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123.他の人間に悪戯しないのは
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ノムルが疑問を口にすれば、古老の樹人は洞の端を困ったように下げた。
『ブオオォォォー』
「他の人間に悪戯しないのは、多くの人間を害せるほどの魔力を持っている人間が少ないから、興味を持たなかったのだろうと」
「は?」
気の抜けた声が、ノムルの口からこぼれ落ちる。
その言い方ではまるで、精霊たちが人間に危害を加えようとしているかのようだ。
だがノムルの例を考えるのならば、精霊たちが望んで人間を傷つけていたという説は、否定できない。
なにせノムルは無暗に人間の命を奪わぬよう、気を付けていたにも関わらず、多大な被害を出し続けていたのだから。
戸惑うノムルが思考を整理する前に、古老の樹人は続ける。
『ブオオォォォー』
「精霊の中には、人間をよく思っていない者もいるそうです。そういう精霊たちがおとーさんの魔力に目を付けて、利用していたのだろうと」
「はあ?!」
精霊犯人説、確定である。
「待て。人間は精霊を敬い、精霊は人間たちに恩恵を与えて……いや、過去には魔法使いは魔王の眷属だという説もあったな。ということはつまり、魔法使いと人間が反目していたのは、正しい状態だったのか? は?」
『ブオオォォォー』
混乱するノムルの耳に、容赦なく風鳴りが届く。
頭の中が落ち着くまで待ってほしい気分だったが、そうもいかないのだろう。ノムルはいったん思考を止めると、ユキノに通訳を求めた。
「えっと、人間同士が争う必要は、別にないのではないか? だそうです。魔法が使える人間も、使えない人間も、人間には変わりないそうです。それと人間を嫌っている精霊もいますけど、そうでない精霊もいるそうですよ」
「そうか」
色々な思想の人間がいるように、精霊にも色々な思想があるのだろう。感情を持つ生き物ならば、それぞれに性格があり、好き嫌いもあるのだから。
意識してみれば、なぜ精霊は全て人間の味方だと思い込んでいたのか、むしろそちらの考えの方が疑問に感じてしまう。
「樹人の杖を使えば、精霊を抑えられるのか?」
問いかけてから、ノムルは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。ユキノはもちろん、樹人たちの前で口にして良い言葉ではなかっただろう。
ノムルは後ろめたさを感じたが、ユキノを含む樹人たちは、気にしていないようだ。
顔を見合せてから、幹を左右に振って否定する。
「精霊を抑えることができる樹人は、この森ではお爺ちゃんだけだそうです。私もできるそうですが、まだ小さいので……」
申し訳なさそうに、ユキノが葉を萎れさせた。
「お前を杖にする気なんて、元々ないから。それしか方法がなかったとしても、その選択はしない」
顔を逸らしながら頭をぽふぽふと叩くノムルを、ユキノはじいっと見つめる。ふわりと葉を揺らすと、
「はい!」
と、葉をきらめかせて嬉しそうに揺らした。
「とにかく、爺さんの枝を貰って帰って、杖にすればいいんだな?」
『ブオオォォォー』
叫びながら頷く古老の樹人に頷き返すと、ノムルは樹人たちが運んできてくれた枝を空間魔法にしまった。
これで忌まわしい力から解放されるかもしれないと、じわりと胸に染みるものがある。
「皆さん、お元気でー」
それから大きく枝を振るユキノを連れて、ノムルは樹人の群に背を向けた。
枝を差しだして切なそうに震えていた樹人たちだったが、ある程度の距離ができると吹っ切れたのか、枝を振り返して見送ってくれた。
「樹人ってのは、どいつもこいつも変わってるんだな」
「おとーさん、その言い方では、私まで含まれているみたいです」
「含んでるからな」
「酷いです」
抗議するユキノの頭を軽く叩くように撫でると、ノムルはデンゴラコン探しを再開した。
『ブオオォォォー』
「他の人間に悪戯しないのは、多くの人間を害せるほどの魔力を持っている人間が少ないから、興味を持たなかったのだろうと」
「は?」
気の抜けた声が、ノムルの口からこぼれ落ちる。
その言い方ではまるで、精霊たちが人間に危害を加えようとしているかのようだ。
だがノムルの例を考えるのならば、精霊たちが望んで人間を傷つけていたという説は、否定できない。
なにせノムルは無暗に人間の命を奪わぬよう、気を付けていたにも関わらず、多大な被害を出し続けていたのだから。
戸惑うノムルが思考を整理する前に、古老の樹人は続ける。
『ブオオォォォー』
「精霊の中には、人間をよく思っていない者もいるそうです。そういう精霊たちがおとーさんの魔力に目を付けて、利用していたのだろうと」
「はあ?!」
精霊犯人説、確定である。
「待て。人間は精霊を敬い、精霊は人間たちに恩恵を与えて……いや、過去には魔法使いは魔王の眷属だという説もあったな。ということはつまり、魔法使いと人間が反目していたのは、正しい状態だったのか? は?」
『ブオオォォォー』
混乱するノムルの耳に、容赦なく風鳴りが届く。
頭の中が落ち着くまで待ってほしい気分だったが、そうもいかないのだろう。ノムルはいったん思考を止めると、ユキノに通訳を求めた。
「えっと、人間同士が争う必要は、別にないのではないか? だそうです。魔法が使える人間も、使えない人間も、人間には変わりないそうです。それと人間を嫌っている精霊もいますけど、そうでない精霊もいるそうですよ」
「そうか」
色々な思想の人間がいるように、精霊にも色々な思想があるのだろう。感情を持つ生き物ならば、それぞれに性格があり、好き嫌いもあるのだから。
意識してみれば、なぜ精霊は全て人間の味方だと思い込んでいたのか、むしろそちらの考えの方が疑問に感じてしまう。
「樹人の杖を使えば、精霊を抑えられるのか?」
問いかけてから、ノムルは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。ユキノはもちろん、樹人たちの前で口にして良い言葉ではなかっただろう。
ノムルは後ろめたさを感じたが、ユキノを含む樹人たちは、気にしていないようだ。
顔を見合せてから、幹を左右に振って否定する。
「精霊を抑えることができる樹人は、この森ではお爺ちゃんだけだそうです。私もできるそうですが、まだ小さいので……」
申し訳なさそうに、ユキノが葉を萎れさせた。
「お前を杖にする気なんて、元々ないから。それしか方法がなかったとしても、その選択はしない」
顔を逸らしながら頭をぽふぽふと叩くノムルを、ユキノはじいっと見つめる。ふわりと葉を揺らすと、
「はい!」
と、葉をきらめかせて嬉しそうに揺らした。
「とにかく、爺さんの枝を貰って帰って、杖にすればいいんだな?」
『ブオオォォォー』
叫びながら頷く古老の樹人に頷き返すと、ノムルは樹人たちが運んできてくれた枝を空間魔法にしまった。
これで忌まわしい力から解放されるかもしれないと、じわりと胸に染みるものがある。
「皆さん、お元気でー」
それから大きく枝を振るユキノを連れて、ノムルは樹人の群に背を向けた。
枝を差しだして切なそうに震えていた樹人たちだったが、ある程度の距離ができると吹っ切れたのか、枝を振り返して見送ってくれた。
「樹人ってのは、どいつもこいつも変わってるんだな」
「おとーさん、その言い方では、私まで含まれているみたいです」
「含んでるからな」
「酷いです」
抗議するユキノの頭を軽く叩くように撫でると、ノムルはデンゴラコン探しを再開した。
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