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第一章 悪の拠点づくり

30.ルグザンガンド、王都を照らす夕日

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 ルグザンガンド王国。
それはアルカトラズという世界の中心に位置する大陸の大部分を国土とする巨大な王国。
500年以上に渡る歴史ある国家で、この世界の主要国家の中でも群を抜いた国力を持つ。
 中身はどうあれ、信仰と騎士道に重きを置く国家で、教会と王家が頂点に立って治める。
その為に騎士が非常に徴用されていて、逆に魔法使いは日陰者となっている。
 王都は非常に栄えていて、王城の周りを取り囲む貴族の屋敷の1~5区や大神殿の周りの6区~9区、そして庶民や商人が住む6~12区など住み分けがなされている。

 何も知らない俺は、リンゼロッテにそんなことを説明されながらその日のうちに無事王都にたどり着いた。
リンゼロッテがいるために、王都内に入る関所は顔パス。俺も一緒に。
 普通なら俺は身分を問われるだろう所なのだが、何もないのはやはりリンゼロッテに力があるのだろう。
 王都に入った俺たちは、まず王都警備隊の詰め所に向かう。そこは10区らしい。
報告等々のリンゼロッテの義務を果たしたいとの事だ。
俺には聞き苦しいことしかないだろうから、と近くで待っていてくれと言われた。

 俺は馬を王都警備隊の厩舎に馬を預け、どこかで休憩を取ることにする。
もう夕方だ。広い大通り沿いに果物や食材を売っている青空商店は店じまいを始めている。
軒を連ねる食べ物屋の看板に灯りが灯り始める。
道行く人もドンタナの倍以上いるが、どこか急ぎ足で殺伐としている。
都会はやはりこうなってしまうのかな。
 ふと看板に目が留まった。

『カフェ・アロマーニ』

 おっ?カフェがあるんだ?ドンタナにもあったのかな?気づかなかった。
久しぶりにコーヒーが飲みたくて、入ってみることにした。

「こんにちは。お一人ですか?空いてる席にどうぞ。」

 この決まり文句はどこの世界も変わらないらしい。
俺は壁が取り払われたテラスの席に座る。なんかフランスとかイタリアのカフェみたい。いい感じ。

「コーヒーをお願いします。」

「20アルになります。」

 高い!と思うが腰につけた袋から渋々手渡す。一応女神からお金を受け取ってきていたのだ。200アルだけだけど。
 それにしてもドンタナはエール1杯5アルなのにコーヒー1杯20アル。
物価が高いのか、コーヒーが高いのか・・・。
 しょげているとコーヒーを運んできてくれる。
 いい香り。深めな焙煎でドリップ式みたいだな。
何気に俺はコーヒーに詳しいのだよ。えへん。

「見かけない顔だな。どこから来たんだ?」

 コーヒーの香りを楽しんでいる俺に、男が話しかけてきた。
全身を覆う黒っぽいローブに身を包んでいて、頭にはツバの広いとんがり帽子。まさに魔法使いという感じだ。
ローブは薄汚れていてちょっと匂うし、帽子の先は天井に当たって折れ曲がってる。脱ごうよ、帽子・・・。

「ああ、今日王都についたばかりで。ドンタナの町から来ました。」

「ドンタナ?先日の騒動の?」

 ドンタナの町の戦争の事は既に王都中で広まってるらしい。
俺が誰だかバレない方がいいかもしれない。

「そうなんです。旅の途中でドンタナに寄ったんですけど、戦争前に脱出してきました。」

「そうなのか・・・。」

 魔法使い風の男は思いっきり怪しんでいる。
だが、あんたも充分に怪しいよ。

「あなたは?」

「ああ、失敬。俺はこの王都にいる数少ない魔法使いでブラフってんだ。
冒険者や旅人をルグザンガンド魔法使いギルドに誘ってんのよ。どう?入んない?」

「得体が知れなさすぎるんだけど・・・。」

「あははは!そうだよな。
いろいろ説明したいのはやまやまなんだが、今日はちょっと呼び出されててこれから行かなきゃならないんだ。
12区の外れに魔法使いギルドがあるから、もし気になったら来てくれ。楽しいことになることは保証する。」

「俺、魔法使いではないんですけど・・・。」

「あれ?そうなのかい?身体から魔力が漏れてるからてっきり・・・。
まあ、とにかくよかったら来てくれ。じゃあ!」

 そう言って、魔法使いブラフは颯爽と店を出て行った。帽子の先は折れたまま。
魔法使いらしからぬフランクさ。なんだったんだ、一体?
 しかし、首を傾げながら思う。

『身体から魔力が漏れている・・・』

 そういえば、MPも∞だった。
でも使える魔法を知らない。どうやって魔法を学ぶのだろうか。
もしかしたら魔法使いギルドに行ってみる価値があるのかもしれない。
 
「ここにいたのか、探したぞ。」

 テラスでしばらく考えていた俺に気づき、店の外からリンゼロッテが歩み寄る。
夕日が鎧姿のリンゼロッテの顔を照らす。日に照らされた彼女は目を細めて眩しそうな顔で笑顔を俺に向ける。
映画のひと場面のような美しさ。
やはりリンゼロッテはかっこいい。見惚れてしまう。
朝、俺の腕を抱いてデレていたリンゼロッテはどこに行ったのだろう。まるで別人だ。

「かっこいい・・・。」

 また俺は感情を漏らしてしまった。口が緩いのかな。

「ばかなことを言うな。女性に対する誉め言葉ではないぞ・・・。」

 俺の呟きが聞こえたようで、リンゼロッテがはにかんだ笑顔をしながら目を逸らす。喜んではいるみたいだ。
 なるほど、今は騎士としての任務の影響で毅然としているんだなと理解した。夜にはまたデレたリンゼロッテを見たいなどと考えてしまうのは当然のこと。



カオスゲージ
Law and order法と秩序 +++[66]++++++ Chaos混沌

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