【本編完結済】婚約破棄された婚約者を妹に譲ったら何故か幼なじみの皇太子に溺愛されることになったのだが。～星の夢・表～

4・これからの為の覚悟

*4-14・揺れる

　揺れている。揺れている、ゆらゆらと、何処か。
　意識ごと、揺れて。

　予め想像していた通り、陽が落ちる頃には俺の意識は混濁し始め、夜には起きていられなくなっていた。痛みと苦しみがまた、戻ってきている。
　幾度目だろう、改めて揺蕩たゆたい始めた思考の中で、俺は温かい何かに包まれていた。覚えのある魔力が、熱を伴って流れ込んでくる。
　ああ、これは、殿下の。

　揺れている。覚束ない。意識が、すぐに遠ざかる。

　夢を見た。
　いつかの夢だ。

　俺は幼い頃から殿下の遊び相手として、王宮に上がっていたけれど、王宮に泊まったことまでは数えるほどしかなくて。その時には必ず殿下に連れて行かれる場所があった。
　あの、王宮の端、森の近くに建てられた塔。
　異界の星空を映し出す、高度な魔術の施された部屋。
　思えばあの部屋の中での殿下は、いつも、他の時・・・と少し違っていて。

『ティアリィ』

　呼ばれた名に籠められた慕わしさに、どうして俺は気付かずにいられたのだろうか。
　あの部屋はきっと、殿下にとって特別だった。
　おそらく殿下はあの部屋の中でだけ、俺の前でも俺を想うことを、自分に許していたのではないだろうか。だって、あんなに長く一緒にいたのに。殿下と二人きり、どこか違う雰囲気であったのは、あの部屋の中でだけしか記憶にないのだから。

　揺れている。
　ゆらゆらと、揺れて揺れて。
　意識が、痛みと苦しみの中で揺蕩たゆたう。
　腹が熱い。
　俺を包む温かさは、俺をどこまでも甘やかしてくれる温かさだ。それは、間違いなく殿下の……――。

　目が覚めた。
　頭が晴れている。
　まるで数か月前、いつかの。あの、子を成してすぐに陥った不調・・を、殿下に宥めて・・・もらった時のような……。

「あっ！」

　こちらもまた、いつかの再現のように、俺の喉から甲高い声が迸った。快楽に濡れた声。かっと頬が熱くなる。何が、いったい。
　混乱に戸惑う俺はやはりいつかと同じよう、腰を殿下にとめおかれていた。
　体中が熱い。ここしばらく感じられなくなっていた熱だ。殿下が、俺の腹の中。奥深くで脈打っている。

「よかった。つながった・・・・・ね」

　殿下が荒い息の合間に、明確な安堵を吐き出した。そうしていながらぐっと、少し、腰を揺らされる。そこから広がった殿下の魔力は、今、違たがうことなく俺を酔わせて・・・・いて。

「ん！ ぁっ……！ でん、か……？」

　思わず上がった声とともに、揺れる視界をぐるりと見まわすと、俺は星空の中にいた。