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番外編・未来の話
x2-5・アーディの話⑤
しおりを挟むアーディが黒騎士をと望んだ時、黒騎士は初め、わけがわからないというような顔をしていたらしい。
と、言うか、おそらくはアーディをそう言った対象として見ていなかったのではないかと思う。アーディも同じよう、はじめから黒騎士を、唯一だとか伴侶だとかそんな風にまでは考えていなかったと言っていた。
ほんの好奇心。
黒騎士はとても普通で、普通過ぎて、逆にアーディの、否、俺の周りにもいないようなタイプだった。あれは転移者特有の雰囲気とかそういうものなのだろうか。あえて言うなら、アツコが近いかもしれない。
そんな普通な相手と、どうしてだろう、アーディは触れ合って見ようと思ったのだそうだ。
今まで誰に対してもそんなこと、思ったことがなかったのに。
俺から見れば、その時点で惹かれていたのではないかと思うのだが、強い気持ちではなかったというのも本当のことなのだろうとは思う。
黒騎士は黒騎士で、特に意識していたわけでもなかったという割に、嫌悪を抱いたりだとかいうこともなかったらしく、出来そうだったのでアーディに応じて、そして。
黒騎士にハマったのはアーディの方だった。
何処が良かっただとかもいろいろと教えてくれたのだが、正直そんな話はあまり聞きたくなくて、詳細なことは覚えていない。
とにかく、幾度か触れ合ううち、だんだんと強く、アーディは黒騎士を唯一にと求めるようになっていった。
当然、そこまで強い感情をアーディに抱いたわけではなかった黒騎士は、当たり前のようにアーディの側へと留まってはくれず、そもそもナウラティスに立ち寄ったのだって、当てのない旅の途中で、たまたま通りかかっただけ。
傭兵だとか冒険者だとかを生業にしていた黒騎士は依頼があればどこへでも出向き、気が向くままに生きていて、一所に立ち止まるつもりなどなく、ナウラティスからだって早々に出国してしまったらしかった。
アーディは皇帝業の傍ら、黒騎士を追いかけまわし始めた。
アーディが、転移魔法を得意としていたからこそできたことだ。頻繁にナウラティスへと戻っては、皇帝もやっていた。
そんなに片手間に出来ることなのかとそれを知った瞬間、俺は自分のことなど棚に上げて眉をひそめたが、出来たのだからしょうがない。
とにかくアーディは出来る限り黒騎士の旅に同行し、傭兵だか冒険者だかとして共に依頼をこなした。
その時々に、隙をついてと言えばいいのか、何度も何度も肌を合わせ、徐々に黒騎士へと、自分の存在を刷り込んでいって、そうして。
何年だったか。
それほどの年数ではなかったと思う、2年か、3年か。
付き合うことになったと、満面の笑みで報告してきた時のアーディの顔が忘れられない。
それは俺が初めて目にする、成就した恋を謳歌する、晴れやかな笑顔だった。
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