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3巻

3-3

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「本当はこの地下通路を使うようなことが起きないのが、一番いいんだけどね。それでね、地下通路なんだけど……」

 地下通路は逃げるためにあるからね、ライトも限られた必要最低限しか使わないそうです。あんまり明るいと、僕達はもちろん移動しやすいけど、それは敵も同じになっちゃうから。

「だからとっても暗く感じて怖いかもしれないけど、お兄ちゃん達が必ず一緒にいるから大丈夫だからね」

 エイデンお兄ちゃんはそう言って、頭をでてくれます。
 あと、レオナルドお兄ちゃんが戻ってきたら少しだけど、中がどうなっているか見せてくれるって。大丈夫、どんな場所でもみんな一緒なら怖くないよ!
 それからすぐにレオナルドお兄ちゃん達が戻ってきました。
 ちょっと先までしか行っていないけど、今のところ異常はないみたいです。
 レオナルドお兄ちゃんが僕を抱っこして、それからドラちゃんはレオナルドお兄ちゃんと手を繋いで、一緒にちょっとだけ壁の中に入ってみました。

『暗い』
『暗いなの』
「ほとんど見えないね」
「くりゃ」

 思っていたよりも壁の向こうはとっても暗くて、中は見えませんでした。
 大丈夫って言ったけど、僕心配になってきちゃったよ。

「早くお父さん達帰ってこないかな? それであの変なの消してもらってさ」

 ドラちゃんが口をとがらせながらそう言います。
 うん、それがいいね。スノーラに早く帰ってきてもらって、ささっと解決してもらおう!!


 ◇ ◇ ◇


「一体この攻撃は何なんだ、全くこちらの攻撃が効かない、剣も魔法も全て弾かれてしまう」

 私、ローレンスは黒い塊に向かって剣を向けながら、そうこぼす。
 そろそろケビンを護衛として子供達の方へ向かわせた方がいいだろうか。
 そう考えていると、エイデン達に付いていっていた騎士が、エイデンからの伝言のメモを持ってきた。
 そこには、どうもレンが狙われているのではないかとドラが言っている、ということが簡単に書いてあった。
 なぜレンを狙う?
 色々と規格外なところはあるが、外に漏らすようなことはしていない。
 それに、以前レンが酔っ払いに絡まれて以降、スノーラがいない時には、必ず近くに護衛をつけておいたのだ。レン達が不安がるといけないと思い、姿を見せないようにさせていたが。
 スノーラもその護衛達からも、レンを狙っている者がいるなど、報告は一切来ていない。
 だいたい、スノーラに気付かれずに、レンを調べるために近づけた者などいないはずだ。
 しかし……魔法陣を調査しに森へ行った時、スノーラもブラックホードも、その気配を感じることができなかった。
 それと同じように、人間の気配も消されていたら?
 そう悩む私に、ケビンが声をかけてくる。

「ローレンス様、今はこれを消すことが先決です」
「分かっている。とりあえず使えるものは全て試そう」
「あなた! 風魔法は全て弾かれたわ!」
「分かった! 次は……」

 フィオーナの言葉に、わたしは次の指示を出す。
 どれだけの種類の魔法をここまで使ったことか。完全に消滅させることはできていないものの、どうにか弾いているおかげで、こちら側に重傷者は出ていない。
 しかしやはり、弾き返すのが精一杯で、じわじわと追い込まれてきていた。
 ――と、それは突然だった。
 一瞬、違和感を抱いた私は動きを止める。そしてそれは、フィオーナもセバスチャンも、ケビンもアンジェも同様だった。止まっていないのは騎士達とあの攻撃だけだ。
 私は周りを見渡す。
 何だ? 今何が起きた? 一瞬とても邪悪な気配が、体を通りすぎたような……

「あなた、あなたも今の気配を感じたのね」

 不安そうなフィオーナにうなずき、私はセバス達の方に顔を向ける。

「ああ、セバス達もか?」
「はい!」
「今の感覚は一体……」

 不安を覚えながらも、攻撃に戻ろうとする。しかしすぐに新たな変化が起きた。
 今まで散々私達を攻撃してきていた、あの黒いものが全て消えたのだ。
 しかも、つい先程感じたあの邪悪な気配が、私の屋敷全体を包み込んだような感じもした。
 そして……それ以上の邪悪な気配を一階の方から感じた。

「……まずい、下だ!!」

 私はそう言うのと同時に一階へと走り出す。
 フィオーナ、セバス達もそれに続き、途中でフィオーナとアンジェが私を追い抜くと、先に一階へ下り、エイデン達のいる避難部屋の方へ向かった。
 私も遅れながら廊下を曲がると、フィオーナが火魔法を放ったのが見えた。アンジェも同時に土魔法を放っていて――


 ◇ ◇ ◇


「まったく、ベルンドアへ向かう前日だというのに、こんな日に限って、妙な気配がするとは」
「しかも一箇所ではなく数箇所同時にな」
「だが、結局は何も分からず、か……」

 それは真夜中、突然のことだった。
 今までにない嫌な気配――それはエンの子供も気付くほどのものを、森から感じたのだ。
 我、スノーラはエンと共に、すぐに森へ確認に来た。
 明日は朝早くから移動だというのに、今日くらい何もなくてもよかっただろう。
 街から一番近い森に着くと、既にブラックホードが待っていた。奴の近くの森は確認が終わったということで、他の森を見に行くことになった。
 しかし、その気配の出所はあいまいで、結局は何も見つけることができなかった。
 まったく、イライラする。これのために我らはどれだけ気をまなければいけないのか。
 レンのことを考えたら人間の街にいた方がいいだろうと考えてこの街へ来たのに、これ以上問題が増えるのならば、本当に移動を考えざるを得ない。
 その後も、念のためもう一度森を調べたが、やはり何も見つからない。
 それが終わったら明日使うであろう森の道を確認しに行った。レン達が通った時に何かあっては困るからな。
 そして何もないことを確認して、ブラックホードの森へ戻ってきた。
 今回のことについて色々と話してから、我とエンは屋敷に戻ることにする。

「とりあえず、我らは一度帰るとしよう。息子も待っているからな」
「うむ……エン、ブラックホード、我は明日からいなくなるが、二人とも気をつけろよ」

 ブラックホードは真剣な表情で頷く。

「分かっている。お前もしっかりと調べてこい。何も見つからないでは、私が許さんぞ。見つかるまで帰ってくるな」
「いや、見つかるまでと言っても……」

 と、そこで我は言葉を止める。
 ふと、懐かしい感覚があったのだ。
 何だこれは? 何なのだこれは!? まるでのようなこの感覚は!!
 我は振り返り街の方角を見た。レン達がぐっすり寝ているだろう街の方角を。
 我だけではなく、エンもブラックホードも同じ方角を見つめていた。
 我らでさえ一瞬固まってしまうような、禍々まがまがしい、そして邪悪な、とても強い力が街を包み込んでいたのだ。

「くっ、エン。戻るぞ!!」

 我の言葉と共に、我とエンは街へと向かって走り出す。
 我は途中で変身を解き魔獣の姿へと戻ると、エンを乗せさらにスピードを上げる。

『何だ、この感覚は。あの時とまったく同じではないが、かなり近いものを感じるぞ!』
「ああ、なぜそれが街の方から。なぜ我々がいない時に!」

 エンも焦ったようにそう言う。
 早く、早く帰らなければ。
 レン、ルリ、アイス、今我が行く! それまでどうか、どうか無事でいてくれ。
 そう願いながら、これ以上は我でも体がもたないという、ギリギリのスピードで走る。
 そして街が見えた瞬間――

「スノーラ、急げ!!」
『レン!! ルリ!! アイス!!』


 ◇ ◇ ◇


 ソファーに戻った僕達。
 ルリとアイスは相変わらず、僕からそんなに離れないで部屋の中を見ています。
 壁が動いたからね。他にもそういう不思議なものがあるんじゃないかって、探しているみたい。エイデンお兄ちゃんが「他にはないよ」って、ちょっと笑っていました。
 そういえば少し前から、二階から聞こえていた音が少し小さくなったような。
 ローレンスさん達があの攻撃を消してくれているのかな? スノーラ達が帰ってきて、みんなで攻撃したら、完璧に消えてくれるよね。
 あ~あ、でも僕達の部屋ボロボロだよね。きっと秘密基地も壊れちゃったよ。
 ……ん? あっ!? 僕、秘密基地で大切なことを思い出しました。
 卵!! 秘密基地に置いてあった卵は無事かな!?
 僕がいた時は、まだ秘密基地は壊れてなかったけど、あれからどれだけ攻撃をされているかは分かりません。すぐにレンとルリを呼ぼうとします。でも……
 みんなの動きが止まりました。
 なんだろうね、なんか止まったんだよ。
 僕もルリとアイスも、お兄ちゃん達やドラちゃんも。みんなが止まったの。
 それから静かになってきていた音も完全に聞こえなくなって、全ての音が消えました。
 そして数秒後――

「さっきの攻撃が来る!! それに別の攻撃も!!」

 ドラちゃんが叫ぶのとほぼ同時に、僕の所だけじゃなくて、みんなの周りの床から、あの黒い攻撃が飛び出てきました。
 それから僕と近くにいたアイスの足元が真っ黒く染まって、僕とアイスはその中に沈み始めたんだ。ドロドロの沼に沈んでいっている感じでね。
 僕もアイスもビックリして、その黒いものから急いで出ようとします。

『レン! 沈んじゃうなの!?』
「あいしゅ!!」

 僕よりも小さいアイスはすぐに体半分くらいまで沈んじゃってて、僕はなんとかアイスに手を伸ばします。
 そんな僕も足が完璧に沈んじゃっていて、しかも足が抜ける様子が全然ありません。
 アイスの方に行けなかったから、どうにか手だけでもって、一生懸命いっしょうけんめい手を伸ばしました。

「あちょ、ちょっ」

 ガシッ!! なんとかアイスをドロドロ沼から助け出すことができた僕。とりあえず、僕の頭の上でしっかり抱きしめます。
 僕達が変なドロドロ沼に沈んでいっている間、お兄ちゃん達とドラちゃん、ルリはあの黒いものに攻撃されていて、僕達には気付いていませんでした。
 なんとか自分で出られたらよかったんだけど、どうしても無理そうです。
 攻撃されているお兄ちゃんに、助け求めるしかできません。

「おにいちゃ!! たしゅけて!! しじゅんじゃう!!」
「レン!?」
「……おい、あれ何だよ!? 今行くぞレン!!」
『レン!! アイス!!』

 ルリが攻撃を避けて僕の肩にとまると、それで一生懸命洋服を引っ張ってくれます。

「りゅり、あいしゅ、ちゅれてって!」
『レン、先!!』

 ダメだよ、とりあえずアイスを向こうに連れて行って。僕沈んじゃうかもしれないから。
 ルリにそう伝えるんだけど、ルリは僕を助けようと、離れずにずっと洋服を引っ張ってくれています。そのうちまたルリをあの攻撃が襲ったんだ。

『ぴゅいぃぃ!!』
「りゅり!?」
『ルリ!!』

 攻撃が羽をかすって、ルリが僕の肩から落ちてドロドロ沼に。そしてすぐに沈み始めちゃいました。
 慌てて引き上げると、ルリは気を失っていて、羽を見たら、かなりの血が出ていました。

「りゅり! りゅり!!」
『しっかりするなの!!』
「レン、こっち!!」

 前を見たら、いつの間にか目の前にドラちゃんがいました。攻撃を避けながらここまで来てくれたみたい。
 まずドラちゃんにルリを渡します。ルリを受け取ったドラちゃんは、ポケットにそっとルリを入れました。
 それからドラちゃんは今度は、僕の腕をつかんでドロドロ沼から引き上げてくれようとします。
 ドラちゃんは小さくてもドラゴン。僕達よりも、とっても力持ちだからね。
 僕は腰までドロドロ沼の中に入っていたんだけど、おしりくらいまですぐに出ました。
 でもね、それ以上は上がらなくなっちゃったんだ。
 さっきまでは沈んでいるだけだったのに、今は何かが僕を下から引っ張っている感じがして、そのせいで上がらなくなっちゃったの。
 ドラちゃんも気付いたみたいで、早くしないとって、一生懸命に引っ張ってくれます。
 そんなことをしているうちにお兄ちゃん達は、後少しで僕達の所まで届く距離に来ました。

「今行くから!!」
「すぐだからな!!」

 お兄ちゃん達も来て、一緒に引っ張ってもらえば大丈夫。
 そう考えた僕は、先にドラちゃんにアイスを渡そうとしました。まずはこのドロドロから、離れられる人から離れた方がいいと思って。

「どりゃちゃ! しゃき、あいしゅ!」
「でも今手を離したら」
「しゃき、あいしゅ」
「……分かった!」

 ドラちゃんが手を離したら、僕はすぐにまた腰まで沈んじゃって、それから引っ張られているせいで、その後すぐに胸まで沈んじゃったんだ。
 急いでアイスを掴んでいる手をドラちゃんに伸ばします。ドラちゃんも急いで僕から受け取ろうとして……でも、それはできませんでした。
 あの黒い攻撃がドラちゃんを襲って、ドラちゃんが壁の方へ飛ばされちゃったんだ。

「どらちゃ!?」

 ドラちゃんは、意識はあるけどすぐには立てないみたい。
 そしたら今度はお兄ちゃん達の声が聞こえてきました。

「わあぁぁぁ!?」
「くっ!!」

 お兄ちゃん達も黒い攻撃で飛ばされちゃっていて、すぐに立つことができません。
 というか、この部屋にいた僕とアイス以外、みんなが飛ばされちゃって、騎士さん達も立てなくなっていました。
 そして僕とアイスの方にも変化が起きます。僕達が沈んでいるドロドロ沼を囲むように、黒いものが集まってきて、黒い結界みたいに完璧に僕達を包んじゃいました。
 少しだけできていた隙間から向こうを見ると、お兄ちゃん達はまだ立てていなくて、僕は肩くらいまでドロドロの中に。
 ただ、手を伸ばせば、アイスだけでも助けられるはず。
 僕はなんとかアイスだけでもと思って、黒い結界の隙間からアイスを外へと出そうとしました。
 でも黒いものは、僕がアイスを出そうとすると、その隙間をふさぐんだよ。
 アイスがギュッと僕に抱きついてきました。

『レン、僕レンから離れないなの。一緒にいるなの』

 そう言って僕の洋服に入って、でも服まで沈んじゃっているから、ドロドロの中から顔を出します。
 ……うん、そうだね。僕もアイスから離れないよ。
 僕は服の上から、アイスをしっかりと抱きしめました。
 どんなことがあっても、アイスは絶対に離さないからね!!
 そして完璧に、アイスがドロドロに入りました。
 そしたらちょっとして、アイスが服から少しだけい出してきて、ドロドロの中でも息ができるって教えてくれました。
 そっか。それだけでも分かってよかったよ。心配だったんだ。
 でも真っ暗だから気をつけてって言って、アイスは服の中に戻りました。
 戻る前に頭の上にいた方がいいって言ったんだけど、しっかり僕にくっついていたいからって。そうだよね。離さないって約束だもんね。
 そしてついに、僕も顔までどんどんドロドロに沈んでいきます。
 息ができるって教えてもらったけど、やっぱり不安で。大きく息を吸って、目をつむりました。
 それでね、目を瞑ってすぐでした。廊下の方から声が聞こえてきたんだ。
 目を開けたら、フィオーナさん達が、黒いのを攻撃しながら僕を呼んでいました。
 それからすぐ後ろには、ローレンスさんの姿もありました。
 みんな僕を助けようと、一生懸命こっちに来てくれようとしています。
 でも黒いものの攻撃と、僕達の周りにある結界みたいなもののせいで、どうすることもできません。
 でもその時――

『レン!!』

 それは僕が一番聞きたかった声でした。
 バッ!! と振り向くと、窓の所にスノーラがいました。
 よかった、スノーラ帰ってきたんだね。
 でもごめんね。たぶん僕、このまま沈んじゃう。
 ルリが怪我けがをしているの、助けてあげて。とっても血が出ていて、酷い怪我なんだ。アイスは僕が守るよ。しっかり抱きしめて、離さないから。
 ……あのねスノーラ。これからどうなるか分からないし、もしかしたらこれでお別れかもしれないけれど。
 僕ね、スノーラと出会えてよかったよ。もちろんルリとも。
 それから少しの間だったけど、家族にもなれて、本当に、本当に幸せだったんだ。
 ありがとう。大好きだよスノーラ、ルリ!!

『レン!! くそっ、レン!!』

 目のところもドロドロに入っていきます。
 最後にしっかりスノーラの姿を目に焼き付けてから、僕は目を瞑って、見えないけど感じるアイスを、もっとしっかりギュッと抱きしめました。
 グググググッ、そんな感じで、頭まで全部ドロドロの中に入ったのが分かって……


 ドロドロ、ドロドロ、その中をどんどん沈んでいく感覚。周りの音は一切しません。
 思わず息を止めていたので、そっと息をしてみると、アイスが言った通りにちゃんと呼吸ができました。
 ふぅ、とりあえずよかった。まだ目は開けられなくて、周りがどうなっているか分からないけどね。
 アイスも大丈夫そう。服の中で時々モゾモゾ動いて、僕にしがみついてきます。大丈夫、僕がいるからね。
 僕達これからどうなるのかな? このままこの中にずっと? それともどこかへ向かっているのかな?
 なんて考えていたら、今までドロドロ、ズルズルって感じで、その辺を沈んだり浮いたりしていたのが、急に一気に下り始めたような感覚になりました。
 その後すぐに、今度はずぬぬぬぬって上がり始めたんだ。
 そして頭の辺りが軽くなった感じがしたと思ったら、顔も軽くなった感じがしました。
 その後も肩やアイスを抱きしめている腕、腰や足も、全てが軽くなりました。ドロドロが消えていく感じかな。しかも周りが少し明るくなったような。

「コレイション様、成功です」

 いきなり知らない人の声がして、ビクッとした僕はそっと目を開けます。
 最初はぼやっとしていた周りが、何回かまばたきをしたらしっかり見えるようになって、そして僕はまたまたビクッとしちゃいました。
 あのね、僕達の周りに沢山の人達がいたんだ。
 そうしたら服の中にいたアイスも、僕の反応で気付いたのか服の中から出てきたよ。
 僕はハッ! としてアイスを確認。
 よかった、怪我はなさそう。元気に? 周りにいる人達を威嚇いかくしています。
 全員黒いローブを着てひざをついていて、ただその中で僕の一番近くにいる一人だけ、変な仮面を付けていて顔が見えませんでした。
 それからその隣には、いい洋服……この世界の貴族が着るような服を着ている男の人が、一人立っていたよ。みんな無表情でちょっと怖いです。

「変なものも付いてきましたが」
「ふん、またお前か。戻ってくるとはな」

 仮面の言葉に、立っていた人が答えます。
 ん? どういうこと?
 その貴族みたいな人、多分偉そうだし、さっきコレイション様って呼ばれていた人かな、そのコレイションがアイスをじっと見ていました。

『あ! レン、あいつ僕達が捕まってた地下室に来てたなの! アイツらの仲間なの!!』

 アイスがそんな声を上げます。
 ええ!? 誘拐犯の仲間!? 僕はコレイションをにらみます。
 ここがどこだか知らないけど、まさかあの犯人と会うなんて。ここにスノーラがいてくれたら、すぐに捕まえてもらうのに。

「ふん、この私を睨んでくるか。まぁどうでもいいが……ラジミール、力はどうだ?」
「問題ございません」

 仮面の男が頭を下げて答えます。

「そうか。では予定通り、儀式は明日の夜、月が重なった時に行う。それまでアレと同じ部屋に閉じ込めておけ」

 コレイションがそう言うと、離れて立っていた黒ローブの一人が僕達の方へ近づいてきます。
 それで僕を立たせると「早く歩け」って、押してきたんだ。
 チビの僕がそんなに急に動けるわけもなくて、思いっきり転びそうに。アイスをつぶさないように手を前に出して、顔面から転びました。
 それでアイスを潰さなかったけど、でも勢いでアイスを離しちゃって。

『いちゃ! レン!?』
「い、いちゃ……」

 ちょっと起き上がったけどとっても痛くて、勝手に涙が出てきちゃいます。でもなんとか急いで、アイスをまた抱きしめました。
 ごめんね、離さないって言ったのに、もうこれだよ。僕がもう少し大きかったらよかったのに。
 痛みと何とも言えない気持ちで、ポロポロ涙が止まりません。

「おい、面倒を増やすな。子供の泣き声など、耳障みみざわりでしかないのだからな」
「申し訳ありません」
「おい、俺が連れて行く」

 コレイションが面倒くさそうに言うと、別の黒ローブが来て、僕の洋服を掴んで、ネコを運ぶ時みたいにして運び始めました。
 ポロポロ涙が出ていたけど、なんとか周りを確認します。ここ地下なのかな? そんな感じがするんだけど。だって土の壁に石がゴロゴロあるんだ。

『レン、大丈夫? 痛いなの?』

 アイスが小さな声で聞いてきて、とっても心配そうな顔で僕を見てきます。涙止まってないから心配するよね。
 でも大丈夫だよ、泣いているけど大丈夫。そのうち涙なんか止まるよ、それに痛みも。今はちょとだけ涙が止まらなくなっちゃっているけど。
 でも僕がアイスを守る! もう絶対に離さないよ!


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