Daddy Killer

リョウタ

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第二十三話 「父親」

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僕はハッと目が覚めた。

服を着ていない。

井戸沢さん…の弟とそういうことをしていたはずだ。

どこにもいない。

僕は井戸沢さんと激しい夜を過ごした後、意識が遠のき、井戸沢兄弟の過去をみた。

あれは幻覚だったのか。

いやそれよりも井戸沢さんがここにいないことの方が不思議だ。

さっきまで一緒だったんだ。

僕は少し怖くなり、服を着て、隣の部屋にいるはずであろうと井戸沢さんの弟の部屋に向かった。
僕は扉を叩いた。

「井戸沢さん!!いるんですよね?返事してください!!」

扉は開いていたので、そのまま部屋に入った。

「井戸沢さん!!あっ。」

僕はゾッとした。

この部屋はただの空き部屋になっていた。

じゃあさっきまで一緒にいた井戸沢さんはなんだったのか?

死んだ井戸沢さんの幽霊?

怨念?

僕にはわからない。

ただ、あまりにも呆然してしまい力が抜けてしまった。

自分の部屋に戻り、ベッドに横たわった。

明らかに昨日誰かとした形跡があるのに、どうしてだろう。

全くの別人だったのか。

でも、あんな快感井戸沢さん以外考えられないのに。

井戸沢さん。

井戸沢さんを殺してから、あまり井戸沢さんのことを考えないようにしていた。

考えても仕方なかったから。

存在していないから。

井戸沢は愛人としては最高だ。

体の相性はいい。

体の隅々まで愛すことができる。

井戸沢に心を弄ばれたが、本当に井戸沢を愛していた。

ただ自分のものだけにしたかった。

だから殺した。

単純な話だ。

正義のためではない。

自分のため。

自分勝手な理由だ。

殺したことに後悔はしていない。

井戸沢が他の男とするのが、我慢できるはずがないから。

愛した人が、他の人と体の関係を持つということがこんなにも腹立たしいことなんて、人を愛するまでわからなかったんだ。

そんな井戸沢さんの良いところがもう一つあるんだ。

それは、父親としても最高だということ。

井戸沢さんは数年前まで家族と一緒に京都の大きな家で暮らしていた。

大きな家なのに、使用人やお手伝いさんを雇うことはせず、普段は奥さんが家のことをしていた。

でも、井戸沢さんも家のお手伝いをたくさんしていた。

料理を作ることもあった。

週末には庭の手入れも欠かさなかった。

何より子ども思いだった。

子どもの面倒が良く、子どもの行事には積極的に参加していた。

優しいお父さんだったんだろうな。

僕といるときもそんなに怒ったりはしなかった。

優しい雰囲気。

子どもの前でもきっとそうだったんだろうな。

井戸沢さんと息子さんのメッセージのやり取りを見せてもらったことがある。

井戸沢さんはメッセージでは息子さんに対して敬語で接している。

その丁寧な感じが好きだった。

育ちの良さを感じた。

良いお父さん。

僕はいつも比較してしまっていたんだ。

僕の父親と。

僕の父親は警察官で怖い。

小さい頃から柔道を無理やりやらされた。

兄弟と一緒だから、最初は嬉しくなったけど、父が長男に対しての暴言、暴力の数々を目の当たりにして、僕は恐怖を感じた。

なんでお父さんはお兄ちゃんばっかりに怒っているんだろう。

お父さんは仕事の付き合いで帰ってくる時間が遅いときがある。

これが寝静まった子どもたちの怖い時間の始まりだった。

夜中に父親が帰ってくる。

お酒に酔っている父親はいつも機嫌が最高に悪い。

家に帰ってきてからはいつもお母さんに怒鳴り散らしていた。

テストの点や学校での問題行動があると、夜中でも僕たち子どもたちは叩き起こされる。

僕も何回はすごく怒られてお尻を叩かれまくった。

でも、いつも長男の太郎兄がほとんど怒られる。

お父さんに反抗的だからだ。

お父さんは太郎兄が高校卒業まで太郎兄をいじめ抜いた。

太郎兄は地方の大学に行ったので、家から出て行った。

それからは父親の家族内での罵倒は減った。

僕は忘れない。

お兄ちゃんやお母さんにしたことは必ず償わせてやると誓ったんだ。

僕は父親を殺そうと思ったんだ。

大きくなって。

強くなって。

って思っていたんだけどな。

今の今まで忘れていた。

長男も家を出て、次男も家を出て、僕も家を出て行った。

やや他の人の家より広い僕の家はお母さんとお父さんの二人っきり。

なんてさびしいのだろう。

僕が家を出てから、父親から連絡があることはない。

嫌われているわけではないと思うけど、自分の子どもたちとの接し方がわからないのだろう。

父親のスマホの番号も知らない。

かわいそうな父親だ。

それで思ったんだ。

僕の父親は不器用な人。

家族の中では。

仕事一筋の人だったから、家の中でもそれを持ち込もうとした。

警察の考え、規律を子どもたちに幼い頃から教えてきた。

だから厳しかった。

特に長男に。

お兄ちゃんもお父さんのことが嫌いだったはずなのに、なんで同じ警察官になったって疑ったけど、伝わっていたのかもしれない。

井戸沢さんはこれの逆だね。

家族の中でもうまくやっていたんだと思った。

子どもに反抗期があったって言っていたけど、うちみたいじゃないと思う。

子どもにも器用に接していたんだろうな。

メッセージのやり取りでわかった。

父親と仲良くできる息子っていうのが、僕には理解できないものだったけど、井戸沢さんと息子さんのやりとりがそれを物語っていた。

僕は井戸沢の存在を知って、本当の父親が少し好きになれた。

井戸沢は器用だ。

家族でも仕事でも愛人にも。

器用にこなしていたと思う。

家族と仕事に全力を注ぎ、その分のたまったものを若い子たちとやりまくることによって放出していったんだろ。

うん。

理にかなっている。

でもね。

公表できないよね。

そんなこと。

世の中は認めないから。

バレたらどうなるだろう。

子どもや奥さんはどう思ったんだろう。

悲しむだろうね。

僕がその役を買って出たかったけど、殺しちゃったからね。

僕の父親はそんな人じゃないんだ。

子どもに不器用。

女性関係も上手に浮気ができているに思えない。

あの強面じゃ女性は逃げていくよ。

でもそこが良い。

僕のお父さんのかわいいところ。
僕がお父さんにされて一番嬉しかったことは、小学生の高学年の頃。

家族でおばあちゃんの家に行った。

そのとき、駅からタクシーに乗ったんだ。

でも僕たちは五人家族。

タクシーは四人までしか乗れない。

ホントはダメだけど、僕は父親のあぐらに乗ったんだ。

そのとき、父親は僕の頭を撫でてくれたんだ。

いつも怒っている父親が撫でてくれることなんかなかったのに。

僕はすごく照れてしまった。

お父さんにもっと愛されたかったんだ。

お父さんとお母さんに会いたい。

今すぐにもでも。

僕は手は汚れてしまったけど、お父さんとお母さんに人目会いたい。

日本に帰ろう。

早く。

僕はそう思い、行動に移した。

次の港に着いたら、日本に帰ろう。

それが今の僕が一番したいことだから。

そう言って、良太は日本に帰っていった。

良太の体から「Daddy Killer良太」は居なくなっていた。

「Daddy Killer」は伝染するもの。

性別は関係ない。

年上のオヤジ、パパ、ジジイにおもちゃにされた若い男、若い女の恨みの集合体なのかもしれない。

「Daddy Killer」に取り憑かれた若い子と付き合うと殺される。

それは肉体的か社会的か取り憑かれた者の性質によって変わる。

今度、「Daddy Killer」に殺されるのはあなたかもしれない。

男女の遊びもほどほどに。

さて、良太の今後だが、日本に帰った良太は無事、両親に出会えたのか?

それとも警察に捕まってしまうのか。

日本に帰国してからの良太は消息不明。

なぜなら、この物語はここで終わりだからである。

でも最終回は次回。

つづく。
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