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70.薬師たちじゃ切れないかも?

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「先にみじん切りにした方が良かったか? 乾いて硬くなったら、薬師たちじゃ切れないかも? いや、削ればいいか」

 自分でやっておきながら出来上がった素材の使い勝手の悪さに頭を捻るが、最終的には、

「ま、いっか。俺は魔法でどうとでも出来るし、困るのは俺じゃないし」

 と、考えを放棄した。

 どうせ魔法ギルドのメンバーは、ノムルが持ち帰った素材と聞けば、嬉々として群がってくるのだ。
 楽な物よりも少し難しい物の方が、彼らも楽しめるだろうという結論に至ったのだった。

 その後も二人はずんずんと湿原を進んで行く。時折マンドラゴラが戻ってきて、ノムルたちは進行方向を変えた。
 もはや自分たちがどこにいるのか、どこに向かっているのかなど分からない。

 だが不安は一切なかった。
 その気になれば一直線に突き進むなり、空から方角を確認するなり、いくらでも道を探る手段はある。だからためらうことなく、現れたマンドラゴラに付いていく。

 小さなマンドラゴラは、意外と足が速い。ノムルが歩く速度を落とす必要はなかった。
 しかも水場に対応するように改造していたため、水嵩が深くなっても、変わらぬ速度で泳いでいく。

「主人より優秀だな」

 マンドラゴラの背を追いながら、ぽつりとノムルはこぼす。とたんにユキノがはっと顔を上げてノムルを見つめた後、幹を捻ってマンドラゴラを凝視する。

「わー?」

 視線に気づいたらしきマンドラゴラが二股の根を止めて振り返り、どうしたの? と聞きたげに葉を傾げた。

「くっ! 負けません、マンドラゴラ。私も歩きます。とうっ!」

 ノムルの左腕が定位置になっていたユキノが、対抗心を燃やして飛び降りた。
 湿地に根が着くなり、ぱしゃんっと音がして顔からこけた。

 三十センチほどの倒木から飛び降りる事すらまともにできないのに、大人の胸ほどの高さから飛び降りたのだ。その上、足元は不安定な泥土である。当然の結果だろう。
 呆れたようにノムルは泥に埋まった樹人の幼木を見る。

「何をやってるんだ?」
「うう……。大丈夫です。ちゃんと歩けます」

 ぬめる土に枝を取られながらも、なんとか立ち上がったユキノだが、葉も幹も泥まみれだ。それでもマンドラゴラについて歩き出す。

「わー?」
「大丈夫です。さあ、行きますよ、マンドラゴラ」
「わー!」

 意気揚々と歩き出したが、小さな樹人の歩みは遅い。
 均された道を普通に歩いても遅いのに、泥土に根を取られ、水場では浮力にバランスを崩し、時に蔓性魔植物にさらわれる。

「ふみゃああーっ?!」
「わー……」

 樹上高く持ち上げられてしまった樹人の幼木を見上げる、魔法使いとマンドラゴラ。必死な形相のユキノには可哀そうだが、一人と一株は冷めた目を向けていた。

「くっ、負けません!」

 何とか蔓から逃れようともがいているが、どんどん蔓が増えて枝や根も拘束され、自由を失いつつある。

「緊縛プレイとは、破廉恥な!」

 まだまだ余裕がありそうな台詞だが、涙声になっていた。

「置いていくぞ?」
「そ、そんな……」

 葉をしょげさせながらも、脱出しようと必死に枝や根を動かす。けれど状況は良くなるどころか、どんどん絡めとられいる。

「お、おとーさん、お、置いてかないで……」

 ひらひらと、涙がこぼれ落ちるように葉っぱが落ちてくる。
 呼吸が詰まりそうになり、ノムルはまぶたを落として息を整える。目を開けて杖を構えると、指先で弾いた。

「ふみゃあっ?!」

 一瞬にして魔植物が切り刻まれ、ユキノが落ちてくる。落下地点に入ったノムルはユキノを受け止めた。

「弱いくせに、何つまんない意地を張ってるんだ?」
「ご、ごめんなさい。もっと頑張ります。もうご迷惑なんておかけしないように」
「わー……」

 涙を拭くように、泥まみれの葉を枝でこする。泥に混じっていた砂で葉が傷ついていく。
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