2 / 4
『「ご自由にお取りください」の責任』2話
しおりを挟む
第一章:なくなったはずの箱
あのお菓子箱は、確かに撤去されたはずだった。
給湯室の隅に残っていたのは、うっすらとしたテープ跡と、「ここに何かあった」気配だけ。
それで終わったと思っていた。
誰も食べていない。
誰も責任を取っていない。
誰も困っていない。
——はずだった。
それなのに、二週間後の月曜日。
同じ場所に、少しだけサイズの違う箱が置かれていた。
前より丈夫そうで、前より無地で、前より「無難」な段ボール。
そして、最初から貼り紙があった。
「ご自由にお取りください(再)」
誰も言わなかったけれど、全員が同時に思った。
(またか)
第二章:前より丁寧な貼り紙
しかし、今回は違った。
初日から貼り紙が多い。
「差し入れです」
「余ったものではありません」
「無理に取らなくて大丈夫です」
“自由”の説明が、前回よりもずっと丁寧だった。
まるで、前回の失敗を反省した誰かが、事前に予防線を張っているみたいだった。
だが、箱の中身は、またしても減らない。
中身は、個包装のフィナンシェだ。
一個取ると、「最初の一人」になるタイプのやつ。
第三章:一個取った人が特定される恐怖
誰かが、ぽつりと言った。
「これ、減ったら分かりますよね」
確かに。
箱の中は、ぎっしり詰まっているわけじゃない。
一個なくなったら、明らかにわかる。
しかも、給湯室に出入りする人数は限られている。
つまり——
取った瞬間、“犯人”になる。
その言葉は使われなかったが、全員の頭に浮かんでいた。
第四章:補充という名の罪
三日目。
箱の中身が、一個だけ増えていた。
誰も言わない。
でも、全員が気づいた。
(……増えた?)
貼り紙が追加される。
「減っても補充されます」
優しさのつもりだったのだろう。
だが、その一文は、逆に空気を重くした。
減らしていい。
でも減らしたら、誰かが責任を持って補充する。
つまり、
減らす=誰かに仕事を発生させる。
誰も、そんな責任を負いたくなかった。
第五章:数を数え始める人たち
いつからか、誰かが数を把握し始めた。
「今、12個ありますよね」
「昨日も12個でした」
「増えてません?」
もはや、お菓子は目的じゃない。
観察対象だった。
誰も取らないのに、誰も無関心じゃない。
箱は、職場で一番注目されていた。
第六章:注意書きがルールになる瞬間
貼り紙が、明らかに命令口調になる。
「一度に複数取らないでください」
誰も取ってないのに。
「持ち帰りはご遠慮ください」
誰も触ってないのに。
ルールは、違反が起きてから生まれるものじゃない。
起きそうな不安から生まれる。
それが、この箱で証明されていた。
第七章:管理されない自由の限界
ついに、管理部が動いた。
「これは、誰の管理ですか?」
補充されている。
貼り紙が更新されている。
ルールが追加されている。
つまり——
もう“自然発生”じゃない。
誰かが関与している。
なのに、名乗り出ない。
管理部は言った。
「責任者がいないものは、置いておけません」
貼り紙が一枚増える。
「撤去予定日:未定」
第八章:撤去では終わらない
撤去は突然だった。
昼休み前にはあった箱が、午後には消えていた。
でも、誰もスッキリしなかった。
「あれ、どうなったんだろ」
「結局、誰のだったんですかね」
「一個も食べてないのに、やたら記憶に残りますよね」
誰も満たされていない。
それが、一番の後味だった。
最終章:責任は形を変えて残る
翌月。
今度は箱ではなく、袋だった。
個包装キャンディ。
透明な袋。
貼り紙は、ひとつだけ。
「減ってたら、嬉しいです」
その日。
一個、減った。
誰が取ったか、誰もわからない。
補充も、貼り紙追加も起きなかった。
自由は、責任が見えない形になったときだけ、成立するのかもしれない。
でも、それが正しいかどうかは、誰も書かなかった。
あのお菓子箱は、確かに撤去されたはずだった。
給湯室の隅に残っていたのは、うっすらとしたテープ跡と、「ここに何かあった」気配だけ。
それで終わったと思っていた。
誰も食べていない。
誰も責任を取っていない。
誰も困っていない。
——はずだった。
それなのに、二週間後の月曜日。
同じ場所に、少しだけサイズの違う箱が置かれていた。
前より丈夫そうで、前より無地で、前より「無難」な段ボール。
そして、最初から貼り紙があった。
「ご自由にお取りください(再)」
誰も言わなかったけれど、全員が同時に思った。
(またか)
第二章:前より丁寧な貼り紙
しかし、今回は違った。
初日から貼り紙が多い。
「差し入れです」
「余ったものではありません」
「無理に取らなくて大丈夫です」
“自由”の説明が、前回よりもずっと丁寧だった。
まるで、前回の失敗を反省した誰かが、事前に予防線を張っているみたいだった。
だが、箱の中身は、またしても減らない。
中身は、個包装のフィナンシェだ。
一個取ると、「最初の一人」になるタイプのやつ。
第三章:一個取った人が特定される恐怖
誰かが、ぽつりと言った。
「これ、減ったら分かりますよね」
確かに。
箱の中は、ぎっしり詰まっているわけじゃない。
一個なくなったら、明らかにわかる。
しかも、給湯室に出入りする人数は限られている。
つまり——
取った瞬間、“犯人”になる。
その言葉は使われなかったが、全員の頭に浮かんでいた。
第四章:補充という名の罪
三日目。
箱の中身が、一個だけ増えていた。
誰も言わない。
でも、全員が気づいた。
(……増えた?)
貼り紙が追加される。
「減っても補充されます」
優しさのつもりだったのだろう。
だが、その一文は、逆に空気を重くした。
減らしていい。
でも減らしたら、誰かが責任を持って補充する。
つまり、
減らす=誰かに仕事を発生させる。
誰も、そんな責任を負いたくなかった。
第五章:数を数え始める人たち
いつからか、誰かが数を把握し始めた。
「今、12個ありますよね」
「昨日も12個でした」
「増えてません?」
もはや、お菓子は目的じゃない。
観察対象だった。
誰も取らないのに、誰も無関心じゃない。
箱は、職場で一番注目されていた。
第六章:注意書きがルールになる瞬間
貼り紙が、明らかに命令口調になる。
「一度に複数取らないでください」
誰も取ってないのに。
「持ち帰りはご遠慮ください」
誰も触ってないのに。
ルールは、違反が起きてから生まれるものじゃない。
起きそうな不安から生まれる。
それが、この箱で証明されていた。
第七章:管理されない自由の限界
ついに、管理部が動いた。
「これは、誰の管理ですか?」
補充されている。
貼り紙が更新されている。
ルールが追加されている。
つまり——
もう“自然発生”じゃない。
誰かが関与している。
なのに、名乗り出ない。
管理部は言った。
「責任者がいないものは、置いておけません」
貼り紙が一枚増える。
「撤去予定日:未定」
第八章:撤去では終わらない
撤去は突然だった。
昼休み前にはあった箱が、午後には消えていた。
でも、誰もスッキリしなかった。
「あれ、どうなったんだろ」
「結局、誰のだったんですかね」
「一個も食べてないのに、やたら記憶に残りますよね」
誰も満たされていない。
それが、一番の後味だった。
最終章:責任は形を変えて残る
翌月。
今度は箱ではなく、袋だった。
個包装キャンディ。
透明な袋。
貼り紙は、ひとつだけ。
「減ってたら、嬉しいです」
その日。
一個、減った。
誰が取ったか、誰もわからない。
補充も、貼り紙追加も起きなかった。
自由は、責任が見えない形になったときだけ、成立するのかもしれない。
でも、それが正しいかどうかは、誰も書かなかった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる