虐げられた令嬢と一途な騎士

しろ卯

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48.また増えた

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「隊長は王都にご家族を残してきているんですよ。お子さんが五人います」
「六人だ!」
「また増えたんですか? あなた、年に一回、数日しか帰れていないはずですよね?」

 年に一家しか会えないと聞いたアルテミスの眉間にしわが寄り、無意識にオライオンを窺い見てしまう。

「その時は騎士の称号を返上して、一緒にいるよ」
「オライオン」
「まあ冗談はさておき、少し真剣に考えた方が良いかもしれませんね。こちらが減ったことが関係しているのかまでは分かりませんが、王都の方で魔獣が増えているそうです」

 一か月も経てば、コアトルもアルテミスとオライオンの扱いは手慣れたものになっていた。いちゃつく二人は気にせず、話を進めていく。

 書類や手紙は月に一度、物資の輸送と共に運ばれてくる。
 それとは別に、緊急の用件は一つ先の町まで早馬を出し、そこから鳥を飛ばして王都と連絡を付けることもできるのだが、コアトルが言っているのは物資と共に昨日、届いたばかりの手紙だ。 
 そこには王都周辺で魔物が増加しているため、次にクレータに送る予定の人員を減らすかもしれないと記載されていた。

「王都に戻るなら、その辺の様子も調べてきてください。あと減らすのはいいですが、いざというときに対応できるよう、なるべく戦える人間を送るようにと伝えてきてくださいますか?」
「たぶん役に立たない奴だけを、送ってくるつもりだろう」

 にっこりと目の笑っていない笑顔で言い放つコアトルに、ケルヌは太い息を吐きながら肩を竦めた。
 クレータの重要性は国も理解しているはずだが、王都から遠いとどうしても対岸の火事と軽く見られやすい。

「まあそういうことなら、一度帰ってくるか」

 物資を運んできた空の馬車と騎士たちが帰っていった後、ケルヌは単騎で王都を目指し駆けていった。



「ケルヌではないか! 久しいな」

 一度家に戻って旅装を解き、旅の埃も落したケルヌは、辺境クレータの様子を報告するべく王城に赴いた。

「クピード殿下、御無沙汰をしております。変わらずご健勝そうで何よりでございます」

 アルテミスの件で思うことがないわけではなかったが、何事も一方からの話だけでは偏るものだ。
 クピードにはクピードなりの考えや理由があるのだろうと、ケルヌはいつもと変わらぬ態度で騎士の礼を取る。

「息災で何よりだ。あとで時間が取れれば久方ぶりに相手をしてくれ。少しは上達したと思う」
「はっ、楽しみにしております」

 ではな、と言い残して去っていったクピードを見送ったケルヌは、やはり彼がアルテミスの言っていたような不実な男にも、冤罪で人を陥れるような愚劣な人間とも思えなかった。
 とはいえ一ヶ月の間、共に過ごしてきたアルテミスが、重罪を犯すような娘とも思えない。
 二人とも何かの陰謀に巻き込まれたか、大きなすれ違いがあったのではないかと、城の中を見る目を鋭くしながら通路を進む。

「ケルヌ」
「おお、ポセイダーか」

 声を掛けられて視線を向ければ、ケルヌには及ばずとも筋骨逞しく、それでいて目元涼しげな整った顔立ちの男がいた。
 二人は同期であり力も拮抗していたため、騎士団の中でも特に親しくしていた。
 オライオンのこともポセイダーから相談を受け、あまり手紙を書かないオライオンに代わり、近況を知らせる手紙を送ってやっていた。

「少しいいか?」
「陛下への謁見までなら」

 声を潜めたポセイダーの表情を見て何事かあったのだと即座に察したケルヌは、迷わず了承して友人の後を着いて歩く。

「新入りの様子はどうだ?」
「上手くやっている」
「そうか」

 新入りというのがアルテミスを指すのだとはすぐに分かったが、隠語を使ってまで彼が近況を尋ねる理由は気になった。
 ポセイダーが王家に寄せる忠誠は、騎士の中でも強い。甥の元恋人というだけで、王家に仇なした罪人を気に掛けるとは思えなかった。
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