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2・旅程と提案
2-22・とんでもない提案
しおりを挟むだが、そんな彼らの容姿よりも、ついティアリィの視線が引き寄せられてしまったのは、ルディファラ王の腹の方。其処に凝った魔力はどう見ても。
「失礼ですが、今、お子さんが?」
無視も出来ず、思わずそれを口に乗せると、彼は小さく頷いた。
「ああ。流石ですね、わかりますか。まだ安定しきっていない時期なのですが……」
言いながらそっと腹部を撫でる。確かすでに3人子供がいるはずで、つまりは4人目ということだろう。初めにピオラへと縁談の話が来た時には王太子1人しか子供がいなかったようなので、その後立て続けに作っているということになる。2人目と3人目がまだ今は3歳と1歳。その上で更に次をとは。
「お恥ずかしい話なのですが、貴国がこの旅の縁談を前向きに検討下さるというお応えを下さったことで、実は私、安心してしまいまして。一番上の王太子以外に王位を譲る気はないのですが」
それはなぜと、聞きたくなったが、ティアリィはやめておいた。
何か事情があるのだろう。おそらくはあの、18年近く前の事件の関係で。
だから、ただ頷くにとどめる。
「そうだったのですね。仲が良いようでなによりです」
「そう言われると否定したくなるのですがね」
ルディファラ王は苦く笑った。
ずっと話しているのは王のみで、シンビュジエ王配殿下の方は先程から一言も話さない。
だが、どことなく隣の伴侶のことを気にかけている気配は伝わってきた。二人のこれまでのことなど、ティアリィには知る由もないが、正しく今は仲がいいのだろう。
殺伐とした雰囲気が、ぎこちなさなどは何処にもなかった。
少し、羨ましいとすらティアリィは思ってしまう。
「それより、そのお姿、驚きました。変化の術を使っておられるとは事前にお聞きしておりましたが」
以前に国の代表が多く集まる会議で、顔を合わせた時のことを覚えていたのだろう。さて、その驚きはどちらにかかっているのだろうか。変わっていなくて驚いているのか、変わってい過ぎて驚いているのか。
何せティアリィは顔の造作そのものなど変化させておらず、髪と目の色を変え、魔力量を抑えただけで、認識阻害もティアリィをティアリィとして見れば用を為さない程度の物。
だからルディファラ王の関心の場所がわからなかった。
「本当は少し不安に思っていたのですが、それなら問題なさそうですね」
だが、続けられた言葉は更に意味が解らなく。流石に控えめに問い返す。
「と、申しますと?」
「いえ、ティアレルリィ皇后陛下は、この度、身分を偽ってピオニラティ王女殿下の護衛をなさるのだとお聞きしています。その際、学園の寮で一緒にお過ごしになるとは思うのですが、何分、護衛や侍女は流石に学園の中にまでは入れません。基本的には寮の中で待機して頂くことになります。そこで、もしよろしければとこちらでご提案しようと思っていたことがございまして」
事前には何も聞いていない話だった。
「提案、ですか?」
「ええ、そうです」
不思議そうな顔をするティアリィの前で、ルディファラ王は満面の笑みを浮かべている。そしてこんなことを言い始めた。
「ティアレルリィ皇后陛下も、どうぞご一緒に学生生活をお送りになられてはいかがでしょう。流石にピオニラティ皇女殿下と一緒に入学するというのは無理がありそうですが、そのご容姿ですと、うちの息子、ユーフォルプァと同じ第3学年なら十分に通用すると思いますよ」
「はい?」
思わず、反射的に意味が分からないというように訊き返してしまう。
それは全く、これまで予想もしていない提案だった。
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