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16.百獣の王という獣
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「ライオン? 百獣の王という獣?」
「そう、それ」
話に聞いたことはあったが、可愛らしいルーナとライオンが結びつかなくて、アルテミスは困惑した。けれど、ルーナがライオンなら素敵だと思う。
夏にしか会えないオライオンと、いつも一緒にいるぬいぐるみのライオン。オが有るか無いかだけで、よく似ている。
「そう、ルーナはライオンだったのね」
頬を緩めてにまにまとだらしなく笑むアルテミスを、オライオンは不思議そうに眺めていた。
「手紙」
突然、ぽつりとオライオンがこぼす。
「あー、いや、無理にとは言わないんだけどさ。その……」
何の話だろうと首を傾げたアルテミスだったが、昨年の別れ際に連絡先を貰いながら、結局一通も出せなかったことに気付いて、申し訳なさそうにうつむいた。
「いや、気にしなくていいんだ。数回会っただけの男に手紙を書くなんて、しないのが普通だよな」
アルテミスを慰めようと口を開いたのに、自分を納得させるための言葉を紡いでしまい、オライオンは情けなくなって肩を落とす。
彼はこの一年、アルテミスからの手紙を密かに期待していたのだ。
「ごめんなさい。何度か書こうとしたのだけれど、まとまらなくて。それに、お父様やお母様に、男の人と文通をしていると知られたら、怒られるかもしれないと思ってしまって」
言い訳じみた言葉を重ねる自分に、アルテミスは嫌気が差した。
本当はオライオンに嫌われてしまうことが怖くて、書けなかっただけだ。彼が知りたがっていた、魔獣についての仮説も見つかっていたのに。
「ああ、そうだよな。知らない男と娘が文通していたら、親は心配するよな。俺も気が利かなかった」
早口で捲し立てるように一息で言い切ったオライオンは、納得したように深く頷いている。
「じゃあ、次は女の名前で出せば良いよ。エウリュア……は、母さんが先に開けてしまうか。オライ……オラ……」
自分の女性名を真剣に考え始めるオライオンを見て、アルテミスは思わず吹き出してしまう。
「ルーナはどう? 私のライオンの名前よ?」
「ぬいぐるみか。それでいいよ。覚えやすいし」
「では私は、ルーナ宛に手紙を書くわね」
「じゃあ俺は、ルーナの名前でアルテミスに手紙を書くよ」
ルーナに手紙を書くというのは不思議な感覚がしたが、二人だけの秘密のやり取りをするようで、アルテミスは嬉しくなってくる。
くすくすと笑うアルテミスから恥ずかしそうに視線を逸らしたオライオンは、気持ちを誤魔化すように首の辺りを掻いた。
結局その日は魔獣時についての話は切り出せず、アルテミスはオライオンと他愛のない話をして過ごした。
「明日はちゃんと言わないと駄目よね」
館に帰ったアルテミスは、ぬいぐるみのルーナを抱きしめて、ぽつりと零す。オライオンの役に立ちたいと思うのに、彼を失う恐怖は拭い去れなかった。
「オライオンならきっと、話をしても私を拒絶したりなんてしないわ。そうよ、ペンダントを付けていれば、魔物に影響はないのだもの」
そう言って意気込むと、早く明日になるようにと祈りながら、眠りに就いた。
アルテミスとオライオンは馬を並べて森の中を進んでいく。待ち合わせの河原から一直線に、大きな木の根元まで向かう。
「近くで見ると、思っていた以上に大きいな」
塔のように太い幹は、空高くまで伸びる。地面からあふれ出ている根でさえ、アルテミスの胴回りよりずっと太い。
「こっちからが登りやすいわ」
馬から下りたアルテミスは、幹の凹凸に手足を掛けて、するすると登っていく。
「おいっ! 下りてこい!」
とたんに焦ったようなオライオンの声が飛んできた。
「そう、それ」
話に聞いたことはあったが、可愛らしいルーナとライオンが結びつかなくて、アルテミスは困惑した。けれど、ルーナがライオンなら素敵だと思う。
夏にしか会えないオライオンと、いつも一緒にいるぬいぐるみのライオン。オが有るか無いかだけで、よく似ている。
「そう、ルーナはライオンだったのね」
頬を緩めてにまにまとだらしなく笑むアルテミスを、オライオンは不思議そうに眺めていた。
「手紙」
突然、ぽつりとオライオンがこぼす。
「あー、いや、無理にとは言わないんだけどさ。その……」
何の話だろうと首を傾げたアルテミスだったが、昨年の別れ際に連絡先を貰いながら、結局一通も出せなかったことに気付いて、申し訳なさそうにうつむいた。
「いや、気にしなくていいんだ。数回会っただけの男に手紙を書くなんて、しないのが普通だよな」
アルテミスを慰めようと口を開いたのに、自分を納得させるための言葉を紡いでしまい、オライオンは情けなくなって肩を落とす。
彼はこの一年、アルテミスからの手紙を密かに期待していたのだ。
「ごめんなさい。何度か書こうとしたのだけれど、まとまらなくて。それに、お父様やお母様に、男の人と文通をしていると知られたら、怒られるかもしれないと思ってしまって」
言い訳じみた言葉を重ねる自分に、アルテミスは嫌気が差した。
本当はオライオンに嫌われてしまうことが怖くて、書けなかっただけだ。彼が知りたがっていた、魔獣についての仮説も見つかっていたのに。
「ああ、そうだよな。知らない男と娘が文通していたら、親は心配するよな。俺も気が利かなかった」
早口で捲し立てるように一息で言い切ったオライオンは、納得したように深く頷いている。
「じゃあ、次は女の名前で出せば良いよ。エウリュア……は、母さんが先に開けてしまうか。オライ……オラ……」
自分の女性名を真剣に考え始めるオライオンを見て、アルテミスは思わず吹き出してしまう。
「ルーナはどう? 私のライオンの名前よ?」
「ぬいぐるみか。それでいいよ。覚えやすいし」
「では私は、ルーナ宛に手紙を書くわね」
「じゃあ俺は、ルーナの名前でアルテミスに手紙を書くよ」
ルーナに手紙を書くというのは不思議な感覚がしたが、二人だけの秘密のやり取りをするようで、アルテミスは嬉しくなってくる。
くすくすと笑うアルテミスから恥ずかしそうに視線を逸らしたオライオンは、気持ちを誤魔化すように首の辺りを掻いた。
結局その日は魔獣時についての話は切り出せず、アルテミスはオライオンと他愛のない話をして過ごした。
「明日はちゃんと言わないと駄目よね」
館に帰ったアルテミスは、ぬいぐるみのルーナを抱きしめて、ぽつりと零す。オライオンの役に立ちたいと思うのに、彼を失う恐怖は拭い去れなかった。
「オライオンならきっと、話をしても私を拒絶したりなんてしないわ。そうよ、ペンダントを付けていれば、魔物に影響はないのだもの」
そう言って意気込むと、早く明日になるようにと祈りながら、眠りに就いた。
アルテミスとオライオンは馬を並べて森の中を進んでいく。待ち合わせの河原から一直線に、大きな木の根元まで向かう。
「近くで見ると、思っていた以上に大きいな」
塔のように太い幹は、空高くまで伸びる。地面からあふれ出ている根でさえ、アルテミスの胴回りよりずっと太い。
「こっちからが登りやすいわ」
馬から下りたアルテミスは、幹の凹凸に手足を掛けて、するすると登っていく。
「おいっ! 下りてこい!」
とたんに焦ったようなオライオンの声が飛んできた。
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