私との子を授かれば殿下は側室を持てるので妊娠したフリをしたら、溺愛されていたことを知りました

弓はあと

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ラブコメ短編バージョン(※長編版とは展開が異なります)

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「ミーネの胸、いい匂いがする」

 殿下……胸に頬をつけたまま話されると息がかかって、ムズムズ、しますぅ……。

 私の心臓の音を確認するみたいに胸へ頬を寄せた殿下の、幸せそうな声。
 そんな殿下の様子に母性本能をくすぐられ可愛く感じてしまうけれど、やはり恥ずかしさの方が大きくて。

 ぁ、ダメっ、顔の向き変えちゃ!
 胸に鼻をつけてスンスンしちゃダメっっ

「いやです、殿下。匂いなんて嗅がないで……」
「なぜ? 以前マーコットにはミーネの匂いを嗅がせていただろう?」

 以前マーコット様に、とは……?
 あの時……でしょうか……
 殿下……あの時と今は全然状況が違いますよ……。

 普段殿下が使っている香水と相性のよい香水を使いたくて、マーコット様に見繕ってもらうため少量の香水をつけたハンカチを手に持って匂いを確認してもらっていただけ。
 この国で流通する品について、マーコット様は本当によくご存知だから。

 貴族でも商業活動が認められているこの国で、マーコット様のご実家は多方面の商売で成功し貴族で最も財を築いている。
 マーコット様自身も、若いのに経営の才知にたけている方。経済にも詳しくていらっしゃる。
 見た目も性格も可愛らしいから、豊富な知識と優れた経営の才能が意外でそのギャップがたまらないと悶えているご令嬢がたくさんいた。

 ギャップと言えば、マーコット様は利益を追求するだけではなく慈善事業にも積極的に参加してくださる。
 教会や孤児院への寄付を募る慈善事業のために私がクッキーを焼くと、毎回たくさん購入して多額の寄付をしてくれた。
 マーコット様が甘党でクッキーが好きという理由もあったかもしれないけれど。

 そういえば、マーコット様と香水を選んでいたあの日。
 その場を見た殿下に言われた一言で、思わず殿下の事を叱ってしまった私。
 今思い出すと恥ずかしい。声も少し荒げてしまった気もするし。

 「マーコットと相談してひとつに選ぶ必要なんてない。俺が全部買ってやる」とおっしゃった殿下。
 それを買うお金は国民のためのものであって殿下のものではありません、と不敬にも厳しい口調で言い返してしまった私。顔も怖かったかも、本当に恥ずかしい。

 翌日から、殿下とマーコット様がよく一緒にいるのをみかけるように。
 物の値段が決まる要素や税金などのお金の流れ、人件費や雇用の問題点などについて語り合っていた。

 同級生だった殿下とマーコット様は、今も国の将来を見据えて議論する仲であり友人でもある。

「ふぁ!?」

 私の胸から顔を上げた殿下と目が合った。
 やはり熱があるような、潤んだ瞳と赤い頬。

 顔を上げてくれたのはいいけれど、顔を起こす時に私の胸へ両手をついてしまったらしい。

 偶然とはいえ両胸が殿下の手のひらに包まれていると思うと、カーッと身体が熱くなってしまう。

 しかも殿下は手をついてしまったことを意識していないようで、私の胸の上に置かれた殿下の両手はその位置のまま動かない。

「マーコットは才能があるのに見た目も性格も仔犬みたいで可愛らしいよな。ミーネはマーコットのどんなところが可愛いと思う?」

 マーコット様の可愛いところ……?

 仔犬のようにフワフワしたはちみつ色の髪の毛で、私や殿下と同い年だけれど年齢の割に童顔なマーコット様。
 笑顔は太陽みたいに明るくて、外見はもちろん可愛らしい。

 でもなんと言っても自由奔放で悪戯好きで、普通の人では予想もつかない事をするところが無邪気で可愛いかしら……

 そう言おうとして、ハッと気がついた。

 こんな事を言ったら、殿下が予想もつかない行動をしてしまうパターンだわ、これ。

 そもそも殿下はなぜ友人たちの事を気にしているの?

 そういえば……お腹の子は誰の子だ、とおっしゃっていた殿下。
 もしかして、マーコット様のことを疑っていらっしゃる?

「殿下、マーコット様と私は、殿下が疑うような関係ではありませんよ」

 妊娠はしていないと言わなければ。
 私のことは気にせず殿下は愛する方を側室に迎えて幸せになってください、と伝えたい。

 私を見つめる殿下が眉をグッと寄せた。

「マーコットでも無いのか? では今ミーネが付き合っている男は、いったい誰なんだ? 教えてくれ、ミーネ」
「ひぁっ!?」

 つい力が入ってしまったのか、私の胸に置かれた殿下の手が、ムニュ、と私の乳房の形を変えた。
 殿下の無意識な行動とはいえ、恥ずかしくて顔から火が出そう。

「っ、いない、です、そんな、相手」
「いない……?」
「はい……いませ、ん……」

 殿下の両手が、私の胸から離れていく。

「そう、か……、今はもう、いない……」

 ん? 今は?

 殿下の言葉に感じた小さな疑問は、殿下の手で優しく頭を撫でられたら消えてしまった。
 優しく殿下に頭を撫でられると、いつも幸せな気持ちで満たされてしまうから。

 厳しい王太子妃教育がつらくて落ち込んでいた時、いつも何も言わずに頭を撫でてくれた殿下。
 今みたいに、慈しむような眼差しで私をみつめて慰めてくれた。

「ミーネは子どもを産みたいと思っているのか?」

 殿下との子ども……将来もし授かったらもちろん産みたい。
 授かるかどうか、今はわからないけれど。

「産みたい、です」
「別れてもその男の子どもが産みたいと思えるほど、ミーネは心を奪われて……」

 え?

 眉間にしわを寄せ、長く低いため息をついた殿下。

「わかった……もうその男を超えることが無理なら、まだ相手を忘れられないミーネを俺はそのまま受け入れよう。ミーネと子どもは俺が全力で守るから……お腹の子は俺たちの子として育てさせてくれ」

 殿下……?

「ミーネと子どもが好奇の目で見られないように、生まれてくる子が相手ではなくミーネに似ていてくれるといいのだが……」

 生まれてくる子は、いないです……。





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