Daddy Killer

リョウタ

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第一話 「Daddy Killer」

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僕は初めての海外旅行で、クルーズ船に乗ることになるなんて思ってもみなかった。


クルーズ船の中は、いろんなお店が入っていて、遊ぶところもいっぱい。


まるで一つの街が詰め込まれているようだ。


僕の住んでいた奈良県よりも、この船の中の方が都会に感じる。


田舎コンプレックスな僕には衝撃だ。


ブランドものを扱っているお店も多い。


女の子だったら、彼女がいたらさぞ喜ぶだろうな。


カジノとか大人っぽい遊び場も多い。


ギャンブルよくわからないので、僕は屋内プールで泳ぎに行くことにした。


バシャバシャ。


冷たい。


でも気持ちいい。


今、世界のどこを船が走っているのかよくわからないけど、外国の空ってなんか良い。


空、気持ちいい。

わっ。


プールの中、案外深い。


こわっ。


気を抜けば、溺れる。


僕は泳げない。


こんなところでは死ねない。


手すりにつかまりながら、泳がないと。


「お兄さん。日本人?大丈夫?ここのプール少し深いよ?」


恰幅の良いおじさんが話しかけてきた。


「ホントに深いですね。僕、泳げないのでこわいです。」


「お兄さん、泳げないの?若いのに。そこのベンチで飲み物でも飲みのがら、お話しよう。冷たいドリンク持ってくるから。」


「ありがとうございます。」


僕とおじさんはプールの周りにあるベンチに座った。


「はい。コーラでいいかい?」


「ありがとうございます。」


「お兄さん、一人で泳いでるけど、彼女とは別行動なのかい?うちの妻はエステ中だけど、彼女もショッピングかエステ中?」


「違います。僕、一人です。一人でこの船乗っています。」


「えっ。一人で。いやまあ個人の自由だからいいんだけど、少しびっくりしたよ。お兄さん名前は?歳も聞いていいかい?」


「僕は鈴木良太です。今、27歳で来年28歳になります。少し変わってるって言われます。」


「あっ。若いね。でも見かけは学生さんかと思ったよ。けっこうクルーズ船に乗ることは多いの?」

「初めてです。昔から、興味はあったんですけど、いまいち踏み込めなくて。でも今回は思いっきて乗ることにしました。なんかすごいですね。船の中。」


「えっ。一人で来てるのに、初めてって。けっこうこのクルーズ船、外国のだし、若い子には金額的にはキツかったんじゃないの?」


「大丈夫です。貯金はしっかりしているので。」


「真面目そうだもんね。鈴木くん。船の旅は長いから、これからよろしくね。私は、山下努(つとむ)58歳です。」


僕は泳げない。


勉強も得意ではない。


不器用である。


だけど、少し得意ところがある。


おじさんの考えていることがだいたいわかるところ。


いや。ちょっと違うな。


年下が好きな、若い子が好きなおじさんの考えていることがなんとなくわかる。


おじさんの吐き出す言葉で惑わされてはいけない。


おじさんの口に出すことは、自分の意思とは関係なくコントロールすることができるからだ。


自分の思っていることと逆のことが平気で言えたりする。


仕事をする中で当たり前に使わなければならない能力だから仕方ない。


そういうこともあるから、人と話をするだけで本質まで見抜くことはできない。


でも、だからこそ、僕は目をみる。


目は嘘をつきにくい。


興味のない人と話すとき、目を輝かせることは難しい。


このおじさん、山下さんの目の奥は、輝きと濁りが入り混じっている。


これは、欲望と理性が葛藤している目。


やりたいことがあるが、理性によって、抑えつけられている目だ。


やりたい!!


でもできない!!


ああ~。


って感じ。


山下さんが僕を見つめているときの目の中は、濁りと輝きで満ちている。


じゃあ、山下さんの濁りを輝きに変えましょう。


えっ。


どうやって?


「山下さん。ジュースありがとうございます。僕、全部飲んだので、捨ててきます。」


僕はジュースをゴミ箱に捨てていこうと、歩き出そうとした。


が、そのまま立ちくらみが起きたかのように、山下さんのほうへ倒れ込んでしまった。


バタン。


「鈴木くん!!大丈夫?」


僕は海パン一丁で、上半身は裸。


山下さんの格好は、半袖で短パン。


僕は山下さんに抱き抱えられるように倒れたのだ。


僕の上半身と山下さんの上半身は濃厚に接触してしまった。


山下さんの目は、驚くほど大きく開いていた。


なぜ、そんなに驚くのだろう。


どこにでもいるただの男がちょっとあなたに倒れ込んで、男の肌が触れただけなのに。


女の子だったら嬉しいと思うけど、喜ぶことではない。


でも、山下さんの目は喜んでいる。


なぜだろう。


「大丈夫です。山下さん。ちょっとふらっとなっちゃいました。山下さんの方こそ、大丈夫でした?」


「わっ私は大丈夫。ちょっと、鈴木くんの方が心配だよ。顔も体も白いし。体調気になるよ。」


ん、体が白いの気にしてるのに。


男だったら、黒い方がかっこいいじゃん。


ん~。どうしようかな。


「山下さん。いろいろありがとうございます。あとでお礼がしたいので、僕の部屋に来てください。奥様と二人で来てください。日本から持ってきてるお菓子があるので一緒に食べましょう。」

「えっ。妻と来た方がいいかい?」


「えっ。僕はどっちでもいいですよ。山下さんが決めてください。」


僕は山下さんに僕の部屋の番号を教え、自分の部屋に向かった。


あの山下さんのびっくりした顔。


えっ。妻も一緒に!?私だけじゃないの?


とでも言いたそうな表情。


本当にこの世は不思議だ。


欲望のニオイがプンプンする。


普通、僕みたいにイケメンでもない男に呼ばれても嬉しくないと思うけど。


山下さんは本音を隠している。


この本音を引き出すのが、僕のミッションだ。


甘いものを食べながら、考えよう。


コンコン。


一時間後、山下さんは僕の部屋にやってきた。


「鈴木くん。大丈夫かい?鈴木くんが心配だったから、妻には事情を話して一人できたよ。」


事情って何だろう。


奥さんはどう思ったんだろう。


僕が奥さんだったら、山下さんは若い女のところでも行ってるのかなって心配してしまいそうだけど。


山下さんの格好は、さっきの海パン姿とは違い、カジュアルな感じ。


ポロシャツに綿パンって感じで腹が出てるおっちゃんって感じだ。



おっちゃんだけど、清潔感もあり、しっかりしている。


僕と違って、ちゃんとした会社で働いていて、責任ある立場にある人なんだろうな。


この外国のクルーズ船もけっこう高いし、クルーズの期間も長いし、それなりにお金を持っている人たちじゃないと来れなさそうだもんね。


「僕は全然元気です。たしかにちょっと鉄分が足りていないところがあって、少し貧血気味なんです。」


「貧血気味なんて女の子みたいだね。」


「だから、一緒に羊羹食べません?羊羹鉄分入っていますし。」


「鉄分取るために羊羹って、ちゃんとお野菜食べなさい。鈴木くん。レバーやほうれん草にも鉄分は多く含まれているよ。」


「は~い。ちょっと用意しますね。」


僕のお皿には抹茶の羊羹を。


山下さんのお皿には、オーソドックスの小豆の羊羹を出すことにした。


あとはマグカップ。


羊羹だけだと、喉が乾くしね。


「ん?この羊羹美味しいね。この濃厚でしっかりとした味付け、甘さも控えめ。もしかして、老舗『虎松』かい?」


「わーすごいです。そうです。僕も以前人にいただいてから、好きになって定期的に買ってるんです。今回も長く日本を離れるのでつい多く買ってきちゃいました。」


「なるほど。いいとこ知ってるね。それにしても、鈴木くん。羊羹にはお茶でしょ?なんでコーヒーなの?」


「なんか僕はコーヒーの苦味の方が羊羹に合う気がするんです。変わってると思います。すみません。」


「まあいいよ。私はコーヒーも好きだからね。ん。美味しい。」


山下さんはとても楽しそうだ。


不思議だ。


僕みたいな歳が二回り以上も離れた男と話して、何が楽しいのだろうか。


得るものがあるのだろうか。


僕にはなんの才もない。


僕が山下さんだったら、魅力も才能もない若者とそんなに話したいと思わないけど。


ボランティア精神なのか。


色白で体が弱そうな青年を介抱してあげなきゃって気持ちになるものなのか。


「さっきも言ったけど、若い子が一人でクルーズ船に乗るなんて、やっぱり不思議だ。彼女とはなんで来なかったの?」


「山下さん。僕、彼女いないんです。女の子にモテないんです。」


「え~。そんなことないよ。モテるよ。鈴木くん。」


「今回、クルーズ船に乗ったのは、インドに行くためです。この船、インドまで行くので、飛行機じゃなくて、この船を選んだんです。」


「へ~。インドに興味があるのかい。いいね。私もインドによく行っていたけど、なかなかパワーがある国だね。」


「はい。発展が望ましいインドに行って、パワーをもらおうと思っています。」


「目のつけどころがいいね。鈴木くん。インドは行く人に賛否両論あるけど、若いうちに行っておくと、勉強になると思うよ。」


僕は他愛のない話を山下さんと続けた。


そろそろ聞いてみようと思う。


「山下さんは、なんでそんなに優しいんですか?僕みたいな歳が離れたものに、優しすぎます。同じ日本人だからといって、やりすぎですよ。僕がコワい人だったら、どうするんですか?」


「鈴木くん。面白いことを言うね。君みたいに華奢で色白な子に襲われても、私の方が体格大きいだから、逆に襲い返しちゃうよ。いや~君みたいにかわいい子は別の意味で襲いたいけど。」


「えっ。それってどういう意味ですか?僕は女の子じゃないですよ?」


「えと、いや~。それは・・・。」


さっきまでの和気あいあいしていた二人の雰囲気が一気に気まずいムードになった。


しかし、これが僕の望んでいた展開。


人間の本質に迫る状況。


「もしかして、あれですか?僕、この前、沖縄に旅行に行っていたんです。初めて行ったんで、ウロウロキョロキョロしていたんです。予約していたホテルが見つからず、スマホで検索しようと思ったら、スマホも忘れてきてて、本当に困っているとき、一人のおじさんが声をかけてくれたんです。仙台から出張で沖縄にきているおじさんで、スマホがない僕に、一緒に僕が予約しているホテルを探してくれたんです。そのおじさんは夜ご飯をどこで食べるか決めていない僕に、美味しい沖縄料理が食べれるお店に誘ってくれたんです。ご飯を食べ終わってから、そのおじさんは特別なお酒があるから、一緒にホテルで飲まないかって言ってくれたんです。僕はお酒のこと、よくわかんないので、勉強の一つかなって思って、そのままおじさんのホテルの部屋まで行ったんです。そしたら、部屋につくなり、おじさんは僕に抱きついてきました。僕は、びっくりしましたが、今日一日優しくしてくれたおじさんに、気持ち悪いとかそういう感情が不思議と生まれなかったんです。逆に頼りになるおじさんに優しくされて、気持ちがフワフワしてしまいました。普通だったら、イヤになるかもしれないですけど、いい人、悪い人って性別や年齢関係ないのかもしれないですね。あっ。すみません。つまらない話をしちゃって。」


それを聞いていた山下さんは目を大きく開き、ギョッとしていました。


嬉しい悲しい、どっちの感情かな。


もちろん・・・。


「それって、最後までしたの?」


「ん?最後ってなんですか?」


「だから、なんというか、夜の営みっていうか。」


「あ~。それですか。僕はよくわからなかったですけど、そのおじさんがやりたいようにやった気がします。ちょっとお酒も入っていたので、曖昧な記憶ですけど。優しくされたら、すぐコロッといっちゃいます。」


「私でも。」


「山下さんもですか?僕は珍しいですね。人生で二回もこんなことがあるなんて。山下さんも、今日僕にすごく優しくしてくれたので、気持ちはフワフワしています。一緒にいて、とてもリラックスできます。」


「私もだよ。」


山下さんの優しい表情と優しい目が、本能剥き出しの目になった。


野獣の目。

スイッチオン。


山下さんは僕に抱きつき、そのままベッドに倒れこんだ。


一時間ほど、山下さんの思うがまま、僕はおもちゃになった。


「あれ?山下さん。もう5時ですよ。早く部屋に帰らないと、奥さん心配されるんじゃないですか?」


「ああ。そうだね。鈴木くん。いろいろありがとう。えーと、下の名前なんて言ったっけ?」


「良太です。鈴木良太です。」


「じゃあ今度から良太くんと呼ぶね。じゃあ良太くん。後で、夕食会場で会おう。また、このクルーズ中、何度かここの部屋にきてもいいかい?」


「はい。山下さんでしたら、僕はすごく嬉しいです。」


そう言って、山下さんは自分の部屋に戻っていった。


蔓延の笑みってこのことをいうのかなって言うくらい山下さんは笑顔で満足した雰囲気だった。


山下さんは、普段はさっきのような趣味を世間的に隠して生きているのだろう。


だからこそ、たまにあるああいう関係性がとても楽しいことなのだろう。


山下さんは、天国にいるかのような幸福感を味わっているのだろうか。


僕を汚すことによって。

ああ。


天国にいる調子に乗ったじじいに地獄を見せてやるのが、こんなにも好きになるなんて、僕は狂っている。


そろそろクルーズ船の夕食の時間だ。


夕食会場に向かわないと、準備をしてから。


忘れ物をしないようにね。


僕は、少し遅れて夕食会場に向かった。


山下さんをみつけた。


奥さんと二人でご飯を食べている。


挨拶をしに行かなきゃ。


「あっ。山下さん。先ほどはありがとうございました。山下さんの奥様ですか?こんばんは。鈴木良太と申します。今日は山下さんにとてもよくしていただいたんです。」


「主人から話を伺いました。たしかに話で聞いていたように、鈴木くん体が弱そうね。大丈夫?」

「はい。もう大丈夫です。いきなりなんですけど、少し奥様に相談したいことがありまして、ちょっとこちらまでよろしいですか?」


「どうしたんだい?良太くん。話なら、ここでしたらどうだい?」


「すみません。少し言いづらいことでして。」


僕は、山下さんの奥さんを夕食会場の外に連れ出した。


「鈴木くん。どうしたの?主人が言っていた通り、話だったらテーブルでしたら良かったと思うけど。」


「すみません。少しあの場では言いづらいことでしたので。とても言いにくいのですが、実は今日、山下さんに介抱してもらったときに、少しイヤな思いをしまして、どうしても奥様にお伝えしようと思いまして。」


「なに?主人はなにをしたの?」


「言葉では伝えにくいので、この映像を観てください。」


僕は、僕の部屋で行われた山下さんの欲望の行動を隠し撮りしていたのだ。


奥様は目を大きく見開き、顔は赤くなり、みるみるうちに怒りの形相になっていった。


「前々から、少し疑惑を抱いていたけど、そんな趣味があったなんて、あの人。あっ。もしかして、あのときも。えっ。あのときも、仲良くなった子は20代の若い男の子だった。どれだけ余罪があるのかしら。もう許せない!!」


奥さんは急いでこの場から去り、夕食会場に向かい、山下さんに何かを言い、外に連れ出していった。


僕は二人の様子を遠くから、観察していた。


なにを言っているかわからないが、奥さんはすごい剣幕で山下さんに何かを怒鳴りながら、言っているようだ。


山下さんは顔を赤くして、必死に謝っている感じだ。


さっきの幸福に満ちていた顔が嘘のようだ。


あれ?


おかしい。


今度は僕の口元が、口角が上がり、すごくニヤけている。


喜んでいる。


幸福に満ちている。


スッキリしている。


悪者を倒せて、本当に良かった。


この気持ちの良い気分のまま、今回の旅の目的を果そう。


僕は部屋に戻った。


カバンの中から、スマホを取り出した。


僕は、また部屋を出て、外に向かった。


広い海が見渡せ、強い風が吹いている甲板にやってきた。


僕は、スマホを手に取り、思いっきり海に投げ入れた。

ポチャッ。


スマホは瞬く間に沈んでいった。


「よし!!これで本当にスッキリ!!やりたいこと達成。」


過去への清算。


新しい人生の幕開け。


あのスマホを捨てることにそう意味がある。


そうなのだ。


僕の人生はこれから始まるのである。


つづく。
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