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125.あっちの門はなんですか?
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「あっちの門はなんですか?」
「ただの囮だ。何とか入ろうとするやつが多くてな。魔法使いを脅して入り込もうとするやつまで現れたから、ギルドカードが無くても入れる門を造った。誰でも入れるけど、入れるだけだな」
ノムルの説明が理解できないようで、ユキノは小幹を傾げている。
ラジン国には、小さい方の門から入ってきた人間には、攻撃をしても構わないという法律がある。
その際にうっかりお亡くなりになっても、責任は取らないとまで明記されていた。
他国ではこの法律が歪曲され、ラジン国では非魔法使いが殺されても、罪に問われないという噂が流れているようだ。
町の中に入れば、懐かしい景色が広がる。国ごとに文化は違うが、とりわけルモン大帝国とラジン国は特色が強い。
町の上空では、空飛ぶ絨毯や椅子に乗った魔法使いたちが飛び交っている。道行く人はローブを着ていたり、魔法少女の姿をしていたりと、独特の装いだ。
「箒では飛ばないんですか?」
「箒? あんなのでどうやって飛ぶんだ?」
なぜそんな発想に思い至ったのか、意味が分からずノムルはユキノを見る。ユキノもあれ? という不思議そうな顔でノムルを見つめた。
見つめ合う二人。
答える気はないのだと判断したノムルは、転移装置へと移動した。
ノムルが向かった先には、直径二メートルほどの円柱状の建物が並んでいた。
四つの内二つには列が出来ていて、順に中に入っていく。残る二つからは逆に、人が出てくる。
「これはなんですか?」
小さな建物の中に、次々と人が入っていくが、中に入った人間が出てくることはない。
満員電車のようにすし詰めにならなければ、それだけの人数を収容することは難しいだろう。
ユキノは不思議そうに、四つの円柱を見比べている。
「転移装置だ。あの中に魔法陣が設置してあって、国内の要所に転移できるようになっている」
「おお! 凄いですね。どこでも扉です」
「どこでもとはいかないぞ? 転移装置同士をつないでいるだけだから」
列が進み、ノムルたちの番が来た。
扉を開けて中に入ると、真っ白な空間が出迎える。ユキノを連れて魔法陣の中央に立ったノムルは、
「魔法ギルド本部」
と、行先を伝えてから、こつんと軽く杖で床を突いた。
魔方陣から光があふれ出し、ノムルとユキノを包む。
「おお!」
眩しい光に包まれて、ユキノが歓声を上げている。ほんの三秒ほどで光は消え、再び静寂が訪れた。
「うん? おとーさん?」
魔法陣が輝く前と今の景色は変わらない。床に魔法陣が描かれただけの、白い筒状の部屋だ。
知識のある者ならば魔法陣が変わっていることに気付けるが、ユキノにそれを望むことは酷だろう。
不思議そうにしているユキノを抱き上げたまま、ノムルは正面の扉を開けて出ていく。
扉の先に広がるのは国境のある町ではない。大理石に似た白い石で造られた、美術館か大きな病院のホールのような、清潔感あふれる広い空間だった。
ユキノは辺りを見回したり、吹き抜けになっている天井を見上げたりしてから、ぽてりと小幹を傾げた。
「おとーさん、ここはどこでしょう?」
「魔法ギルド本部だ。魔法使いを始めとして、魔術師や薬師なんかが所属するギルドだな」
「おお! 凄いですね。国境からあっという間でした」
葉っぱを輝かせて、再び周囲を見回しだした。
ノムルには見慣れた内装だが、樹人の幼木には珍しいのだろう。
魔法ギルド本部はギルドと銘打っているが、ラジン国の中枢機関でもある。
国を立ち上げた際、魔法使いたちの救世主として担ぎ上げられたノムルが、玉座に就くことを固辞した。
何とかノムルを引き留めようとした魔法使いたちが、ギルドという形を取ってノムルをその頂点に据えたのだ。
「ただの囮だ。何とか入ろうとするやつが多くてな。魔法使いを脅して入り込もうとするやつまで現れたから、ギルドカードが無くても入れる門を造った。誰でも入れるけど、入れるだけだな」
ノムルの説明が理解できないようで、ユキノは小幹を傾げている。
ラジン国には、小さい方の門から入ってきた人間には、攻撃をしても構わないという法律がある。
その際にうっかりお亡くなりになっても、責任は取らないとまで明記されていた。
他国ではこの法律が歪曲され、ラジン国では非魔法使いが殺されても、罪に問われないという噂が流れているようだ。
町の中に入れば、懐かしい景色が広がる。国ごとに文化は違うが、とりわけルモン大帝国とラジン国は特色が強い。
町の上空では、空飛ぶ絨毯や椅子に乗った魔法使いたちが飛び交っている。道行く人はローブを着ていたり、魔法少女の姿をしていたりと、独特の装いだ。
「箒では飛ばないんですか?」
「箒? あんなのでどうやって飛ぶんだ?」
なぜそんな発想に思い至ったのか、意味が分からずノムルはユキノを見る。ユキノもあれ? という不思議そうな顔でノムルを見つめた。
見つめ合う二人。
答える気はないのだと判断したノムルは、転移装置へと移動した。
ノムルが向かった先には、直径二メートルほどの円柱状の建物が並んでいた。
四つの内二つには列が出来ていて、順に中に入っていく。残る二つからは逆に、人が出てくる。
「これはなんですか?」
小さな建物の中に、次々と人が入っていくが、中に入った人間が出てくることはない。
満員電車のようにすし詰めにならなければ、それだけの人数を収容することは難しいだろう。
ユキノは不思議そうに、四つの円柱を見比べている。
「転移装置だ。あの中に魔法陣が設置してあって、国内の要所に転移できるようになっている」
「おお! 凄いですね。どこでも扉です」
「どこでもとはいかないぞ? 転移装置同士をつないでいるだけだから」
列が進み、ノムルたちの番が来た。
扉を開けて中に入ると、真っ白な空間が出迎える。ユキノを連れて魔法陣の中央に立ったノムルは、
「魔法ギルド本部」
と、行先を伝えてから、こつんと軽く杖で床を突いた。
魔方陣から光があふれ出し、ノムルとユキノを包む。
「おお!」
眩しい光に包まれて、ユキノが歓声を上げている。ほんの三秒ほどで光は消え、再び静寂が訪れた。
「うん? おとーさん?」
魔法陣が輝く前と今の景色は変わらない。床に魔法陣が描かれただけの、白い筒状の部屋だ。
知識のある者ならば魔法陣が変わっていることに気付けるが、ユキノにそれを望むことは酷だろう。
不思議そうにしているユキノを抱き上げたまま、ノムルは正面の扉を開けて出ていく。
扉の先に広がるのは国境のある町ではない。大理石に似た白い石で造られた、美術館か大きな病院のホールのような、清潔感あふれる広い空間だった。
ユキノは辺りを見回したり、吹き抜けになっている天井を見上げたりしてから、ぽてりと小幹を傾げた。
「おとーさん、ここはどこでしょう?」
「魔法ギルド本部だ。魔法使いを始めとして、魔術師や薬師なんかが所属するギルドだな」
「おお! 凄いですね。国境からあっという間でした」
葉っぱを輝かせて、再び周囲を見回しだした。
ノムルには見慣れた内装だが、樹人の幼木には珍しいのだろう。
魔法ギルド本部はギルドと銘打っているが、ラジン国の中枢機関でもある。
国を立ち上げた際、魔法使いたちの救世主として担ぎ上げられたノムルが、玉座に就くことを固辞した。
何とかノムルを引き留めようとした魔法使いたちが、ギルドという形を取ってノムルをその頂点に据えたのだ。
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