Daddy Killer

リョウタ

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第四話 「出会ってはいけなかった二人」

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出会い系アプリを使って数時間で、どこの誰かもわからない45歳のカズさんという方に明日会うことになった。

お互いのことをあまり知らないのに、会うのは危険だ。

もっと警戒すべきだ。

僕の中では、そう言っている。

でもそれ以上に僕の容姿を褒められたことに、嬉しくなってしまっている。

また、正志と愛加に対する心の葛藤もあり、現実を逃避したかった。

そう。

少し自暴自棄になっており、正常の判断力ではなかった。

めんどくさいコトは忘れよう。

夕方18時に大阪市内の喫茶店でカズさんと待ち合わせした。

さすがに緊張しているのか、いつもは15分前に待ち合わせの場所に行くのだが、一時間前にきてしまった。

うう。緊張するな。

カズさんが現れるまで、コーヒーを五杯もお代わりしてしまっていた。

「もしかして、良太くんかい?こんにちは。『66』のカズです。」

「あっ。カズさん。初めまして、良太です。今日はよろしくお願いします。」

僕は驚いた。

45歳の人って聞いていたから、高校のときに気になっていた体育の先生みたいな人を想像していた。

体格は中年太りって感じで、顔は僕のお父さんくらいにみえる。

思わず、

「えっ。お歳45歳なんですか?55歳じゃないんですか?」

って聞きそうになったけど、明らかに失礼なので口を閉じた。

「良太くん。写真よりずっといいよ。25歳か。その格好だと大学生くらいにみえるね。」

「初めて会うと緊張しますね。」

「そんなに緊張しないで。よく誰かと会ってるんじゃないの?」

「いえ。昨日『66』のアプリをダウンロードして、メッセージのやりとりをしたのがカズさんだけなので、こういうの初めてです。」

「若い子でたまにいるよね。そういうこと言う子。まあ付き合っていけば、のちのちわかってくるけどね。今から、どこ行こっか?」

僕はカズさんに連れられるまま、喫茶店から出た。

美味しい海鮮居酒屋のお店があるらしいので、そのままカズさんと一緒に行った。

「乾杯!!」

美味しいビールと美味しいお魚たち。

それを味わえるということは、とても楽しいことだけれども。

どうしよう。

言おうかな。

言わんとこうかな。

カズさん。

あなたのこと。

実は。

タイプじゃないんです。

僕はホントにバカだ。

45歳の歳上の人って聞いて、高校のときの体育教師「松川」のような人をイメージしてしまっていた。

だから松川みたいな人が来るって思い込んでしまった。

年齢と性別が同じなだけで、松川が来るわけがない。

僕は出会い系アプリに都合の良い風に解釈し過ぎてしまった。

この場をうまく切り抜けるには。

「良太くん。いい飲みっぷりだね。お酒強いの?」

「普通だと思います。ここのビールとお造り美味しいですね。」

「良太くんみたいに、いっぱい食べてくれるとこっちも嬉しいよ。もっと頼もうか。」

だって、食べる方が楽しいから。

「さて、良太くん。これからどうしよっか。ホテル行く?」

僕は顔が赤面した。

「どうしたの。そんなに顔を真っ赤にして。かわいいね。でも何回かしてるんだろ?」

「ちょっと、まずいです。初めて会ってそれはちょっと早過ぎます。あと僕、明日の朝早いので、遅くまで付き合えないんです。」

「そっか。ごめんね。まだ20時だし、もう一軒くらい行こうよ。」

そう言って、海鮮居酒屋を後にした。

僕はほっとした。

ホテル行ったって何もできないよ。

「じゃあゲイバーでも行く?」

ドキッとした。

アプリでも緊張したのに、ゲイバーなんて。

いつか行ってみたいとは思っていたけど、心の準備ができていなかった。
「良太くん。ゲイバーも行ったことないんだ。良太くんより若い子なんて、いっぱいいるよ。」

「ゲイバーってどんな人がいるんですか?テレビみたいなおネエ系みたいな人たちですか?」

「観光用のゲイバーはそういうのも多いと思うけど、ゲイが行くゲイバーはただのスナックだよ。ジャンルは色々あるけど。とりあえず、行こうか。」

僕ももう25歳だもんな。

いろいろ経験しといた方がいいよな。

ここは腹をくくろう。

なんでも経験だ。

よし。

「はい。がんばります。」

「何を?良太くん。面白いね。」

カズさんに市内の繁華街に連れてこられた。

「この辺にゲイバーあるんですか?」

「そうだよ。この辺にはゲイがいっぱいいるよ。」

「女の子の店も多いじゃないですか。間違って入ってしまわないんですか?」

僕のくだらない質問を無視して、カズさんは行きつけのゲイバーに入った。

「いらっしゃい。あっ。まさる。今日は若い男連れね。」

ゴツいのに、おネエのマスター。

これがゲイバーなのか。

「あれ。カズさんってまさるっていうんですか?」

「うん。本当は和正っていうんだ。だから66ではカズ。お店ではまさるにしてる。」

こういうのは面白いなって思った。

名前の使い分けか。

勉強になるな。

カウンターは丸くなっており、お客さん全員の顔が見渡せた。

お客さんは全員が50歳以上のおじさんに感じた。

「マスター。僕、こういうお店くるの初めてなんですけど、僕くらいの歳の人は来ますか?」

「来るわよ。ただ今日、お盆休み中じゃない?近くでクラブがあるから、早い時間は若いゲイの子はそっちに行ってると思うわ。」

「あっ。そうなんですね。こっちの世界の人たちもクラブ行くんですね。知らなかった。」

「なに。あなたまさると来てるってことは上が好きなんでしょ?若い子が好きなの?」

「いや。そういうわけではないんですけど、どちらかというと上です。」

上過ぎるよ。

なんか一番右端にいるおじさんがこっちみて、なんか睨んでいるような気がするんだけど、僕変なこと言っちゃったかな。

「お兄さん。彼氏と来てるんだろ?マスターとばっかり喋ってないで、彼氏と喋りなさい。ほら、つまんなさそうにしてるよ。」

僕を睨んできたおじさんがいきなり話しかけてきた。

というよりも注意してきた。

「あっはい。ごめんなさい。ごめんなさい。カズさん。僕、初めてでよく分からなくなっちゃって。」

「ねぇ。良太くん。やっぱりホテルに行かない。今から。」

「今日はダメです。また、ゆっくりできるときにしましょう。今日はちょっとここでお酒飲んで帰ります。」

「お兄さん。行ってあげなさいよ。貴重な時間使ってあなたとここに来てるんでしょ。彼氏さんの気持ち考えなさい。」

僕は苦笑いをしてごまかした。
ちょっとこのオヤジ。

さっきから鬱陶し過ぎるんだけど。

そんなに腹立たない僕が無性に腹が立っている。

酒のせいなのか。

早く帰ると僕は言っていたくせに、気づけば23時になっていた。

初めてのゲイバーは、いろんな人と話せて楽しかった。

おじさんたちは特に僕に優しくしてくれた。

お酒をごちそうしてくれたり、カラオケしたり楽しい時間を過ごせた。

ただめんどくさかったのは、カズさんといちいち腹立つこと言ってくるおじさん。

僕が別のおじさんと話したりすると、スネているように黙っているカズさん。

そうすると、余計なことを口に出してくる右端に座っているおじさん。

他のおじさんたちはみんな優しくしてくれるのにこの二人早く帰ればいいのに。

仲良く喋っていたおじさんたちはどんどん帰っていった。

僕もお盆休みが今日終わるので、明日から普通に仕事だからもう帰らなきゃならないけど、楽しくてまだ帰れないでいた。

とうとうお客さんは、僕とカズさんと鬱陶しいおじさんの三人だけになってしまった。

「良太くん。帰るね。また近いうちご飯行こうね。あと、ホテルも。」

「はい。カズさん。いろいろありがとうございました。とても楽しい一日でした。また楽しく遊びたいですね。」

カズさんは帰っていった。

ふぅー。

「マスター。この時間って40歳くらいのおじさんは来たりしないんですか?」

「あなたそれくらいの人が好きだったの?今日うちにいたお客さん全員50歳以上だったわよ。」

「はい。そうなんだろうなって思っていました。」

「じゃああんた何でまさると今日一緒に来たのよ?」

「僕、あの人と66で知り合ったんですけど、45歳って言ってたんですよ。絶対50歳以上ですよね?」

「んーそうね。本当に年齢は教えれないけど、まあ良い線いってるんじゃない?」

「お兄さん。66とかやってるの。危ないことはやめなよ。」

もう。

また話しかけてきた。

このじじい。

いちいち腹立つんだよな。

おかしいな。

ほんとこのじじいの言うこと一つ一つがムカつく。

「あんた今一人なんだから、あそこのおじさまの隣に座っちゃいなさい。」

うえ。

でもマスターに言われると断りにくい。

「あっ。どうも。失礼します。もう帰りますけど、一杯くらい一緒に飲みましょう。」

「君は失礼な子だね。今日一緒に来ていたおじさんと何でホテルに行かなかったの?」

僕は苦笑いでごまかした。

「既婚者にとって時間は限られてるんだよ。家族をもつと大変なんだよ。仕事と家庭で時間が追われる。短い時間で若い子と楽しまなきゃならない。それくらいの気持ち大人なんだから察しようよ。君もいずれ結婚して家族を持ったらわかるよ。」

あれ?

僕は酔っているのかな?

こういう話ってゲイの人から聞かされる話なのか?

ゲイなのに、結婚って。

結婚しているゲイの人たちは当たり前にいるってこと?

バイなのか?

なんか一般論みたいなもの持ってきやがって、めんどくさいな。

そもそもなんで僕はこんなに腹が立っているんだ。

それ自体が珍しい。

僕は昔からよっぽどのことがないと怒ったりしたことがない。

兄や父がよく怒る人だったから、僕は温厚に育ったなと思っていたのに。

どうしてなんだろう。

このオヤジがそれほどムカつくやつだということだろうか。

腹が立つなら、お店を出ればいいだけの話だ。

なぜだ?

足が動かない。

酔っているからではない。

この場から動けない。

いや。

このジジイの瞳から。

僕がお店に入ってきた時から、僕のことをジッとみていた。

大きな目。

何を考えているのかわからない目。

今日話した他のおじさんたちは普通だった。

目を見て話すとわかった。

年下の男の子が好きなんだろうけど、僕がカズさんと来ていたことで下心はあるけどあきらめているという目をしていた。

今話しているこのおじさんは違う。

目の中の強さ。

確固たる自信。

挑発的な視線。

これは全て計算だったのか。

動けないんだ体が。

このおじさんから離れられない。

いや離れたくない。

なんでなんだ。

僕も最初っから気になっていたのか。

この視線から目を反らせない。

「どこかもう一軒行くかい?それともお腹が空いた?それとも。」

「はい。どこでもいいです。」

つづく。
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