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とある王太子妃の不満
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物心ついた時には、自分は人間ではなく道具なのだと理解していた。家庭教師を付けられ、朝から晩まで拘束される。
主要五カ国語を叩き込まれ、さらに三カ国語は日常会話程度。挨拶程度となると片っ端から。いったいどれだけの言語で挨拶できるのか、自分でも分からない。使うことがあるのだろうかと、首を傾げるような国名もあった。
それ以外にも礼儀作法、ダンス、芸術に関する知識など、学ぶことに際限はない。膝を曲げるだけの礼でも、落とし加減や姿勢、笑顔を保ったままで維持するなど、スクワット百回の方がよっぽど楽だというレッスンを受けさせられた。
おかげで誰からも見とれられる所作を身に着けたので、文句はないけれど。
毒に慣れさせられたり医療知識まで学ばされたときは、いったい私は何を求められているのだろうかと、真剣に考え込んでしまったわ。
そんな日々を過ごしている内に、私は王太子の婚約者に決まった。そこに私の意思などない。父によって有無を言わさず婚約させられ、結婚させられた。
でもこれで私は、この家から解放される。そう考えると、嬉しくて笑顔がこぼれた。
父の目的は、私と王太子の間に生まれた子供の後見人となり、国を手中にすることだろう。
そんなことにどんな価値があるのか私にはさっぱりわからないけれど、これ以上、父の思い通りになどなりたくはない。それにこんな欲望の権化が国を手にしたら、この国はどうなってしまうのかしら?
私の笑顔は、暗く歪んでいく。
幸いにもこの国の王族は、側室や愛妾を持つことが許されている。ならばやることは簡単だ。王太子には他の女性との間に子供をつくってもらいましょう。私はお飾りの妃でいい。
抗体を持っていても対応できるように、様々な種類の睡眠薬を手に入るだけ手に入れ、独自の調合も加え、嫁入り道具に隠してお城へ持っていった。
婚礼の行事は予想以上に大変だった。朝から晩まで重いドレスを着て、笑顔を取り繕う。
実家にいたときは簡素なワンピースばかりで、ドレスなんてダンスやマナーのレッスンでしか着たことがなかったから、本当に疲れたわ。
特に高いヒールの靴なんて、何が良くて履くのかさっぱり理解できない。だから途中でヒールは折ってやったの。
夜は眠りを誘う香を焚いて、睡眠薬入りのお酒を王太子にお出しした。でもお酒は飲んでくれなかったから、お茶を差し上げることになってしまったわ。お酒の方が弱い薬を入れていたのだけれど、仕方ないわね。
効果が出るまで少しお話をして、子供を産むつもりはないこともお伝えしてから、眠りに就いていただいた。もう夜に来ることはないと思っていたのだけれど、義務なのかしばらくは毎夜、王太子はやってきたの。
一度、薬が効く前に寝台に横たわらせられたから、仕方なく急所を突いて眠らせた。
念のために催眠薬をかがせて、いつもと同じように、寝台に横たわると同時に眠りに就いたと暗示しておいた。面倒な人ね。
王太子妃の勤めは実家にいたときに比べれば楽だけれど、常に侍女や騎士が張り付いて見張っているし、大勢の人と会話しなければならないから精神的に疲れていった。
さすがにそろそろ限界だと思い、侍女を部屋で待たせて、騎士だけを連れて庭に出たの。人気のない場所へと向かい、騎士にお願いする。
「ねえ、最近とても溜まっているの。お相手してくださらない?」
騎士はたじろいだ。護衛対象からこんなお願いをされたら、やっぱり困るわよね。
「本気でなくてもいいの。顔以外は痕を付けても構わないから」
と言ったところで、騎士はぶんぶんと首を左右に振りだした。
「なりません。私の首が飛びます」
「誰にも言わないから。お願い」
そう懇願したけれど、その騎士は首を縦には振ってくれなかった。必死で断る姿がかわいそうで、私もその日は我慢することにしたわ。
別の日に、あの時とは違う騎士に同じようにお願いした。でもやっぱり断られてしまったの。
何人かの騎士に頼んでみたけれど全員に断られて、無理なんだと諦めかけたとき、人気のない庭園で一人の騎士が声を掛けてきた。
「お相手してくださるの?」
私はその騎士の申し出が嬉しくて、ぱあっと笑顔を浮かべた。騎士は頷く。
「嬉しいわ。本当にもう限界だったの。じゃあ、さっそく」
と、気持ちを切り替えた私は、次の瞬間には彼に馬乗りになっていた。じっと見上げてくる騎士は、動こうとしない。
私は困って眉を下げる。
「ねえ、もっとちゃんとしてくださらない?」
騎士の上から退けた私は、仕切り直すことにした。今度は彼の方から攻めてくれるように待つ。けれど結果は同じだった。残念だけど、彼は役に立たなかったの。
消化不良な私は、さらに追い詰められていった。けれどその後、私のお相手をしてくださる騎士様が増え、私の精神は少しずつ安定していった。
主要五カ国語を叩き込まれ、さらに三カ国語は日常会話程度。挨拶程度となると片っ端から。いったいどれだけの言語で挨拶できるのか、自分でも分からない。使うことがあるのだろうかと、首を傾げるような国名もあった。
それ以外にも礼儀作法、ダンス、芸術に関する知識など、学ぶことに際限はない。膝を曲げるだけの礼でも、落とし加減や姿勢、笑顔を保ったままで維持するなど、スクワット百回の方がよっぽど楽だというレッスンを受けさせられた。
おかげで誰からも見とれられる所作を身に着けたので、文句はないけれど。
毒に慣れさせられたり医療知識まで学ばされたときは、いったい私は何を求められているのだろうかと、真剣に考え込んでしまったわ。
そんな日々を過ごしている内に、私は王太子の婚約者に決まった。そこに私の意思などない。父によって有無を言わさず婚約させられ、結婚させられた。
でもこれで私は、この家から解放される。そう考えると、嬉しくて笑顔がこぼれた。
父の目的は、私と王太子の間に生まれた子供の後見人となり、国を手中にすることだろう。
そんなことにどんな価値があるのか私にはさっぱりわからないけれど、これ以上、父の思い通りになどなりたくはない。それにこんな欲望の権化が国を手にしたら、この国はどうなってしまうのかしら?
私の笑顔は、暗く歪んでいく。
幸いにもこの国の王族は、側室や愛妾を持つことが許されている。ならばやることは簡単だ。王太子には他の女性との間に子供をつくってもらいましょう。私はお飾りの妃でいい。
抗体を持っていても対応できるように、様々な種類の睡眠薬を手に入るだけ手に入れ、独自の調合も加え、嫁入り道具に隠してお城へ持っていった。
婚礼の行事は予想以上に大変だった。朝から晩まで重いドレスを着て、笑顔を取り繕う。
実家にいたときは簡素なワンピースばかりで、ドレスなんてダンスやマナーのレッスンでしか着たことがなかったから、本当に疲れたわ。
特に高いヒールの靴なんて、何が良くて履くのかさっぱり理解できない。だから途中でヒールは折ってやったの。
夜は眠りを誘う香を焚いて、睡眠薬入りのお酒を王太子にお出しした。でもお酒は飲んでくれなかったから、お茶を差し上げることになってしまったわ。お酒の方が弱い薬を入れていたのだけれど、仕方ないわね。
効果が出るまで少しお話をして、子供を産むつもりはないこともお伝えしてから、眠りに就いていただいた。もう夜に来ることはないと思っていたのだけれど、義務なのかしばらくは毎夜、王太子はやってきたの。
一度、薬が効く前に寝台に横たわらせられたから、仕方なく急所を突いて眠らせた。
念のために催眠薬をかがせて、いつもと同じように、寝台に横たわると同時に眠りに就いたと暗示しておいた。面倒な人ね。
王太子妃の勤めは実家にいたときに比べれば楽だけれど、常に侍女や騎士が張り付いて見張っているし、大勢の人と会話しなければならないから精神的に疲れていった。
さすがにそろそろ限界だと思い、侍女を部屋で待たせて、騎士だけを連れて庭に出たの。人気のない場所へと向かい、騎士にお願いする。
「ねえ、最近とても溜まっているの。お相手してくださらない?」
騎士はたじろいだ。護衛対象からこんなお願いをされたら、やっぱり困るわよね。
「本気でなくてもいいの。顔以外は痕を付けても構わないから」
と言ったところで、騎士はぶんぶんと首を左右に振りだした。
「なりません。私の首が飛びます」
「誰にも言わないから。お願い」
そう懇願したけれど、その騎士は首を縦には振ってくれなかった。必死で断る姿がかわいそうで、私もその日は我慢することにしたわ。
別の日に、あの時とは違う騎士に同じようにお願いした。でもやっぱり断られてしまったの。
何人かの騎士に頼んでみたけれど全員に断られて、無理なんだと諦めかけたとき、人気のない庭園で一人の騎士が声を掛けてきた。
「お相手してくださるの?」
私はその騎士の申し出が嬉しくて、ぱあっと笑顔を浮かべた。騎士は頷く。
「嬉しいわ。本当にもう限界だったの。じゃあ、さっそく」
と、気持ちを切り替えた私は、次の瞬間には彼に馬乗りになっていた。じっと見上げてくる騎士は、動こうとしない。
私は困って眉を下げる。
「ねえ、もっとちゃんとしてくださらない?」
騎士の上から退けた私は、仕切り直すことにした。今度は彼の方から攻めてくれるように待つ。けれど結果は同じだった。残念だけど、彼は役に立たなかったの。
消化不良な私は、さらに追い詰められていった。けれどその後、私のお相手をしてくださる騎士様が増え、私の精神は少しずつ安定していった。
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