Daddy Killer

リョウタ

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第五話 「恋」

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気がつくと、見知らぬ天井だった。

ここは。

どこかのビジネスホテルか。

となりのベッドでは、昨日知り合ったおじさんが寝ている。

うっすら覚えているのは、ムカついていたおじさんともう一軒飲みに行った。

夜お腹が空いたので、おじさんと定食屋さんに食べに行った。

ここから僕の家までタクシーでそう遠くないのに、おじさんに言われるまま、おじさんが泊まっているビジネスホテルについていった。

そして、今に至る。

本当に僕はバカだ。

なんて安売りをしてしまったんだ。

おじさんが寝ているうちに出よう。

もう7時半。

家に帰って仕事に行く用意をしなければ。

僕は服を着替え、こっそりこの部屋から出ようとした。

「あっ。ごめんね。今日から仕事だよね。昨日は遅くまで付き合ってくれてありがとうね。」

「こちらこそ、飲み屋にいろいろ連れていっていただいてありがとうございます。また機会があったら仲良くしてください。」

「連絡先とか、いいか。昨日、出会ったばかりでこんなことしてしまってほんとにごめんね。お詫びに今晩夜ご飯でもどうかと思ったんだけど、都合はどうかな?」

このおじさん、昨日つっかかってきた感じとは全然違う。

すごく優しくて別人みたい。

でも、なんだろう。

この心のモヤモヤは。

関わっちゃいけない。

そんな気がする。

柔らかく断ろう。

危険なニオイがする。

「わかりました。今日の夜なら仕事は早く切り上げられます。」

「19時でもいいかな?電話番号教えてもらってもいいかな。」

思っていること、やっていることが全然違ってしまっている。

僕は一体、どうしちゃったんだろう。

そんなことより早く帰って、仕事の準備!!

僕はビジネスホテルを出て、急いで家に帰った。

全然みていなかったスマホをみてみると、愛加と正志とカズさんからメッセージが入っていた。

ゲッ。

すっかり忘れていた。

メッセージの内容を確かめるのが、気が進まない。

そんなとき、また新着メッセージが入った。

「昨日はありがとう。とても楽しい時間が過ごせました。今夜も楽しみにしています。」

さっきのおじさん。

メッセージ送るの早すぎ。

このおじさん、暇なのか。

てか、なんで愛加か正志のメッセージより先にあのおじさんの内容を先にみているのか。

「もう。昨日、何回電話したと思ってるのよ。寝てるの?良太、何時から寝てるのよ!!朝、起きたら、連絡しなさい!!」

「良太。週末空いてる?ご飯食べに行こう!!もう決定。拒否権なし!!」

「おはよう良太くん。昨日は無事に帰れた?遅くまで飲んでたから心配だよ。変なおじさんに声かけられなかった?夜、メッセージ送っても返信してくれなかったから、どこかのおじさんに捕まったのかと思ったよ。そんなことないよね?良太くん。信じてるね。」

うわ。

どこから取り掛かろうか。

仕事をしながら、ゆっくり考えよう。

一番送りやすいのは、正志だな。

「一昨日会ったばっかだけどわかった。食べに行くとこは、正志に任せるわ。」

「ごめん。正志と前の日ずっと飲んでたから、二日酔いが酷かった。寝たり起きたりを繰り返してて、愛加から連絡あったのわかってたけど、なんか力入んなくてごめん。とりあえず、僕は生きてるから。」

後は、

「カズさん。おはようございます。昨日は少し遅くまで飲んでしまっていました。ゲイバーってすごく楽しいですね。良いところを教えていただいてありがとうございます。また時間が合えば、一緒に飲みに行きたいです。」

こんなところか。

三人に無事返信できた。

だけど、僕はソワソワしている。

落ち着かない。

誰かからの返信を強く期待している自分がいる。

まさか。

まだ、名前も知らないのに。

僕は仕事中、上の空だった。

同僚からは、休みぼけでボーとしていると言われた。

なんでこんなに気になっているんだろう。

えっ。

僕があのおじさんを好いている?

いやいやないでしょ。

昨日会ったばかりだし、何より歳が上過ぎる。

軽く僕より30歳は上だろう。

僕は40歳くらいのおじさんが好きなんだ。

「良太。今日会わない?旅行の話したいし、お土産も買ってきてるのよ。」

「ごめん。今日はまた正志と会うんだ。また僕から、連絡するよ。」

愛加にまた嘘をついてしまった。

嫌いなわけじゃないのになんでだろう。

いい彼女なのに。

あんなおじさんに会うことを、なんでこんなに楽しみにしているんだ。

僕は。

全く仕事に集中していなかった僕は18時になって、そのまま仕事を終え、おじさんと約束していうる待ち合わせ場所に向かった。

19時に地下街の金の銅像前で待ち合わせだった。

ニヤニヤした顔でおじさんは待っていた。

「待ちましたか。早いですね。」

「いや君も早いよ。まだ15分前だよ。後で思ったんだけど、僕たちってまだ名前も知らないんだね。」

「僕もそれ思いました。なんか自己紹介した気になっていました。」

「なんかごめんね。自己紹介もしてないのに、あんなことしてしまって。」

僕は顔が真っ赤になっていた。

このおじさんのどうでもいい言葉の一つ一つが、僕の心に深く入っていく。

「お寿司でも食べようか。」

「はい。」

回らないお寿司屋さんに入った。

「回転寿司以外行ったことないです。」

「良かった。ここのお寿司屋さん、僕好きなんだ。仕事の接待とかでも使っているよ。」

「らっしゃい!!おっ。井戸沢さん!!らっしゃい!!今日は仕事かい?」

「大将。まいど。今日は友達と来たよ。オススメお願い。」

「井戸沢さん?」

「あっ。自己紹介まだだったのに、名前がバレちゃったね。そうそう僕は井戸沢孝。58歳。君の名前は何ていうの?」

僕はかしこまった気持ちになり、自分の会社の名刺を差し出した。

「鈴木良太です。25歳です。よろしくお願いします。」

「えっ。名刺!!ん~。今日持ってたかな?あっ。あった。はい。よろしく。」

仕事じゃないのに、名刺交換した。

「井戸沢さん、代表取締役?社長さんなんですか。なんか全然見えないですね。」

僕がそう思ったのは、井戸沢さんは派手な格好をしておらず、ブランド物も持っていないようにみえたからだ。

「小さい会社だからね。全然お金ないよ。鈴木君は営業マンなのかな?かっこいいね。」

「ただのダメ営業マンです。今日も全然仕事に集中できなかったんで。」

「もしかして、僕のこと考えてくれてた?」

また、僕は顔が赤面して、下を向いてしまった。

「鈴木君。わかりやすいね。下の方も元気になっているんじゃない?お寿司食べ終わったら、どこかホテルでも行くかい?」

「昨日と同じホテルですか?」

「今日は家に帰らないといけないんだ。僕、家は京都だから終電あるのでそんなにゆっくりできないけど、ファッションホテルだったらいいよ。」

「ファッションホテルってなんですか?」

「この言い方はジェネレーションギャップなのかな?ラブホテルのことだよ。」

「え~。ラブホテルですか。恥ずかしいです。」

「じゃあ今日はこのまま帰る?」

「えっ。じゃあちょっとお茶したいです。僕、井戸沢さんのこと全然知らないので、もっとお話ししたいです。」

「あっ。そうだよね。こっちも言っておかないとダメなことがあったんだ。よし、場所変えよっか。カフェ行こう。」

二人はお寿司屋さんを出て、某コーヒーチェーンの「トマール」に入った。

「僕、ここのコーヒー屋さん好きなんです。なんか雰囲気が好きです。」

「そうだね。ここのコーヒーはチェーン店の割にはいい豆を使っているよね。」

「豆?」

「まあまあそんな話はいいから、本題に入ろうか。」

「何の話をしようと思っているんですか?」

「鈴木君と僕のことだよ。」

「えっ。」

「僕ね、仕事で出張に行くことが多いから、いろんな地域で友達ができるんだ。」

「それはいいことですね。井戸沢さんすごく優しいですもんね。」

「僕にとっては友達なんだけど、その子たちからしたら彼氏になってるみたいなんだ。」

「何でそうなるんですか?」

「不思議だよね。だから、悪いんだけど僕は君だけの彼氏になることはできないんだ。いっぱい友達が欲しいから。」

「はい。僕と井戸沢さんは友達です。」

「ちなみに昨日一緒に飲み屋に来ていたおじさんは彼氏じゃないの?」

「全然違います。ただ66で知り合ったおじさんです。」

「あっ。そうだったんだ。良かった。いやいや良くない。僕なんかとあんまり関わらないで、ちゃんとした彼氏を作ったほうがいいよ。」

「彼女がいるんで大丈夫です。」

「それなら良かった。早く結婚したほうがいいよ。」

「は~い。」

「あっ。もう9時だね。そろそろ帰ろうか。」

僕は残念そうな顔をした。

「そうか。鈴木君の気持ちはわかった。昨日のことを考えていたら、僕のも元気になってきた。この近くのファッションホテルは男同士入れるから、そこに行こう。」

僕は言葉にできなかった。

嬉しくて。

望んでた通りになって。

早くこのおじさんとそうなりたかった。

昨日の夜も同じことをしていたのに。

なぜ、こんなおじさんに抱かれるのがこんなに嬉しくなってしまったのか。

このおじさんだからなのか。

目が他のおじさん、いや他の人と違う。

大きな瞳。

目力の強さ。

漆黒と濁りと欲望と快楽の眼球。

その目を見つめているだけで絶頂に達してしまいそう。

井戸沢さんの存在そのものが圧倒的な性の対象。

こんな気持ちいいことがあるなんて僕は知らなかった。

この人と一緒にいることが楽しすぎる。

離れたくない。

あっという間に時間は過ぎてしまう。

もう23時だ。

「おっ。終電やばいな。急いで帰らなきゃ。鈴木君。帰ろう。」

「はい。」

僕は駅の改札まで井戸沢さんを見送りに行った。

別れ際、井戸沢さんと強く握手を交わした。

キスなんかできるわけがないからだ。

でもとても気持ちが伝わって嬉しかった。

井戸沢さんを見送ってから、僕は自分の乗る電車へ向かった。

井戸沢さんからメッセージが届いた。

「昨日に続いて今日もありがとう。とても楽しかったよ。PS.改札で別れた後、後ろ振り向いてね。僕はずっと鈴木君を見ていたよ。おじさんはそういうこと嬉しいんだよ。」

また余計な一言を言う。

でもいいんだ。

この人の言葉はすごく心に残る。

快楽そのものなんだ。

とても危険だ。

井戸沢さんの言う通りなのだ。

井戸沢さんと関わらず、ちゃんとした彼氏か彼女を作るべきだった。

あんな不幸な出来事が起こるのであれば。

二人は出会うべきではなかったからである。

つづく。
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