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番外編・未来の話
x2-6・アーディの話⑥
しおりを挟む黒騎士は、辛うじて生きるのに支障がない程度にしか魔力を持っていない。
むしろこれで良く冒険者として活動していて問題なく過ごせるものだな、と驚くほど、本当にほとんど魔力を持っていなかった。
それに反してアーディは、当たり前だが魔力が多い。
ただ、付き合うだけなら、そんなこと何の問題にもならなかっただろう。あるいは、彼ら二人の役割が逆だったなら。
アーディは黒騎士との子供を望んだ。
アーディは皇帝だ。後継の問題もある。そうではなくても、好きな相手との子供が欲しいだなんて感情は、何も不自然なものでなどなかった。
アーディと黒騎士の場合、子供を産むとしたらアーディの側となる。つまり、アーディは常に受け身であったようなのだ。逆は一度もないのだと聞いている。
その状態で子供を望むだなんて、正直な話、不可能に近かった。
ただでさえ、魔力差の大きい者同士だと子供は作りにくい。特に、母体となる方の魔力が多い方が、それはより難しかった。
逆ならまだ、そこまでではなかったかもしれない。もっともそうなるとほぼ確実に母体は魔力欠乏に陥るし、それはそれで、よほど相手が上手く魔力操作をしてやらなければ、直接的に生命にかかわった。多分、それもあったのだろう、アーディは自分が母体となることしか考えていないようだった。
だが、ほとんどないに等しい魔力を、子供とすることなどどれほど難しいことだろう。
なにせ黒騎士は、どれほど体を交えようとも、子供に出来るほどの魔力を、アーディに注げなかったのだ。だが。
5年かけて、アーディは黒騎士の魔力を自らの腹に溜め込んだ。子供に出来るぐらいの魔力だ。
黒騎士のないに等しい魔力を、五年かけて集めたのだ。
それはアーディの執念のようなものだった。
もし、その段階で俺に相談してくれていたらと、振り返っては幾度も思う。そうしたら、もう少しは状況もよくできたのかもしれないのに、と。
五年分の魔力で子供を成す。
子供とするだけで五年。
子供となったのなら、今度はその子供を育てなければならない。
アーディだって子供を作るのは初めてで、だからきっと加減がわからなかったのだと思う。あるいはあのアーディでさえ読み間違ったのか。
黒騎士の微かな魔力を溜めて、溜めて、溜めて、子供とした。そうすることが、出来た。
だが、出来たのはそこまでで、その先。子供を育てる魔力が、どう考えても足りなかった。
子供を成してすぐ、倒れたアーディを抱え、どうにもできなくなった黒騎士が、俺を頼ってきてくれたのは、それこそ、アーディがその生命を費やしそうになったギリギリでのことだった。
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