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一章
33.仕方ないでしょう?
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「仕方ないでしょう? イーグル伯爵家の決まりなんですもの。あんな男だらけのむさい所なんて、行きたくないけれど。……ちゃんと団服を着るわよ」
やはりこの令嬢がパーシバル殿で合っているのだろうか?
疑問を浮かべた顔をランドルフ殿に向けると、察してくれて頷いてくれた。
どこから指摘すればいいのか分からない。そして私の行動は、義兄となるかもしれない人に対して、あまりに失礼だったのではないだろうか。
否、スカーレットを傷付けられたのだ。義兄だろうと気にすることはないだろう。
「オリバーも来てたんだ? 夕ご飯も食べていきなよ。さっき魔角猪を狩ってきたんだ」
「大したものじゃなくてごめんね。王都の周辺ってあんまり美味しい魔獣がいなくってさー」
「いえ、充分豪華です。お構いなく」
「そう?」
魔角猪はピジュン子爵家では特別な日でもない限り食べられない高級肉だ。
我が家が他家に比べて財政難ということはない。どちらかといえば、子爵家にしては財政に余裕がある。
購入する場合の話で、自分たちで獲ってくるのなら財政は関係ないのだけれども。……獲ってくるほうが大変なはずだが。
「スカーレットはどうしたの?」
ユージーン殿がソファを覗き込む。スカーレットは私にしがみ付いたまま動かない。
「パーシバル殿と少し喧嘩してしまって」
「なんですって!? 私がスカーレットちゃんと喧嘩なんてするわけないでしょう? あなたが純粋なスカーレットちゃんを誑かしているんじゃないの! イーサン、ユージーン! あなたたちが付いていながら、どうしてこんな屑虫がスカーレットちゃんに付いているの!?」
パーシバル殿の怒りは私からイーサン殿とユージーン殿へと移る。
巻き込んでしまった申し訳ないが、私では彼を抑えられそうにないし、これ以上スカーレットを傷付けられたくないので、そのまま任せることにする。
「落ち着けってパーシバル兄さん。オリバーはそんなに悪い奴じゃないよ?」
「そうそう。兄さんたちは着いたばかりだから知らないだろうけどさ。スカーレットはオリバーのお蔭でよく笑うようになったし、魔獣狩りにも付いてくるようになったんだよ?」
「スカーレットちゃんが?」
義兄たちの目がこちらを向いた。
それはいいとして、今の口振りでは、王都に出てくる前のスカーレットはあまり笑わず、魔獣狩りにも興味がなかったと聞こえる。
ラナン様が儚くなってから家の中に閉じこもり気味だったとは聞いていたけれど、私の知っているスカーレットは初対面で拳を向けてくる元気な少女だ。
思わず胸に抱きしめたままのスカーレットを凝視してしまう。
「ほらスカーレット、機嫌を直しなよ。オリバーが困ってるだろ?」
「僕は大丈夫ですけれど。……スカーレット、ユージーン殿とイーサン殿も来てくれたし、そろそろ機嫌を直そう? ね?」
優しく体を持ち上げると、渋々ながら顔を上げてくれた。きゅっと一文字に引き結んだ唇は、まだ彼女が心の整理を終えていないことを示している。
「大丈夫だよ? 言っただろう? 僕からスカーレットの傍を離れることはないって。スカーレットが望む限り、ずっと傍にいるから安心して」
「オリバー……」
潤んだ赤い瞳が私を見つめる。
「いい加減になさい! 私のスカーレットちゃんに……っ!?」
パーシバル殿から発せられた怒声が急に途切れた。代わりに凄まじい破壊音が耳を直撃し、衝撃波が肌を掠めた。
何かの破片が飛んできた気がしたけれど、全てスカーレットとイーサン殿とユージーン殿が打ち払ってくれた。
「ありがとう、スカーレット」
どうやら今の衝撃で、スカーレットも気持ちの切り替えもできたようだ。
ためらいがちに口元を緩めるスカーレットが可愛い。
さて、視線を惨劇の場所へと向けると、床が無残な有り様となっていた。床板が飛び散り鉄板が顔を出している。
この家は下手な要塞よりも頑強なのではないだろうか。万が一にも王都が襲撃を受ける事態が起きても、イーグル伯爵家の館に避難すれば難を逃れられる気がする。
「何をしているのかなー? パーシバル?」
現れたのはディミアン殿だった。床板という化けの皮を失った金属床の上に、にっこりと笑って立っていた。
彼から放たれる怒気がびりびりと肌を刺す。私に向けられているわけではないのだが、そっと視線をそらしてしまう。
「お、お兄様!?」
お兄様!?
パーシバル殿はディミアン殿をそう呼んだ。
なんとなく、そうなのではないかと思っていたのだが、あまりに見た目が幼いのでスカーレットの弟だと納得していたけれど、やはりディミアン殿が長子で合っているのかもしれない。
「邪魔をなさらないでください! お兄様! スカーレットちゃんに付いた屑虫を排除するのです!」
激昂するパーシバル殿は抜いたレイピアの切っ先をこちらへと向けてくる。
それに対して、ディミアン殿はふうっと呆れたように大きく息をはいた。
やはりこの令嬢がパーシバル殿で合っているのだろうか?
疑問を浮かべた顔をランドルフ殿に向けると、察してくれて頷いてくれた。
どこから指摘すればいいのか分からない。そして私の行動は、義兄となるかもしれない人に対して、あまりに失礼だったのではないだろうか。
否、スカーレットを傷付けられたのだ。義兄だろうと気にすることはないだろう。
「オリバーも来てたんだ? 夕ご飯も食べていきなよ。さっき魔角猪を狩ってきたんだ」
「大したものじゃなくてごめんね。王都の周辺ってあんまり美味しい魔獣がいなくってさー」
「いえ、充分豪華です。お構いなく」
「そう?」
魔角猪はピジュン子爵家では特別な日でもない限り食べられない高級肉だ。
我が家が他家に比べて財政難ということはない。どちらかといえば、子爵家にしては財政に余裕がある。
購入する場合の話で、自分たちで獲ってくるのなら財政は関係ないのだけれども。……獲ってくるほうが大変なはずだが。
「スカーレットはどうしたの?」
ユージーン殿がソファを覗き込む。スカーレットは私にしがみ付いたまま動かない。
「パーシバル殿と少し喧嘩してしまって」
「なんですって!? 私がスカーレットちゃんと喧嘩なんてするわけないでしょう? あなたが純粋なスカーレットちゃんを誑かしているんじゃないの! イーサン、ユージーン! あなたたちが付いていながら、どうしてこんな屑虫がスカーレットちゃんに付いているの!?」
パーシバル殿の怒りは私からイーサン殿とユージーン殿へと移る。
巻き込んでしまった申し訳ないが、私では彼を抑えられそうにないし、これ以上スカーレットを傷付けられたくないので、そのまま任せることにする。
「落ち着けってパーシバル兄さん。オリバーはそんなに悪い奴じゃないよ?」
「そうそう。兄さんたちは着いたばかりだから知らないだろうけどさ。スカーレットはオリバーのお蔭でよく笑うようになったし、魔獣狩りにも付いてくるようになったんだよ?」
「スカーレットちゃんが?」
義兄たちの目がこちらを向いた。
それはいいとして、今の口振りでは、王都に出てくる前のスカーレットはあまり笑わず、魔獣狩りにも興味がなかったと聞こえる。
ラナン様が儚くなってから家の中に閉じこもり気味だったとは聞いていたけれど、私の知っているスカーレットは初対面で拳を向けてくる元気な少女だ。
思わず胸に抱きしめたままのスカーレットを凝視してしまう。
「ほらスカーレット、機嫌を直しなよ。オリバーが困ってるだろ?」
「僕は大丈夫ですけれど。……スカーレット、ユージーン殿とイーサン殿も来てくれたし、そろそろ機嫌を直そう? ね?」
優しく体を持ち上げると、渋々ながら顔を上げてくれた。きゅっと一文字に引き結んだ唇は、まだ彼女が心の整理を終えていないことを示している。
「大丈夫だよ? 言っただろう? 僕からスカーレットの傍を離れることはないって。スカーレットが望む限り、ずっと傍にいるから安心して」
「オリバー……」
潤んだ赤い瞳が私を見つめる。
「いい加減になさい! 私のスカーレットちゃんに……っ!?」
パーシバル殿から発せられた怒声が急に途切れた。代わりに凄まじい破壊音が耳を直撃し、衝撃波が肌を掠めた。
何かの破片が飛んできた気がしたけれど、全てスカーレットとイーサン殿とユージーン殿が打ち払ってくれた。
「ありがとう、スカーレット」
どうやら今の衝撃で、スカーレットも気持ちの切り替えもできたようだ。
ためらいがちに口元を緩めるスカーレットが可愛い。
さて、視線を惨劇の場所へと向けると、床が無残な有り様となっていた。床板が飛び散り鉄板が顔を出している。
この家は下手な要塞よりも頑強なのではないだろうか。万が一にも王都が襲撃を受ける事態が起きても、イーグル伯爵家の館に避難すれば難を逃れられる気がする。
「何をしているのかなー? パーシバル?」
現れたのはディミアン殿だった。床板という化けの皮を失った金属床の上に、にっこりと笑って立っていた。
彼から放たれる怒気がびりびりと肌を刺す。私に向けられているわけではないのだが、そっと視線をそらしてしまう。
「お、お兄様!?」
お兄様!?
パーシバル殿はディミアン殿をそう呼んだ。
なんとなく、そうなのではないかと思っていたのだが、あまりに見た目が幼いのでスカーレットの弟だと納得していたけれど、やはりディミアン殿が長子で合っているのかもしれない。
「邪魔をなさらないでください! お兄様! スカーレットちゃんに付いた屑虫を排除するのです!」
激昂するパーシバル殿は抜いたレイピアの切っ先をこちらへと向けてくる。
それに対して、ディミアン殿はふうっと呆れたように大きく息をはいた。
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