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番外編・未来の話

x2-7・アーディの話⑦

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 臥せったアーディを見て俺は眉をひそめた。
 魔力欠乏に陥った際の一番の治療は、魔力を直接注ぐこと。
 それは実は血を飲ませるだとかでも対応は可能なのだが、こと子を成す際の魔力欠乏の場合の多くは、性交渉によって対処するのが一番手っ取り早い。
 それはおそらく長年この世界で過ごしてきた黒騎士も知っているはずだ。
 だから黒騎士は臥せったアーディにまずは手を伸ばしたのだろう。だが。
 アーディが腹に宿した子供は、どう見ても黒騎士のなけなしの魔力ではどうにかなるようには見えなかった。
 おそらくはいくら黒騎士が直接アーディへと魔力を注いだって、焼け石に水以下の効果しか得られなかっただろうと思われた。
 俺は溜め息を吐いてアーディに触れた。まだ何のふくらみもない腹部に直接。
 布越しではあったが、子供を取り出すわけでもなければ特に問題はないだろう。触れたところから魔力を流す。
 手指で触れることで注げる魔力などたかが知れている。それでも。おそらくは黒騎士が直接に注いだだろうそれよりも、俺が手指からそうした魔力の方がどう考えても多かったのである。
 その証拠に、今にも儚くなりそうなほど、存在感さえ薄れていたアーディの状態は、目に見えて改善されたのだから。

「んっ……」

 ぴくり、まぶたが震える。
 今、俺が流した魔力だけでも、意識を取り戻せるぐらいには回復できたのだろう。

「アーディっ……!」

 安堵ゆえか、声を揺らして、黒騎士が傍らにうずくまって、アーディの手を取った。ぎゅっと握りしめる。

「よかった……ほんとに。アーディ……」

 涙にくれる黒騎士を、しばしぼんやりと眺めたアーディは、すぐに俺に気付いて。はっと、途端、気配を尖らせた。

「かあっ……さまっ……!」
「……アーディ?」

 そうして敵意をむき出しにする。何故アーディがそんな反応をするのか、全くわからないのだろう、不思議そうに首を傾げる黒騎士なぞお構いなしだ。
 俺は溜め息を吐いた。
 いくらアーディが敵意を向けてきても同じだ。この状態のアーディに言えることなんて一つだけ。

「怒るな。自業自得だろ」

 こうなるのはわかっていたはずなのだ。なにせ黒騎士は本当にほとんど魔力を持っていなかったのだから。どうしてそれで子供を成して、育てられると思ったのか。
 俺からしたら、アーディの想定が甘かったとしか思えない。

「子供は成したら終わりじゃない。育てなければ生まれて来ないんだ。そいつが相手で、お前は本当に育てられると思っていたのか」

 おそらく何もわかっていなかったのだろう、黒騎士が驚いたように俺を見た。
 アーディはようやく敵意を消失させて、しかし、気配は尖らせたまま。きゅっと唇を噛みしめていた。
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