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第十三話【お疲れですわ!】

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執務室の扉が軽くノックされ、王付き宰相が書類を持って入室しました。彼の顔には真剣な表情が浮かび、重要な問題があることを示していました。

「王子様!!そのお顔はどうされたのですか!?」

宰相は驚きと懸念に満ちた表情で、王子の顔を見つめました。彼の声は震え、手に持っていた書類が落ちてしまいました。

「顔?ですか?」

王子は宰相の驚いた様子に戸惑いを見せ、少しキョトンとした表情を浮かべました。

「はい。右頬が腫れております。」

宰相の言葉に従い、王子は右頬を触りました。触れると、確かに何かジーンとした感覚が右頬に広がっているように感じました。

「ふむ、腫れているようですね。直ぐ引くかと思います。」と言いながら、王子はニコリと笑ました。続けて、「そんなことより、今度開かれる夜会の話をしても宜しいでしょうか?」と尋ねると、宰相は眉をひそめました。

「夜会…とは?」
「おや、今週末に夜会は開かれないのですね?」
「伺っておりませんが…どこぞの貴族が開かれるのですか?」

(おかしいですねぇ。前世では開かれていたはず、刺された日の事はしっかりと覚えているのですが。)

「いえ、私の勘違いですね。」と言って再びニコリと笑う。
「王子、すっかり、その口調と顔が板についておりますね。」と呆れた顔の宰相。
「人生二週目ですから。」
にわかに信じ難い話です。国が崩壊する等…。あの日初めて禁書を読ませて頂き、驚きました。」
「無理もありません。私も驚きましたから。」


王子は時間が巻き戻って目を覚ました日を思い出し、急いで玉座へ向かいました。そこで、父である王の前で時間の巻き戻しが起こった証拠を提示しました。全てを悟った王は宰相を王子の味方にし、王族しか閲覧することが許されない禁書を王子付きの宰相に読ませることにしました。

禁書には「メリアライト帝国が滅びた時、世界の時間が巻き戻される」と記されており、崩壊を防げる対象の王族に記憶が継承されることが明記されていました。その後、実際に巻き戻りが起こり、記憶を継承してしまった王族たちの日記もまた禁書として取り扱われました。中には100回のループを繰り返した後にやっと崩壊を防げた王族もいるほどでした。

「先程仰っていた夜会ですが、1週目の時に体験されたのですか?」

王子は自身の顎を持ち、過去を思い出しながら深々とため息をつきました。その目には遠い昔の記憶が蘇り、悲しみや苦悩がにじみ出ていました。静かな空気の中、彼はゆっくりと口を開きました。

「相変わらず察しが良いですね。しかし…そうですね。あの時は、国が滅びてしまう原因に夜会を開かされたのかもしれません。」
「恐ろしい話ですね。さて、私は書類をお持ちしただけですので、失礼致します。」とお辞儀をする宰相。
王子が「はい。」と言ってニコリと笑うと、宰相はほっとした表情で執務室から出て行きました。その後、静かな雰囲気が再び部屋に戻り、王子は深い考えにふけることとなりました。


王子は「はぁ…ペルシカ切れだ。」と呟きながら、鍵付きの引き出しを開けました。そこから取り出したパンティーを手に取り、鼻にあててその匂いを感じます。深く息を吸い込み、その香りに浸る王子の表情が、少し安らかな様子を示しています。
「すぅーーーーーはぁーーーーーーーー。」

―――――――――――
―――――――

「うわ。今寒気が致しましたわ。」

ジトーっとした目をしながら、遠くの空を見つめるペルシカの声が小さく漏れました。
ペルシカは剣術の授業に出席し、木刀を手にファディールと対戦していました。

「大丈夫か?ペルシカ。」
「えぇ。大丈夫よ。」


ペルシカは通常、女子同士で組むことが多い中、異例のことにファディールと組んでいました。彼女のパートナーが男子であることに、クラスメートたちからは驚きの声が上がりました。その結果、一人の女の子が取り残されてしまい、授業の一環として先生との対戦に挑まされることになりました。


実は、もともと、ペルシカはヤードに隠れて、自慢のハイドシュバルツ騎士団の団長に剣術を教わっていました。この秘密の訓練中、彼女の手にはマメができ、怪我を隠すためのウソの言い訳をしていました。彼女はクローゼットの棒にぶら下がって遊んでいたと偽り、マメの存在を隠そうとしました。

この訓練は、ペルシカが小さな頃から対ヤード戦に備えて体を鍛えてきた結果でした。

ファディールはペルシカから一本も取れない。彼女の剣術は素晴らしく、敏捷で的確な動きで彼を翻弄していた。ファディールは奮起し、最善を尽くして応戦するが、ペルシカの技量に圧倒されていた。授業中、教師と生徒たちは彼らの剣術の熟練度を驚嘆しながら見守っていた。

「ペルシカ…剣術上手すぎないか?」
「何故か知らないけれど、ハイドシュバルツ騎士団は元帝国の第一騎士団だった人達ですのよ。そんな人達に鍛えられて下手になるわけがないじゃない。」。
「くっ。こんな事では将来に響く。」と辛辣な顔をするファディール。
「大丈夫。下手でも雇ってあげるから。」
(もしかしたら国外に逃げるかもしれないけれど。)

授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。

ペルシカは授業が終わると、更衣室で着替えをしてから教室に戻り、ホームルームが終わるのを待って教室を出ようとしていた。すると、教室の出口にヤードが立っていた。

彼女はヤードの姿を見て驚き、少し緊張した表情を浮かべた。

「は?何してますの?」
「お嬢様を待ちきれず、此方でお待ちしておりました。」
「キモチ…コホンッ。帰りますわよ。」

ヤードがペルシカに向かって微笑みながら、「はい、お嬢様。では、失礼致します」と言った。その言葉と共に、ヤードはペルシカを優しく抱き上げてしまった。

「ヤード、降ろしなさい。ここは学校なの。後でいくらでもさせてあげるから」とペルシカが言うと、ヤードはスッと彼女を降ろした。

「その言葉、後悔なさらないでくださいね?」

その言葉に、ペルシカはゾワーっと鳥肌を立てた。彼女はその言葉が何を意味するのか理解できず、不安と疑問が心をよぎった。

「ヤード、私が学校に行ってる間、何をしていたの?」
「ハイドシュバルツ領の管理等、主に書類整理でしょうか?」

笑顔のヤードに少し溜息をつくペルシカ。彼女はその笑顔の裏に何かを感じ取り、心の奥で疲れた息をついた。

学校の門の外へ出ると、ヤードがペルシカを丁寧にエスコートし、馬車の乗り場まで案内した。彼女は優雅に馬車に乗り込み、ヤードがドアを閉めると、ゆったりとした揺れとともに馬車が動き出した。


ペルシカが軽くため息をつきながら、ヤードに声をかけた。「ヤード、もういいわよ。抱っこして。」ヤードはにっこりと微笑んで応え、「では失礼致します。」と言いながら、ペルシカを膝の上に乗せた。
ペルシカはふとヤードの顔を見ると、その顔にはニコニコとした笑みが浮かんでいた。その笑みは心底からのものであり、ペルシカはその嬉しそうな表情を見て、大人しく身を預けることにした。

ペルシカは気づいていた。ヤードがベタベタしたい時は、何か彼を疲れさせる出来事があった時だ。彼の過去については詳しくは知らないが、辛い記憶がよみがえったり、ペルシカが危険にさらされたりすると、ヤードは必ず彼女を抱きしめようとする。それは、彼が彼女を守りたいと願うからだ。ペルシカは付き合いが長くなるにつれて、ヤードの癖や心情を理解し始めていた。
つまり、ヤードの振る舞いから彼が今日は疲れていることを感じ取りました。

ペルシカは内心でヤードの幸せそうな表情を見て、少し意地悪な考えを抱きました。彼女は前世の話を持ち出して、ヤードの笑顔を止めてやろうと考えました。

「ねぇ、ヤード。私今まで小説の話しかヤードにしてこなかったけど、前世では30歳を超えてたの。彼氏もいない、友達もいない…そんな可哀想なおばさんだったの。」
「おや、珍しいですね。お嬢様がお心を開かれたように本当の御自身の話をされるなんて。」
「嫌じゃないの?おばさんを抱っこして。」
「嫌なわけがありません。お嬢様の事は頭の先から足の先まで…愛しておりますので。」

ヤードはペルシカの言葉に満面の笑顔で応えました。彼は心からの愛情を込めて、ペルシカをぎゅっと抱きしめました。

ペルシカは厳しい口調で言いました。

「身分の差をわきまえなさい。愛してどうにかなる身分ではないでしょう。」

その言葉に、ヤードは少し驚いたような表情を浮かべましたが、すぐに腕を緩めました。彼の表情は少し重くなりましたが、彼女の言葉を受け入れたようでした。

「そうでございますね。ですが本心ですので。」


ヤードは突然、ペルシカの手を掴み、手の平をじっと見つめました。その後、彼はペルシカを膝の上に乗せたまま、彼女の手の平を優しくマッサージし始めました。

「最近マッサージする回数が増えたわね。」
「お嬢様は私奴わたくしめの見えないところですぐに無茶をする癖がございますので、これはお仕置きでございます。」
「甘いお仕置きね。」
「そういえば、お嬢様のご希望されていた海ですが、手配は済んでおります。近くに丁度新しくできた高級ホテルがございますので、そちらに予約させていただきました。」
「ありがとう。これでゆっくり過ごせるわね。」

馬車はハイドシュバルツ邸に到着し、ヤードが先に降りて再びペルシカを抱っこして家に入る。この異様な光景に誰も何も言わないのがハイドシュバルツ家の雰囲気だった。家の中では、ペルシカが抱かれたまま、ヤードが静かに歩みを進めていく。周囲のメイドや使用人たちは彼らの姿を見るなり、仕事に戻り、一言も口にしなかった。
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