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3・初夜の誘い

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 何もかもが急だった。
 俺を置いて全てが進む。
 公爵家に相応しい、非常に乗り心地のいい馬車の中。向かい側の席には、俺の旦那であるらしいイケメン。ラル。ラギリステ。若き公爵。しかし。若き?
 さて、この俺の旦那だという男は、今いったい何歳なのだろうか。
 俺はラルのことを何も知らなかった。なにせ先程あったばかりだ。わかっているのは、隣国であるアンセニース大王国の公爵であるということ。名前がラギリステ・リヒディルであること。そして、今となってはすでに、俺の旦那。それだけだ。
 他は何も知らない。
 ラルはにこにこと笑いながら俺を見ていた。
 相変わらず底の見えない笑みである。
 俺は溜め息を吐いた。沈黙が気まずい、というわけでさえなく。それ以前の問題で、俺の気持ちはいまだに全くここに追いついていなかった。
 このまま何も話さない、でいてもよかったのだけれど。せっかく疑問も出てきたことだし、質問してもいいだろう。俺は口を開いた。

「そう言えば、貴方は今、幾つなんですか?」

 見た目からすると、20代後半ぐらいに見える。

「ん? 僕の年齢ですか? 今、僕は23歳です。貴方より5つ年上ですね」

 予想よりも若かった。老けて見えるとは珍しい。金髪である所を見るに、魔力もそれなりに多そうなのに。
 そして当たり前のように俺の年齢を知っていた。

「そうですか」

 会話が途切れた。一度会話を交わしたからだろうか。今度は流石に気まずく思えてくる。
 会話。とか、した方がいいのだろうか。なにせ俺はすでにこの男と夫婦なのだ。この男は俺の旦那だ。こういう場合はどうするとよいのだろう。俺は当たり前に誰かと結婚などしたことはなく、旦那とどう接すればいいのかなど知るはずがない。
 それどころか、特定の誰かと、そういった意味で親しくなったことさえなかった。全く誰にも興味が持てなかったのだ。
 ちなみに、今、この時点であってさえ、目の前の旦那にも、それほど興味を引かれていなかった。好感が持てる、とんでもないイケメンだなと思うが、それだけだ。
 だが。当たり前の話、このイケメンは俺に興味を持っている。否、むしろ。

「僕に、興味を持ってくれましたか?」

 にこと笑いながらラルが聞いてきた。俺は首を横に振る。

「いや、まったく」

 迷わないわけではなかったが、夫婦なのだ。偽らない方がいいと判断した。

「そうですか……ですが、僕は貴方に興味がありますよ。それどころか、すぐにでも触れたいと思っている。だって初夜ですし」

 そして返ってきた言葉はこんな言葉だった。

「初夜……」

 初夜。
 俺はちらと窓の外を見た。明るい。
 俺の認識では、今は夜でもなければここは走る馬車の中、寝台の上でさえないのだが。

「ええ、初夜です。だってもう夫婦ですし。構いませんか?」

 その上、ラルはとんでもないことを俺に聞いてくる。
 初夜。もう夫婦。え、まさかこのまま此処で?
 俺はきゅっと眉根を寄せた。
 ラルはにこにこと笑顔を崩さない。その顔からはたった今、初夜だとか言って、このままこの場所で行為に及びたいと言ってきたわけのわからなさなど微塵も感じられなかった。
 俺は流石に一瞬考えた。
 これは……断ってもいいのだろうかと、そう。
 ラルはにこにこ笑っている。そしてやっぱりイケメンだった。
 もう夫婦なのだ。ならば当然そういう行為も付随して来るのだろう。いずれか。それとも今か。遅いか早いかの違いだけ。そして俺は……――。

「構いません」

 なんだか考えるのが面倒になって、結局、抗わず頷いたのだった。
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