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叙爵 編

オーク集落

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 ゴブリンを狩るのは楽勝だった。実はサユリアのハーフブーツにも素早さアップの魔法が付与されていた。本当にお買い得だった。知らないという事は愚かで罪な事だ。


素早かったサユリアが更に早くなってゴブリンを葬っていく。

ちょっと太めの体型でこの動き、このアンバランスさが見ている者達をきっと混乱させることだろう。

1週間、ゴブリンを狩りに苅って俺達はEクラスになった。レベルを上げる為にほとんどサユリアが殺っているのだが。

そろそろランクの高い魔物を相手にしたいところなので、依頼とは別に森の奥に進む事にした。

暫く進むとフォレストウルフの群れに出会した。

「大丈夫かいサユリア?」
「お任せください」

そう言うと10頭ほどの群れの中に突っ込んで行く。飛びかかって来るフォレストウルフの毛皮を傷つけ無いように、眉間に剣を突き刺して行く、流石だ。

離れて後方にいた、毛色の違う1頭のフォレストウルフの正面が一瞬歪んだ様に見えた。魔法に違いない、この世界に来て初めて見る。風属性の魔法だろう、歪んだ鎌の様な物がサユリアに向かって飛んでいく。

大丈夫だと思うが念の為に、サユリアの周りを位置指定して無効空間を造る。

サユリアも気づいているので避ける事が出来るのだが、体制を崩されフォレストウルフの群れの中心に誘導される格好になってしまう。

それでも殺られはしないが、あまり宜しくはないので俺が魔法を無効にして消した。アイコンタクトでサユリアとお互いに状況を確認をする。

避ける必要がなくなったサユリアは、残りのフォレストウルフを倒して風魔法を放った毛色の違うフォレストウルフに向う。

仲間を全て殺られ、形勢不利と判断したフォレストウルフはきびすを返して逃げ出す。サユリアは後ろを向いたフォレストウルフにストーンバレット放つ。


「勝負あったな」

石の弾丸を喰らった毛色の違うフォレストウルフは、血だらけになって倒れた。


ゴブリンを10頭ほど狩って依頼の形を整えギルドに戻り、いつもの受付嬢の所に行く。




「ゴブリンを狩っていたら、フォレストウルフに出会したんで一応倒して持って来たんだけど」


「あら、そうなの大変だったわね。無事だったから良かったけれど、あまり無茶をしないでね。それで解体はしたの?」


「解体はしてません」
「では裏の解体場へ持って行ってください」
「解りました」

「あっ、ユタカ君、この間のクリーム有る?」

「有りますけど、この前のは試供品なので今度はお金がかかりますよ」

「構わないわ、友達も欲しいって言ってるの4個頂戴」
「解りました。銀貨12枚になります」

「分かった、用意しておくわね。はい、これはゴブリンの分の銀貨1枚」

「ありがとう御座います」




解体場に行くとガタイの良いおっさんがオークをさばいていた。あれが串焼きの材料になるのかな?などと考えながら見ていると後ろから声をかけられた。

「兄ちゃん、なんか用かい?」

振り返ると、オークをさばいているおっさんと同じ顔のおっさんがいた。

「えっ?」
「あれは俺の兄貴だ」

双子だったのか。

「フォレストウルフを持って来たんですが」
「ほ~う、どこだ?ここに出してみな」


アイテムBOXから全部出す。

「おっ、アイテムBOXか、羨ましいな。どれどれ、全部で11頭か、頭を突いて身体にキズは無いのが10頭、なかなか腕が良いな。傷だらけのこれはフォレストハイウルフじゃないか、兄ちゃんが倒したのか?」

「いえ、俺ではなくサユリアです」

「醜女の姉ちゃん……いや、失礼、この娘がね。分かった魔石から全て買い取りでいいのだな」

「お願いします」

「それじゃ、手数料を引いた分の金額を受付に言っておくので受け取ってくれ」

「解りました」



「ボブさんから査定額の連絡があったわ、毛皮が11頭分で銀貨35枚、魔石が銀貨60枚、牙などの素材が銀貨15枚で金貨1枚と銀貨10枚ね、これが明細よ」


おお、金貨だ。穴が空いていても上位種のハイウルフの毛皮の方が高いのか。魔石も牙も高い、やっぱり強い魔物は金になるな。


「ありがとう御座います。カーラさん、さっき言うの忘れてましたが、髪を洗う用のシャンプーと浴槽に入れるオイルも有りますので、次に来るとき試供品を持って来るので試してください」

「ホント、嬉しいわ」


営業もバッチリ、こういうのは口こみが大事だからね。これは軌道に乗って来たな。



フォレストウルフとの戦いでサユリアはレベルが11になった。魔物を倒す時はサユリアとパーティとしての登録は、わざとしていないので、倒した経験値の入らない俺はレベルが1のままだ。あの糞爺との事もあるので、俺は黒子の役に徹するつもりだ。俺にレベルなど必要は無いので問題はない。



フォレストウルフを狩って一週間後、俺達はDクラスになった。この頃になるとサユリアの実力を他の冒険者達は認める様になっていた。

反面、俺の評価は惨憺たる物だ。醜女の奴隷に魔物を倒させ何もしないろくでなし、醜女好きの変態、などなど酷い言われようだ。

メキメキと実績を上げてきたやっかみもあるのだろうが、仕方のないところだろう。まあ、ぜんぜん俺は気にしないが。


今日は南の森で行方不明になる事件が頻発していた為、調査していた冒険者達が発見したオークの集落を7つのパーティ合同で討伐に来ている。


「戻って来たか。で、どうだった?」
「大体100頭ぐらいだな」

「上位種はいたか?」
「ハイオークが5頭いた」

「そうか、ハイオークはCクラスの俺達と"暁"のパーティが殺るので、皆は無理をしないでくれ」

「了解だ」「「分かった」」「OKだ」

「また意味の解らない事を言って、頼むぜ兄さん」
「ああ、任せてくれ」

「よく言う、ブスの姉ちゃん頼み……おっと御免よ姉ちゃん」

「いいんです、気にしていませんから」
「そうかい?実力は認めてるんだ、頼りにしてるぜ」

「はい」



「よし、行くぞ」
「「「おう」」」



魔法の得意なパーティ"燃える闘魂"の連中が、打ち合え合わせ通りファイアーボールを連発して切り込んでいく。


不意を突かれたオーク達は体制を整えられずに倒されて行く、それを見て残りのパーティが突入する。俺もサユリアも続いて集落の中に入った。


騒ぎに気づいたハイオークが、小屋の様な家から出てきた。打ち合わせ通り"黄昏"と"暁"のパーティが向かって行く。

オークは身体はデカいがそれほど機敏な動きではない。俺達と同じ残りのDクラスパーティが次々と葬って行く。

"黄昏"と"暁"の連中も危なげなくハイオーク相手に戦っているので意外と早く決着が付きそうだ。


サユリアがストーンバレットを放って10頭のオークを倒して立っているオークはいなくなった。

「意外と早く終わったな」
「うむ」


「待ってください」
「どうした?ブスの姉ちゃん」

「まだ気配が有ります」

「……確かに。あっちの方だな」

山壁際に建っている少し大きめの家からだ。

「中を確認しよう」「慎重にな」

家の中には何も無い。大きなテーブルが1つあるだけだった。

「集会場の様なものか?」
「壁にかかっている大きな布は何だ?」

天井から床まであるかなり大きな布だった。

「窓も無いのにカーテンかよ、それもこんなに大きな。全くオークの考える事は分かんないぜ」

"暁"のリーダーが文句を言いながら布をめくると壁に大きな穴が空いていた。

「洞穴だ」
「気配が強くなって来ます」
「やな予感がする。皆んな早く外へ出ろ」

「お、おう」


全員が外に出て暫く経つと、殺気を放ちながらそれは姿を現した。

誰かのゴクッと唾を呑む音が聞こえて来る。

「オークキングにクィーン……」
「マジか」
「ヤバくね」

「ユタカ様」
「ちょっと厄介だな」


「散開しろ!」

"黄昏"のリーダーの掛け声に我に戻った各パーティは、バラけて距離を取り剣を構えた。
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