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4・これからの為の覚悟
*4-15・混じる
しおりを挟む見覚えが、あった。異界の星空だ。上も横も下も全て。……――下も?
それに、何より、この空間全てに、
「あぁっ!」
ぐぽっと、俺の腹の奥の奥を押し開かれて、俺の思考は散り散りに溶けた。
「んっ、んっ、ごめ、ん、ティアリィ……っん! もうちょっ、と……」
殿下が腰を揺らす。熱が広がる。熱い。熱くて、熱くて、蕩けてしまいそうだ。いつしか、俺と殿下の境界が全く曖昧になって。否、本当に、曖昧になって?
「あ! あ! あ! あ!」
おぼろげに、遠ざかりそうな思考を必死にかき集めて確かめる。この空間全てに、殿下の魔力が満ちている。
ここは恐らく、あの塔の上の一室だ。だが、あの場所は、こんな風ではなかったはずなのに。
揺れる殿下の向こう側、目の前に広がる星空に見覚えはあったが、この空間そのものにはどうにも覚えが少しもなかった。
何より、どうしてこんなにも、俺と殿下の境目が曖昧になっているのか。
「ぁっ! ぁあぁあぁああっ……!」
首を仰け反らせ、声を上げて。快感に溺れた。気持ちよくてたまらない。熱くて熱くて、体の端から全部、溶けてしまいそうで。
体の奥でまた、殿下の熱が広がっていく。
熱い。
どれぐらいの時間、そうしていただろうか。殿下がようやく腰を動きを止めた時には、俺はすっかり蕩けきって。視線をぼんやりと彷徨わせるばかりになっていた。
殿下が笑った。安堵の息を吐いて。
「今は、大丈夫そうだね」
よかった。
言いながらも、声音には苦さが残っている。
「でん……か?」
微かな声で尋ねると、殿下は小さく頷いた。
「ティアリィにはわかっているよね。僕と君の、存在自体をつなげたんだよ。これなら、受け取るとか受け取らないとか、拒絶も何もない。だってこうしたら君は僕で僕は君だ。とはいえこれも、一時的なものだけど。何度もできることじゃない。長時間こうしてもいられない。でも、これだけ注げたらルーファ嬢よりは少し、長く持たせられるかな」
それは、俺にもわかる。だってこんなにも存在自体を混ぜ合わせるなんて。正直、そんな魔術、狂気の沙汰だ。こんな状態が続けば続くほど、俺と殿下は離れられなくなる。最終的にはおそらく。全く、一つの存在となってしまうことだろう。それでも分けられるとしたら、この腹の中に宿る熱ぐらいだろうか。
元々、殿下と俺では、血の濃さも含めて存在自体が近いのだ。なのにこんなことまでして。一歩、間違えばどうなってしまうのか。
「此処は、元々魔術要素のみで出来た空間だから、都合が良くて。時間制限も初めからあるから、最悪の事態にはならないだろうし。でも、場所をより確実にするために、床にも広げたんだよ」
殿下の視線が周りを巡った。星だ。一面の星。いくら夜空を見上げたって、宇宙や惑星などというくくりにはないこの世界では決して見られない。上も、横も、下も。俺達は今、星空のただなかにあった。
なるほど確かにそういえば。俺自身、先程、床に限っては星空が、描かれているだけだったはずだと思ったばかり。今は天井や壁と同じく、異界の星空が映し出されているらしい。
つまりこの空間そのものが異界とつながっていて、元の世界とは切り離されている。だからこそこんな乱暴なことが出来たのだろう。
存在の融合もどきなんて。
「直に夜が明ける。そうしたら僕たちは離れてしまうだろう。その前に僕は、今度は言葉を尽くさなければいけないね」
もう、あと尽くせるのは心だけなのだから。
殿下が俺から少し体を離して微笑んだ。柔らかく、慈しみに満ちた笑みだった。
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