分、また同じような話なのだろう。そもそも。俺を責めるとして、それはルーファではなく、アルフェス本人の仕事では?と、思わなくもないが、そんなもの本当に今更で。
ちなみに件のアルフェスは、ルーファの隣で情けなくも所在なさげに視線を泳がせていて、戸惑う気配ばかりが伝わってくる。アルフェスでは多分、ルーファが止められないのだ。
妹の言葉は、止める者もないまま続いていく。
「あれではアルフェス様があまりにお気の毒で……お兄様はどうせ政略結婚だし、蔑ろにしていいとでもお考えなのではありませんの? ならばいっそ、わたくしの方がいいではありませんか!わたくしでしたらお兄様のように、アルフェス様を蔑ろになんていたしませんわ。同じ家門同士ですもの、わたくしなら充分にお兄様の代わりになりましてよ。勿論、お父様には許可を取ってあります。さぁ、お兄様!罪をお認めになって、婚約破棄をお受入れ下さいませ!」
堂々として、力強い言葉だった。高位の貴族令嬢に相応しい自信に満ち溢れた態度でもある。ともあれ、言っている内容はちっとも相応しくない。
ここは学園の卒業記念パーティーという公の場だ。そんな話は家の中ででも出来たことだし、こんな場所であんな風に大々的に言うことではなかった。
俺は頭が痛くなる心地のまま、内心で溜め息を吐いた。
殿下は、楽しそうだ。近くにいるアツコは、目を白黒させている。俺以上に驚いているのだろう。
これは、殿下が仕込んだ余興だ。少なくとも、会場中がそう受け取っている。いっそ真剣なのはルーファとアルフェスの二人だけかもしれない。
ルーファは、自分の行動がどういった結果をもたらすのかということを、基本的には何も考えず、今も多分、彼女の中では、正しいことをしているという認識だろう。
おそらくは、そう、そそのかされている。誰に? 勿論、殿下に。まったく、俺の目を盗んで、と、重ね重ね頭が痛い。
しかし、それにしても。
罪、罪、ねぇ……。
いったい俺に、何の罪があると。
例えば嫌がらせの件で言えば嫌がらせをしていた犯人に罪があるというのならわかる。
だが、ルーファは対処しなかったとして俺を責めていた。
曰く、婚約者であるのなら。アルフェスをもっとしっかり守ってしかるべきなのだとか。
俺を買い被り過ぎなのだ。俺だってなんでもかんでも解決できるわけではない。その上、義務を負うわけでもない何某かを、解決できなかったのが罪だなんて。
見当違いも甚だしい、内心溜め息を吐きたい気持ちで、ルーファを見つめ返した。
ルーファが何を指してそう言っているのか。多分、これまで幾度も俺に訴えかけてきたこと。アルフェスが受けていた嫌がらせとやらの対処を、俺がしなかったことだろうか。あるいは、彼への態度そのものか。
ルーファは、多分、アルフェスに同情している。彼女は彼女なりの正義感で、アルフェスのことを気の毒に思って、そして、誰にどんな風に思考を誘導されたのか、俺には任せておけないと、そう、思うに至ったのだろう。
いっそ、自分なら。
それは決してルーファから、自然に発生すると思えない結論だった。
だけど。
そもそも、この婚約がこれまで続いていたのだって、俺の希望というわけではなく、婚約破棄、あるいは婚約解消はむしろ俺が望んでいたこと。
否、どこかで数年以内にしなければと、そう思っていた。だから、俺の予定が早まっただけと言えばそれだけで、父親にも許可が取れていると妹が言う以上、おそらく此処での問題は、アルフェスの気持ちのみなのだろう。
殿下が笑っている。自分の思う通りに進んでいて、嬉しくてたまらないのだろう。本当に、この人は仕方のない。
ちらと、殿下の方へ視線を投げると、殿下は大変楽しそうな様子で頷いた。
アルフェスの視線もまた、俺に止まる。どこか縋るような眼差しは、そう言えばここ数年よく見るようになったそれ。ルーファの言葉を、拒否してくれと、眼差しで告げてくる。だけど、そんなの、今更だ。
俺は今度こそ隠さず溜め息を吐いて、一度ゆっくり目を伏せた。
次いで瞼を押し上げ、妹をまっすぐに見つめ返す。妹の視線はいまだきつく、俺を責めている。
ああ、だから俺は、そんな目でお前に見られる理由なんてないのだと……くそっ。
可愛い妹の無言の非難は、俺の心にぐさぐさと刺さった。
だから、というわけではない。だが、もとより妹の提案は、俺にとって、渡りに船とも言えるもので。
「わかった。その婚約破棄、受け入れよう」
俺は頷くだけでよかった。
俺の返事に、妹は満足げな顔をした。半面、アルフェスの絶望したような表情は対照的だなとも思いつつ、もう一度見た殿下も笑顔。
本当に、まったく。ああ、もう、なんだ、この茶番。
「何これ、断罪劇……? 見当違い過ぎない……?」
ぼそと呟かれたアツコの言葉に、俺は内心激しく頷いたのだった。
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