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訓練シリーズ
夢物語
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※時系列はあまり気にしないで下さい。旅行に行く未南と篠田の超甘々話です。
拘束/擽り/愛撫/キス/甘々/本番無/微裏
攻→篠田
受→未南/視点
◇ ◆
中々お目にかかることが出来ないIrisのリーダーから呼び出されたのは、コンペを終えてから少し期間が経った頃だった。
「遅くなってしまい申し訳ありません。この度はIrisに加入してくれた事、そして素晴らしい物を色々と開発して頂き感謝します」
トップとは思えない丁寧な言葉遣いと態度。加入して初めてその姿を目にした俺達は、ペコリと頭を下げてくれた目の前のお方に対して、篠田くんと共に深々と頭を下げた。
「加入して今まできちんとした休みも取れていないでしょうし、良かったらゆっくりしてきて下さい。Daisyの栗原くんにも同じ物を渡しています」
頭を上げた後に手渡されたのは、塞原生誕祭の時に用意されていた旅行のペアチケット。結局あの人は一人で行ったみたいだが。
それを受け取ったのは俺で、目の前に居る神々しいオーラを纏うトップに礼を伝えた。
「ありがとうございます。私達もIrisに入れた事を光栄に思っています。良くして頂いた代わりに、今後も様々な物を開発が出来るよう尽力致します」
「ありがとうございます。未南さん。今後も期待しています」
柔らかく微笑む顔はとても可愛らしい雰囲気で、相変わらずここの組織は顔面偏差値が高いと感じる。隣で同じように感謝の気持ちを伝えた篠田くんと、最後にもう一度深々と頭を下げて部屋を後にした。
廊下を進み、当たり前のように到着したのは俺の自室。
「本当、当たり前のように来るよな」
「だってもうお付き合いしてるわけですし、未南さんの部屋も僕の部屋なので」
「とんだジャイ◯ニズムだな」
「僕、花宮リーダーのこと初めて見ましたが、めちゃくちゃお綺麗な方ですね!桜花さんに似た感じというか!ここ顔面偏差値高すぎません?みんな中性的ですよね。風見さんと塞原さん以外!」
「まぁ、あの二人は男らしくて格好良いもんな。んで、このチケットだけど、どうする?」
「もちろん行きますよ!すっごく楽しみ!早速行きましょう!!」
手元のチケットを見た篠田くんは、目的地を見て嬉しそうにしながら俺にくっついてきた。付き合ってから正式に二人で何処かへ行く事は初めてで、内心俺も嬉しくて仕方ない。くっついてきた篠田くんに体を預けると、ぎゅっと抱き締められた。
「素直に甘えてくれる未南さんも最高ですね。旅行、楽しみです」
「…ん」
俺も篠田くんの背中に手を回して小さく頷くと、優しく唇が触れた。柔らかくて気持ち良い感覚に目を閉じると、何度か角度を変えて触れるだけのキスが贈られた。
◇ ◆
早速休みを貰った俺達がやってきたのは、人気観光地でもある場所。偶然にも今回泊まる場所は、オーシャンビューが堪能出来る。
「未南さんと恋人になって初めて泊まる場所から海が見えるなんて、何だか嬉しいです。益々僕達にとって海は大切な思い出の場所になりますね」
チェックインした後に身軽にやってき海の近くの公園で、篠田くんは笑顔でそう言ってくれた。綺麗で耳に心地良い波の音を聞きながら、公園にあるベンチに腰掛けると、篠田くんは子供のようにはしゃぎながら、公園に設置されたブランコに揺られていた。
その姿がとても可愛らしかったのでこっそりと海を背景に写真を撮ると、めちゃくちゃ映えそうな写真が撮れた。
(綺麗だな。待ち受けにしようかな)
画面に納まる篠田くんを見ながら、つい口元が緩んでしまう。それに気付いたのか、篠田くんはブランコを降りてむすっとしながらこちらへやってきた。
「僕と居るのに誰かと連絡取ってるんですか?」
スマホを見てニヤけていたことに怒ったのか、小走りしながらこちらへやってくる姿も可愛い。付き合って知ったのは、意外とヤキモチ妬きだということ。
今までは年下なのにしっかりと仕事もこなし、将来設計も考えるしっかりした部分を多く見てきたから、そんな姿が少し新鮮だった。
「見て。綺麗だから撮った。篠田くん可愛い」
「…勝手に撮らないで下さいよ。恥ずかしいです」
「篠田くん、一緒に海を背景に写真撮ろ。あの人に──」
『撮ってもらおう』と言おうとしてハッとした。公園近くを歩く人に見覚えがあり、俺が驚いた表情を見せると、篠田くんも俺の視線の先を見て同じような表情を浮かべた。
「あれ!桃瀬さんじゃないですか!」
「あれ、未南さんと篠田さん。コンペ振りですね」
私服を着た桃瀬と、その隣に居るのは、何故か千隼くんだった。恥ずかしそうに桃瀬の後ろに隠れたがバレバレだ。
「花宮さんから素敵なプレゼントを頂いたので、早速旅行に来たんです。あはは、まさか日にちが被るとは」
確かに栗原にも同じチケットを渡したと言っていたな。
「…栗原さんは?」
「さぁ。仕事じゃないですか?栗原さん、旅行にはあんまり興味ないみたいで。なので俺が貰いました」
桃瀬の性格上、本当にそうなのかは不明だ。まぁ桃瀬と栗原が二人で旅行に来るというのも似合わない気がするが。
「へぇ。それで千隼くんと来たんですね」
「はい。それよりさっき写真撮ろうとしてましたよね。二人並んで下さい」
「あ、じゃあお願いします」
自分のスマホを渡すと、桃瀬は海を背景に写真を撮ってくれた。見知った人に撮ってもらうのは少し恥ずかしいが、隠す気もない篠田くんは俺の手を握りながら笑顔でピースサインを出した。
「ん。どうですか?綺麗に撮れましたよ」
「わぁぁ!未南さん可愛いぃぃ!ありがとうございます!桃瀬さん。僕も撮りましょうか?」
「千隼くん、写真撮る?」
「…撮りたい」
「んじゃお願いします」
未だ恥ずかしそうにする千隼くんだが、写真は撮りたいらしく、さっきまで篠田くんが乗っていたブランコの方に走って行った。
「俺ブランコ乗りながら撮りたい。桃ちゃんこっち来て」
「うん」
撮りたい構図があった千隼くんは嬉しそうにしながらもこうしたいああしたいと二人に伝えていて、篠田くんは何十枚も写真を撮らされていた。
「あはは。千隼くん可愛く撮れたよ~」
「篠田さん、ありがとうございます。何枚もごめんなさい…」
「全然いいよ~そんな千隼くんが見れて僕も嬉しいよ。桃瀬さんと楽しんでね」
「ん、篠田さんも楽しんでね。………だよ」
俺には聞こえないようにぽそっと何か言った千隼くんは、俺の方を見て「折角の二人の時間邪魔してごめんなさい、未南さん。また帰ったら宜しくお願いします」と丁寧に頭を下げて桃瀬と手を繋いで何処かへ行った。
「千隼くん、何て?」
「未南さんのこと襲っちゃだめだよって言われました」
「……襲うなよ」
「さぁ、どうでしょう」
「それにしても千隼くんって案外年相応な所あるんだな」
「ですね。めちゃくちゃ嬉しそうにしてて僕も本当に嬉しくなっちゃいました」
「俺も。相手が桃瀬なのが心配だけど」
「桃瀬さんはきっと好きな人は大切にするタイプでしょうから大丈夫ですよ。そろそろホテルに戻りましょうか」
外なのに躊躇いなく繋がれた手。恥ずかしいけどそれを握り返した俺は、ホテルへ続け道を色んな話をしながらゆっくりと歩幅を合わせて歩いた。
「未南さん。大浴場は後にして、先に部屋にある露天風呂に入りませんか?」
ホテルへ到着するなり、入浴の準備をする篠田くん。部屋にある露天風呂からは海が堪能出来、かなり豪華だ。
「うん」
夕食の時間も考え、素早く服を脱いで風呂場へ向かった。先程までは綺麗なエメラルドに輝いていた海が、すっかりとオレンジ色に染まっている。
お風呂に映った海も、目の前に見える本物の海も、どちらもとても綺麗だった。
「未南さん、体洗いますよ」
「変なことすんなよ」
「変なことするのは夜だけなので安心して下さい」
「出来ねーよ」
「予告してるだけ紳士でしょ?」
そう言いながらも、丁寧に体を洗ってくれる篠田くん。泡立たせたタオルからはボディソープの良い香りがして、とても心地良い。
「ん……」
腕や背中、脇腹まで優しくタオルが肌を撫でる。くすぐったいような気持ち良いような。篠田くんから与えられるというだけで体は素直に反応してしまう。
「未南さん、もう少しで夕食バイキングなのであんまり変な気持ちになっちゃだめですよ?」
後ろからぎゅっと抱き締める形をとると、クスクス笑いながら耳元でそう囁いた。
「…じゃあ変なことすんな」
「してませんよ」
「…お、お前に触られると感じちゃうんだよ!自分で洗う!」
「あはは。可愛い~」
タオルを奪い取って自分で体を洗うと、篠田くんも新しいタオルでボディソープを泡立たせた。体全体が綺麗になった所で、夕焼けの色が反射してオレンジ色に染まる湯船に足を入れた。
「あぁ…気持ち良い……」
ゆっくりと風呂へ浸かると、体全体が心地良い温もりに包まれた。
「夕焼けの海を堪能出来るなんて最高ですね」
「うん」
隣に座る篠田くんの肩に頭を乗せると、ふふっと笑いながら手が腰に回された。
「…幸せ。気持ち良い」
「そうですね。Irisには感謝しなきゃなぁ。きっとここに来てなかったらまだ僕達お付き合い出来てなかったでしょうし。あの時加入する決断して良かったです」
「俺も」
ただ体を密着させながら景色を眺めているだけで気持ち良い。甘えるように擦り寄ると、嬉しそうに抱き締めてくれた。
(気持ち良い……)
もうずっとここに居たいくらいの心地良さだ。それでもたまに顔も見たくなるので体を離して見つめると、そういうムードになっていく。
近付いてくる顔が見えて目を閉じると、少しの水音が響いた後に唇に柔らかいものが触れた。前にいじめられた時とは違う、触れるだけのキス。舌を入れようにも開けてくれないので、いつも可愛らしいキスだけを繰り返す。
(夜だったら、してくれんのかな)
そう思いながら、何度も繰り返した。
◇ ◆
「いっただきまーーす!乾杯!」
風呂から上がり、浴衣姿に着替えてから向かったのはバイキング会場。アルコールも全て飲み放題という神みたいな夕食に、俺達のテンションは最上級だった。
色とりどりの食事を揃えた所で、最初に口にしたのはキンッキンに冷えたビール。コツンとコップ同士をくっつけた後に勢いよく喉を通るシュワッとした感覚は今までにない程に気持ち良い。
「美味しいぃぃ」
「美味しいですけど、あんまり飲みすぎないで下さいね。この後楽しい楽しい夜の時間があるので」
「はいはい」
ビールの次に箸を伸ばしたのは、俺の大好きなお寿司。一つ一つ握ってくれるので、とても新鮮で綺麗。
「未南さんお寿司好きなんですか」
「うん。一番好き。美味しい」
定番の鮪やサーモンから、あるもの全て握ってもらった俺はパクパクと食べ進めていく。
「ビールとお寿司って合います?」
「寿司があれば飲み物は何でもいい」
「…そうですか」
と言いつつ、ちゃっかりと寿司に合うビールを選んでいるのは内緒だ。ビールにも色んな種類があり、大好きなお寿司に合う飲み物は昔からリサーチ済。
篠田くんは無言で食べ進める俺を肴にするかのようにビールを口にしている。
「美味しそうに食べる未南さんを見てるとお酒が進みますね」
「…篠田くんもちゃんと食べろよ。お前は何が好きなの?」
「未南さんですね」
「……」
その後も俺は海鮮系をメインにたくさんのものを食べた。ライブキッチンが豊富で、普段食べないような物まで手に取ってしまうのが怖い。
焼きたてのお肉から、揚げたての天ぷら。そして美味しいアルコールがあれば箸は止まらない。何度も往復する俺とは違い、篠田くんはチビチビとお酒を飲みながらおつまみ程度に箸を動かしていた。
「少食だな」
「いや、あなたが食べすぎなんですよ。僕も結構食べてますよ。小さな体でよくそんなに入りますね」
「最後はデザート取りに行くけど、篠田くん甘いのいけるっけ?」
「甘いものはめちゃくちゃいけますよ」
「…んじゃ、行こう」
「はい」
さっきまではほとんど一人で回っていたが、最後のデザートコーナーは一緒に来てくれた。小さめのお皿を取った俺とは反対に、篠田くんは一番大きな皿をチョイスした。
「そんな取る気?」
「…別にいいでしょ。甘い物は別腹なんです」
そうやって話していると、前には同じように大きな皿を持った見知った姿があった。
「あ、千隼くん」
「あ、未南さん。篠田さん」
彼のお皿は既にカラフルなデザートで彩られていた。綺麗に映えるように置かれており、今までの自分の皿を思い返すと恥ずかしくなるほどに丁寧だった。
「そんなに食べれるの?」
「桃ちゃ……じゃなくて、桃瀬と一緒に食べるので」
さっき普通にちゃん付けしてたの聞いてたけどな。
「桃瀬は何食べてんの?」
「色々食べてましたよ。嬉しそうに食べてて可愛かった……」
うわぁ、お熱い。
「じ、じゃあ俺はこれで…っ」
俺達がニヤニヤしていたのに気付いたのか、千隼くんはその後にいくつかケーキやプリンをのせて去って行った。
「千隼くんってしっかりしてるイメージでしたが、あんな一面あるんですねぇ」
だらしない表情をしながら呟く篠田くんの更には既にケーキがたくさん置かれていた。しかし残念なことに千隼くんとは違い、正直かなり色味は適当だった。
「篠田くん乗せるの下手」
「千隼くんの見た後に見ればそりゃね。ていうか未南さんもめちゃくちゃ偏ってたくせに」
最後のお供に選んだワインを持って席に戻り、俺達はデザートを楽しんだ。
◇ ◆
「バイキング最高でしたぁ」
「旅行とかあんま行かないけど良かったな」
「部屋で食べる夕食もいいですけど、好きな物を好きなだけ食べまくる未南さん見てるのが一番楽しかったです」
「…恥ずかしいから忘れて」
「けど約束通りお酒控えてくれて嬉しいです。…夜はいっぱい愛してあげたかったので」
「お前恥ずかしいセリフ言うよな」
「…恥ずかしいから忘れて下さい」
「ふっ…おんなじこと言うなよ」
歯磨きを終わらせ、お腹が落ち着くまでは窓際に置かれたソファでまったりすることにした俺達は、夜の海を眺めていた。
大きな窓に映る月明かりが輝く夜の海。吸い込まれそうな程に深く見えるが、とても綺麗。
「未南さん」
「ん?」
「そろそろお腹、落ち着きました?」
「……ん」
「じゃあベッド行きませんか」
真面目なモードの、いい雰囲気のお誘いに小さく頷くと、手を握られてベッドへ連れて行かれた。散々痴態は見せてきたが、こういうムードはかなり緊張する。
ドキドキと激しく胸が高鳴りながら、ぽすんとベッドに寝かされると、その上に乗っかる篠田くん。しゅるりと腰に巻いた帯紐が解かれると、更に胸が煩く響く。
「…未南さん、好きです」
「…俺も好きだよ」
はだけた浴衣の中に差し込まれる手は、俺の弱い箇所を撫で回す。その手のひらが擽ったくて体を捩らせると、ぐいっと腕を頭上へ持って行かれて押さえつけられた。
「…っ」
その行為に無性に体が熱を帯びた。今までは機械や謎の触手で拘束されることが多かったので、篠田くんの手で押さえられるのがやけに──興奮した。
「……何か凄く反応したみたいですけどどうしました?」
「…煩い」
「っ、い"!?──~~っっ」
足を振り上げると、思いっきり篠田くんの篠田くんに当たってしまい、今まで見たことない程に悶絶した顔。
「ぶっ……ごめんごめん!そこ蹴る気はなくて!」
「謝るなら…その前に吹き出すのやめてくれません?」
「悪い悪い。…今まで、機械とか…そういうので縛られるの多かったから、篠田くんの手で押さえられると何か恥ずかしくて……照れ隠しに蹴っちゃった」
「へぇ。この帯で拘束プレイしようと思ったけど僕の手で押さえてた方が興奮します?」
「……それは、何かエロいから…別に、いい」
「…じゃあいっぱい可愛がってあげたいので、少しだけ縛りますね。万歳しててね」
先程まで巻いていた帯紐が手首にしゅるりと固定していく。最後にリボン結びで縛られた帯紐は、可愛らしい見た目ながらにちゃんと動きを制限した。
ギシッとベッドが軋む音と共に、篠田くんの体は密着するように俺の体に覆い被さった。そして顔が近付いてきたので目を閉じると、また触れるだけのキスが贈られた。
口を開けてみても相変わらず深いキスにはならないことが少しだけ淋しい。
「……篠田くん、ちょーだい」
「ん?」
「…舌、出せ」
「深いのがいいの?」
「…うん」
見つめながらそうおねだりすると、少しだけS気を含ませた表情を見せながらも要望通り深いキスをくれた。舌が絡まり合う感覚は何処か懐かしい。
「──未南さん。ずっと気になってたことがあったんですけど」
ある程度深いキスを交わした後、真剣な声で彼は質問を続けた。
「最初に苦手な場所聞いた時、言いましたよね。上顎とか擽ったいからキスは苦手だって。そんな深いキス、誰としたの」
「え?」
「……未南さんがするなら分かりますけど、そんなテクニックあるキスを"される"ってことは、やっぱり自称Sなあなたが受けに回ってたってことですよね」
子供みたいに不貞腐れた顔をしているのを見て、つい笑いが溢れそうになった。
(もしかしてずっと気にしてたの?)
俺はあまり過去には拘りがないのでそういう感覚が分からないが、目の前にいる篠田くんは明らかに過去の俺の相手に嫉妬している。
アルコールも入っているからか、むすっとした表情も隠さない彼は、じっと俺を見つめて返事を待っている。
とはいえ、俺も成人した男だしある程度経験はしてきた。過去に深いキスをしたのも事実。隠してもきっと嫌だろうし、包み隠さず話すときっとそれも嫌だろう。
「そんな明らかに嫌な思いさせちゃうって分かってて言いたくないんだけど。過去は過去、今は今」
「…その人とは、もう接点はないんですか」
「うん。今の仕事を始めてすぐに振られたよ。というより、俺が何かを作ることに夢中になって、特定の人が欲しいと思えなくなったから。──今も変わらず何かを作ることは好きで堪らない。俺は両立なんて出来ねーから、もう二度と誰かとこういう関係になることはないって思ってた。けど、俺の仕事も性格も全て分かった上で付き合える奴が居たの。それってすごいと思わない?俺は縛られるのが嫌いだし、相手のことを考える時間も全て仕事に回したいタイプ。けど、篠田くんはそんな俺のままでも付き合っていけて、それでいて俺の大切な技術を高め合っていける最高の存在なの。だから、もう俺にはお前しか無理だよ」
しっかりと目を見つめてそう言うと、今まで見せたことのないようなめちゃくちゃ嬉しそうな表情をした篠田くん。必死に喜びを出さないように表情筋に力を入れていてもわかるくらいなニヤけ具合。
「……やっぱり、未南さんは格好良いです。けど一ついいですか」
「何」
「縛られるの、今は大好きになってますよ」
「今この状況で言うな。意味が違う」
「ふふ。僕はこういう雰囲気、嬉しいけど擽ったくて苦手なんです。だから、照れ隠しだと思って許してよ」
「はいはい、分かったよ」
「…昔のこと、今まで気にしたことなんてなかったけど未南さんのことは本当に好きだからちょっと気になっちゃって。深いキスしたらその人のこと思い出すんじゃないかとか」
「こういう雰囲気になって一番に思い浮かぶのは、今はあの触手だわ」
「…それもどうなんですか」
「でも篠田くんが一生懸命作った物なんだから、俺は嫌じゃないよ。けどやっぱり、それも思い出せなくなるくらいに、目の前しか見えないくらいに…今頑張ればいいんじゃね?現にさっきキスされた時も、もっとしてほしいって気持ちしかなくて昔のことなんて思い出せなかったし。俺は目の前に居るお前しか見てねーから、あんま気にすんなよ」
「……うん」
「篠田くん、好き」
「…俺も好きです」
「何も分かんなくなるくらい、して。いっぱい」
「……はい」
手が頬に添えられると、今日何度目か分からないキスが降ってきた。それが気持ち良くて、過去のことなんて何も思い出せないくらい頭の中はこいつでいっぱいだ。
頬に添えられていた手が首筋を滑っていき、クイッと首の後ろに角度がついた。少し上向きになって届きやすくなった上顎に這う大好きな人の舌。
「っん」
「──俺しか見えないくらいにしてあげるね」
「!? っんぅっ!?」
首に添えられて上顎をなぞる舌はそのままに、空いた片方の手が浴衣の中へ入ってきた。こしょこしょと脇腹を擽り出す指にゾクゾクとした感覚が襲う。
「~~っ、んん、んぅっ」
「暴れちゃだーめ」
小さく呟いた後は、暫くは深いキスが続いて俺の呻き声とベッドが軋む音しか聞こえなくなった。
脇腹を擽る指が上へ上がり、胸元をなぞるとビクンと体が跳ねたが、覆い被さった体に阻まれて動けない。
ポスポスと両手をベッドのシーツで暴れさせても、キッチリと縛られた帯紐は解けることはない。
「んんぅっっ」
深いキスを繰り返したことにより、いやらしい水音を響き出した頃、首を支えていた指も肌に添えられ、両側から脇腹を優しく擽られた。それでも口は離れないのでビクビクと跳ねることしか出来なくて。
頭が痺れるような擽ったさに苦しくなってきても、口内を掻き回す舌は出ていかない。
「鼻で息してね」
そう言われて、今まで普通に出来ていたことが出来なくなる程に余裕がなかったことに気付いた。鼻で呼吸をして少し楽になったと感じたのも束の間、脇腹を擽る指が激しくなったことにより、再び息苦しさが生まれた。
「んっ、ふふ…ぅぅう……っ、ンッ、」
脇腹から脇の下を往復する手つきに激しく反応してしまうと、指は執拗に同じ動きを繰り返した。擽ったくて気持ち良くて頭がおかしくなりそうな所に、口内を弄っていた舌が上顎から届く範囲の奥の方まで侵入してきた。
「っ、~~~………!!」
バタバタ暴れてもどの刺激も離れていかず、寧ろ敏感になってより強い快感が襲ってきた。
(やばい!やばい!やばい!)
頭の中にそんな言葉が浮かんだ後、指は胸元へやってきては人差し指でくるくると乳首をなぞり出した。
「んんんん、ッッ」
人差し指でピシピシと弾かれると股間に響く熱。指で弾いたり擽ったり、たまに爪で引っ掻いたりと直接的な快感に背中がのけ反った。
「くっ……ちぃ、はなし、」
「…だめ」
必死に逃げようとしても、口内を解放されることはなく、飲み込みきれなかったどちらのものか分からない唾液が口からこぼれ始めた。その間も指は動き続け、完全にぷっくりと主張した乳首。
人差し指だけだった刺激が変わったのはすぐ後で、きゅっと親指と人差し指で摘まれると、優しく捏ね回された。
「ふぅ…!んぅッ」
捏ね回される度に跳ねる腰。何とも言えない切なくも響くような刺激は、かなり気持ち良い。
(だめ……溶ける、やばい)
上手く呼吸が出来ず、酸素が取り込めない状況は頭がふわふわとし始める。目の前に見える篠田くんの顔は、モヤがかかったかのようになってきた。
「…可愛い」
漸く唇が離れても、乳首を捏ねる指は変わらないので口からは甘い声が出る。
「っ、ぁ……離しっ……恥ずかしい、やっ」
「今まで散々未南さんの恥ずかしい姿は見てきてるので、今更ですって」
「んんっ、……はぁ!あっ」
「こうやって触れると気持ちいですか?──下、すごく濡れてますよ」
「っ、るさい…煽んな…っ」
「敏感なくせしてそうやって強気な所も最高に可愛いです」
指で弄られ続けて完全に出来上がった乳首への次の刺激は温かい舌。唇を移動させると、舌先で転がすように舐められてゾクッと強い快感が駆け巡る。
「っ、あ、あッ」
今まで散々機械や触手で攻められてきた。そういう刺激に特化して作ってきたので、刺激には多少耐性があるはずなのに、今少し舐められただけで今までの快感を上回ってくる。
優しく甘噛みしたり吸い上げられたりすると、もう我慢なんて出来なくて。
「やっ……ばい、無理…!もう、っ、我慢出来なっ…」
「そうですね。僕ももう我慢出来ないです」
咥えたまま喋られると細かな歯の振動ですら気持ち良い。ピリピリと痺れるような快感に息を荒くしていると、指が脇に添えられた。
「っ!?」
「僕ね、未南さんの笑顔が好きです」
「お、おう…?」
あれ、この流れって普通の恋人なら……激しく肌をぶつけ合うんじゃ…?いや、でも今までの俺たちの流れならこれは──。
「ひゃっ!? ぁ、あ!ぁぁぁっ、やめ、何す──ッ」
「可愛い…未南さんの笑顔を見れたら俺はそれで満足です」
「いやはははは!!おいこらぁぁぁあっ、ちょ、あ"ははっ…!待っ、あっ、」
こちょこちょと動き出した指に対応出来ずに笑い転げると、完全に変な性癖に目覚めた篠田くんは蕩けた顔をしながら俺を見下ろした。
「ぁはははっ、やぁぁっ、擽ったいっ、くすぐったぃ…っ!!だめ、だめ!だめだめだめっっ!!」
「その割に下は大きなままですよ」
グリグリと膝で股間を刺激されると、目の前がチカっと光る。唇も乳首へ戻ってきたので、優しく愛撫されながら擽ったい刺激も送り続けられた。
「やははははは!!ちょ、…待っ、ぇへへっ、ぁはぁっ、ぁぁっ、ばかっ…」
擽ったい刺激が襲う度に、何故か高まってくる体の熱。
(嘘だ、待て。待つんだ俺の体!)
このままじゃ笑い転げながらイク未来が近い。そんなの絶対に嫌だ。せめて、せめて。
「キスしてっ…やだ、これで、イクのはっ、はずいっ、ぁはっ、はははは、キスしてお願いっっ!!」
「…はいはい、擽っただけでイッたら一生笑ってあげようと思ったけど流石に酷ですね」
「!!」
乳首から離れた唇がもう一度口へ戻ってくると、俺は堪らずに舌を入れた。
キスも、擽ったい刺激も快感も全て幸せだけど、恥ずかしながらさっきの言葉が一番胸に刺さった。
(一生、傍に居てくれるんだ)
簡単に使われる"一生"という夢物語。それでも、一時でも、一秒でも、俺と添い遂げたいと思ってくれた気持ちが嬉しくて。
「好き……っ、…ずっと、俺の隣に居ろよ、ばかっ」
「……未南さんも居てね、俺の隣に」
「うん」
そう言葉を交わした後、俺は深いキスに身を委ねた。
◇ ◆
「あーあ、あと少しで浴衣やベッドがえらいこっちゃなるところでしたね」
「……ごめん」
「まぁイク前に盛大にイクイクイクイクぅぅ!って言ってくれたので対処出来ましたけど」
「言ってねーわぼけぇぇぇ!!」
その後、相変わらずの俺達の雰囲気のままスッキリしてから月明かり輝く露天風呂に浸かった。
「それにしても、本当に夢みたいです。未南さんと一緒に暮らすことが出来て、恋人というポジションになれるなんて」
「…俺もお前とこんな関係になるとは思わなかったよ」
「あはは。本当にね。恋愛なんてどうなるか分かりませんねぇ。ラブラブで両思いのオーラ出してて漸く成就しても儚く終わってしまうこともあるでしょうし」
「俺はもう散々ド鬼畜なお前見てきたから簡単に嫌いになれそうにねーわ」
「未南さんの中で最下層から上がってきたでしょうしねぇ。僕も簡単に未南さんの事、嫌いになんかなりませんよ。入社した時からずっとずっと尊敬してましたから。好きで居続けるのって絶対「尊敬する部分」も必要だと思うんですよ。けどそれだけだとその部分が薄まると恋も冷めちゃう可能性はありますが、人間性的にはバカでお間抜けなので、それすらも愛しく思うから、僕はずっと好きですよ!特に篠田泣かすは最高でした。挙句目隠しされてめちゃくちゃビビって漏らしてる姿も間抜けでしたし」
「思いっきりディスってんじゃねーよ。つーか記憶改竄すんな」
「ふふ。…俺は、未南さんの全部が好き」
「…ん、俺も好き」
「またキスしていいですか」
「…お前だけは聞かなくもしていい存在なんだから勝手にしろよ」
そう伝えると、篠田くんは嬉しそうに目を細めながら深いキスをしてくれた。
──のだが。
「んぅぅ!!お前っ、長すぎるんだよばかぁぁ!」
end.
桃瀬編 おまけ(栗原視点)
「へぇ、お前と二人で旅行はどうかと思うが、温泉好きだし、たまにはゆっくりするか」
Irisのトップ、花宮さんからもらったペアチケットについて桃瀬に話しかけると、「は?」と素の声が返ってきた。
「俺と栗原さんが二人で旅行して誰得なんですか?もう千隼くん誘って日程決めたんで。未成年の泊まりになるんで同意書にサインだけお願いします」
「は!?誰得とか関係ねぇだろ!俺とお前にってもらったんだぞ!?」
「あのスノードーム作ったのは俺ですよ?」
「俺のアドバイスもあっただろうが!」
「いや、正直栗原さんはただそこに居ただけで何の影響も受けてません。ってことで、千隼くんも楽しみにしてるんで俺は千隼くんと楽しんできます。栗原さんも行きたかったらご自由にどうぞ。あ、俺はこの日に行くんで、行くんならその日以外でお願いしますね。プライベートでまで会うの面倒なので」
こいつ、いつか絶対に泣かせてやるからなと思いながらも、同意書にサインをした。
end.
いつか桃瀬と千隼ver.も書く予定ですが、いつになるか分からないのでとりあえず。
拘束/擽り/愛撫/キス/甘々/本番無/微裏
攻→篠田
受→未南/視点
◇ ◆
中々お目にかかることが出来ないIrisのリーダーから呼び出されたのは、コンペを終えてから少し期間が経った頃だった。
「遅くなってしまい申し訳ありません。この度はIrisに加入してくれた事、そして素晴らしい物を色々と開発して頂き感謝します」
トップとは思えない丁寧な言葉遣いと態度。加入して初めてその姿を目にした俺達は、ペコリと頭を下げてくれた目の前のお方に対して、篠田くんと共に深々と頭を下げた。
「加入して今まできちんとした休みも取れていないでしょうし、良かったらゆっくりしてきて下さい。Daisyの栗原くんにも同じ物を渡しています」
頭を上げた後に手渡されたのは、塞原生誕祭の時に用意されていた旅行のペアチケット。結局あの人は一人で行ったみたいだが。
それを受け取ったのは俺で、目の前に居る神々しいオーラを纏うトップに礼を伝えた。
「ありがとうございます。私達もIrisに入れた事を光栄に思っています。良くして頂いた代わりに、今後も様々な物を開発が出来るよう尽力致します」
「ありがとうございます。未南さん。今後も期待しています」
柔らかく微笑む顔はとても可愛らしい雰囲気で、相変わらずここの組織は顔面偏差値が高いと感じる。隣で同じように感謝の気持ちを伝えた篠田くんと、最後にもう一度深々と頭を下げて部屋を後にした。
廊下を進み、当たり前のように到着したのは俺の自室。
「本当、当たり前のように来るよな」
「だってもうお付き合いしてるわけですし、未南さんの部屋も僕の部屋なので」
「とんだジャイ◯ニズムだな」
「僕、花宮リーダーのこと初めて見ましたが、めちゃくちゃお綺麗な方ですね!桜花さんに似た感じというか!ここ顔面偏差値高すぎません?みんな中性的ですよね。風見さんと塞原さん以外!」
「まぁ、あの二人は男らしくて格好良いもんな。んで、このチケットだけど、どうする?」
「もちろん行きますよ!すっごく楽しみ!早速行きましょう!!」
手元のチケットを見た篠田くんは、目的地を見て嬉しそうにしながら俺にくっついてきた。付き合ってから正式に二人で何処かへ行く事は初めてで、内心俺も嬉しくて仕方ない。くっついてきた篠田くんに体を預けると、ぎゅっと抱き締められた。
「素直に甘えてくれる未南さんも最高ですね。旅行、楽しみです」
「…ん」
俺も篠田くんの背中に手を回して小さく頷くと、優しく唇が触れた。柔らかくて気持ち良い感覚に目を閉じると、何度か角度を変えて触れるだけのキスが贈られた。
◇ ◆
早速休みを貰った俺達がやってきたのは、人気観光地でもある場所。偶然にも今回泊まる場所は、オーシャンビューが堪能出来る。
「未南さんと恋人になって初めて泊まる場所から海が見えるなんて、何だか嬉しいです。益々僕達にとって海は大切な思い出の場所になりますね」
チェックインした後に身軽にやってき海の近くの公園で、篠田くんは笑顔でそう言ってくれた。綺麗で耳に心地良い波の音を聞きながら、公園にあるベンチに腰掛けると、篠田くんは子供のようにはしゃぎながら、公園に設置されたブランコに揺られていた。
その姿がとても可愛らしかったのでこっそりと海を背景に写真を撮ると、めちゃくちゃ映えそうな写真が撮れた。
(綺麗だな。待ち受けにしようかな)
画面に納まる篠田くんを見ながら、つい口元が緩んでしまう。それに気付いたのか、篠田くんはブランコを降りてむすっとしながらこちらへやってきた。
「僕と居るのに誰かと連絡取ってるんですか?」
スマホを見てニヤけていたことに怒ったのか、小走りしながらこちらへやってくる姿も可愛い。付き合って知ったのは、意外とヤキモチ妬きだということ。
今までは年下なのにしっかりと仕事もこなし、将来設計も考えるしっかりした部分を多く見てきたから、そんな姿が少し新鮮だった。
「見て。綺麗だから撮った。篠田くん可愛い」
「…勝手に撮らないで下さいよ。恥ずかしいです」
「篠田くん、一緒に海を背景に写真撮ろ。あの人に──」
『撮ってもらおう』と言おうとしてハッとした。公園近くを歩く人に見覚えがあり、俺が驚いた表情を見せると、篠田くんも俺の視線の先を見て同じような表情を浮かべた。
「あれ!桃瀬さんじゃないですか!」
「あれ、未南さんと篠田さん。コンペ振りですね」
私服を着た桃瀬と、その隣に居るのは、何故か千隼くんだった。恥ずかしそうに桃瀬の後ろに隠れたがバレバレだ。
「花宮さんから素敵なプレゼントを頂いたので、早速旅行に来たんです。あはは、まさか日にちが被るとは」
確かに栗原にも同じチケットを渡したと言っていたな。
「…栗原さんは?」
「さぁ。仕事じゃないですか?栗原さん、旅行にはあんまり興味ないみたいで。なので俺が貰いました」
桃瀬の性格上、本当にそうなのかは不明だ。まぁ桃瀬と栗原が二人で旅行に来るというのも似合わない気がするが。
「へぇ。それで千隼くんと来たんですね」
「はい。それよりさっき写真撮ろうとしてましたよね。二人並んで下さい」
「あ、じゃあお願いします」
自分のスマホを渡すと、桃瀬は海を背景に写真を撮ってくれた。見知った人に撮ってもらうのは少し恥ずかしいが、隠す気もない篠田くんは俺の手を握りながら笑顔でピースサインを出した。
「ん。どうですか?綺麗に撮れましたよ」
「わぁぁ!未南さん可愛いぃぃ!ありがとうございます!桃瀬さん。僕も撮りましょうか?」
「千隼くん、写真撮る?」
「…撮りたい」
「んじゃお願いします」
未だ恥ずかしそうにする千隼くんだが、写真は撮りたいらしく、さっきまで篠田くんが乗っていたブランコの方に走って行った。
「俺ブランコ乗りながら撮りたい。桃ちゃんこっち来て」
「うん」
撮りたい構図があった千隼くんは嬉しそうにしながらもこうしたいああしたいと二人に伝えていて、篠田くんは何十枚も写真を撮らされていた。
「あはは。千隼くん可愛く撮れたよ~」
「篠田さん、ありがとうございます。何枚もごめんなさい…」
「全然いいよ~そんな千隼くんが見れて僕も嬉しいよ。桃瀬さんと楽しんでね」
「ん、篠田さんも楽しんでね。………だよ」
俺には聞こえないようにぽそっと何か言った千隼くんは、俺の方を見て「折角の二人の時間邪魔してごめんなさい、未南さん。また帰ったら宜しくお願いします」と丁寧に頭を下げて桃瀬と手を繋いで何処かへ行った。
「千隼くん、何て?」
「未南さんのこと襲っちゃだめだよって言われました」
「……襲うなよ」
「さぁ、どうでしょう」
「それにしても千隼くんって案外年相応な所あるんだな」
「ですね。めちゃくちゃ嬉しそうにしてて僕も本当に嬉しくなっちゃいました」
「俺も。相手が桃瀬なのが心配だけど」
「桃瀬さんはきっと好きな人は大切にするタイプでしょうから大丈夫ですよ。そろそろホテルに戻りましょうか」
外なのに躊躇いなく繋がれた手。恥ずかしいけどそれを握り返した俺は、ホテルへ続け道を色んな話をしながらゆっくりと歩幅を合わせて歩いた。
「未南さん。大浴場は後にして、先に部屋にある露天風呂に入りませんか?」
ホテルへ到着するなり、入浴の準備をする篠田くん。部屋にある露天風呂からは海が堪能出来、かなり豪華だ。
「うん」
夕食の時間も考え、素早く服を脱いで風呂場へ向かった。先程までは綺麗なエメラルドに輝いていた海が、すっかりとオレンジ色に染まっている。
お風呂に映った海も、目の前に見える本物の海も、どちらもとても綺麗だった。
「未南さん、体洗いますよ」
「変なことすんなよ」
「変なことするのは夜だけなので安心して下さい」
「出来ねーよ」
「予告してるだけ紳士でしょ?」
そう言いながらも、丁寧に体を洗ってくれる篠田くん。泡立たせたタオルからはボディソープの良い香りがして、とても心地良い。
「ん……」
腕や背中、脇腹まで優しくタオルが肌を撫でる。くすぐったいような気持ち良いような。篠田くんから与えられるというだけで体は素直に反応してしまう。
「未南さん、もう少しで夕食バイキングなのであんまり変な気持ちになっちゃだめですよ?」
後ろからぎゅっと抱き締める形をとると、クスクス笑いながら耳元でそう囁いた。
「…じゃあ変なことすんな」
「してませんよ」
「…お、お前に触られると感じちゃうんだよ!自分で洗う!」
「あはは。可愛い~」
タオルを奪い取って自分で体を洗うと、篠田くんも新しいタオルでボディソープを泡立たせた。体全体が綺麗になった所で、夕焼けの色が反射してオレンジ色に染まる湯船に足を入れた。
「あぁ…気持ち良い……」
ゆっくりと風呂へ浸かると、体全体が心地良い温もりに包まれた。
「夕焼けの海を堪能出来るなんて最高ですね」
「うん」
隣に座る篠田くんの肩に頭を乗せると、ふふっと笑いながら手が腰に回された。
「…幸せ。気持ち良い」
「そうですね。Irisには感謝しなきゃなぁ。きっとここに来てなかったらまだ僕達お付き合い出来てなかったでしょうし。あの時加入する決断して良かったです」
「俺も」
ただ体を密着させながら景色を眺めているだけで気持ち良い。甘えるように擦り寄ると、嬉しそうに抱き締めてくれた。
(気持ち良い……)
もうずっとここに居たいくらいの心地良さだ。それでもたまに顔も見たくなるので体を離して見つめると、そういうムードになっていく。
近付いてくる顔が見えて目を閉じると、少しの水音が響いた後に唇に柔らかいものが触れた。前にいじめられた時とは違う、触れるだけのキス。舌を入れようにも開けてくれないので、いつも可愛らしいキスだけを繰り返す。
(夜だったら、してくれんのかな)
そう思いながら、何度も繰り返した。
◇ ◆
「いっただきまーーす!乾杯!」
風呂から上がり、浴衣姿に着替えてから向かったのはバイキング会場。アルコールも全て飲み放題という神みたいな夕食に、俺達のテンションは最上級だった。
色とりどりの食事を揃えた所で、最初に口にしたのはキンッキンに冷えたビール。コツンとコップ同士をくっつけた後に勢いよく喉を通るシュワッとした感覚は今までにない程に気持ち良い。
「美味しいぃぃ」
「美味しいですけど、あんまり飲みすぎないで下さいね。この後楽しい楽しい夜の時間があるので」
「はいはい」
ビールの次に箸を伸ばしたのは、俺の大好きなお寿司。一つ一つ握ってくれるので、とても新鮮で綺麗。
「未南さんお寿司好きなんですか」
「うん。一番好き。美味しい」
定番の鮪やサーモンから、あるもの全て握ってもらった俺はパクパクと食べ進めていく。
「ビールとお寿司って合います?」
「寿司があれば飲み物は何でもいい」
「…そうですか」
と言いつつ、ちゃっかりと寿司に合うビールを選んでいるのは内緒だ。ビールにも色んな種類があり、大好きなお寿司に合う飲み物は昔からリサーチ済。
篠田くんは無言で食べ進める俺を肴にするかのようにビールを口にしている。
「美味しそうに食べる未南さんを見てるとお酒が進みますね」
「…篠田くんもちゃんと食べろよ。お前は何が好きなの?」
「未南さんですね」
「……」
その後も俺は海鮮系をメインにたくさんのものを食べた。ライブキッチンが豊富で、普段食べないような物まで手に取ってしまうのが怖い。
焼きたてのお肉から、揚げたての天ぷら。そして美味しいアルコールがあれば箸は止まらない。何度も往復する俺とは違い、篠田くんはチビチビとお酒を飲みながらおつまみ程度に箸を動かしていた。
「少食だな」
「いや、あなたが食べすぎなんですよ。僕も結構食べてますよ。小さな体でよくそんなに入りますね」
「最後はデザート取りに行くけど、篠田くん甘いのいけるっけ?」
「甘いものはめちゃくちゃいけますよ」
「…んじゃ、行こう」
「はい」
さっきまではほとんど一人で回っていたが、最後のデザートコーナーは一緒に来てくれた。小さめのお皿を取った俺とは反対に、篠田くんは一番大きな皿をチョイスした。
「そんな取る気?」
「…別にいいでしょ。甘い物は別腹なんです」
そうやって話していると、前には同じように大きな皿を持った見知った姿があった。
「あ、千隼くん」
「あ、未南さん。篠田さん」
彼のお皿は既にカラフルなデザートで彩られていた。綺麗に映えるように置かれており、今までの自分の皿を思い返すと恥ずかしくなるほどに丁寧だった。
「そんなに食べれるの?」
「桃ちゃ……じゃなくて、桃瀬と一緒に食べるので」
さっき普通にちゃん付けしてたの聞いてたけどな。
「桃瀬は何食べてんの?」
「色々食べてましたよ。嬉しそうに食べてて可愛かった……」
うわぁ、お熱い。
「じ、じゃあ俺はこれで…っ」
俺達がニヤニヤしていたのに気付いたのか、千隼くんはその後にいくつかケーキやプリンをのせて去って行った。
「千隼くんってしっかりしてるイメージでしたが、あんな一面あるんですねぇ」
だらしない表情をしながら呟く篠田くんの更には既にケーキがたくさん置かれていた。しかし残念なことに千隼くんとは違い、正直かなり色味は適当だった。
「篠田くん乗せるの下手」
「千隼くんの見た後に見ればそりゃね。ていうか未南さんもめちゃくちゃ偏ってたくせに」
最後のお供に選んだワインを持って席に戻り、俺達はデザートを楽しんだ。
◇ ◆
「バイキング最高でしたぁ」
「旅行とかあんま行かないけど良かったな」
「部屋で食べる夕食もいいですけど、好きな物を好きなだけ食べまくる未南さん見てるのが一番楽しかったです」
「…恥ずかしいから忘れて」
「けど約束通りお酒控えてくれて嬉しいです。…夜はいっぱい愛してあげたかったので」
「お前恥ずかしいセリフ言うよな」
「…恥ずかしいから忘れて下さい」
「ふっ…おんなじこと言うなよ」
歯磨きを終わらせ、お腹が落ち着くまでは窓際に置かれたソファでまったりすることにした俺達は、夜の海を眺めていた。
大きな窓に映る月明かりが輝く夜の海。吸い込まれそうな程に深く見えるが、とても綺麗。
「未南さん」
「ん?」
「そろそろお腹、落ち着きました?」
「……ん」
「じゃあベッド行きませんか」
真面目なモードの、いい雰囲気のお誘いに小さく頷くと、手を握られてベッドへ連れて行かれた。散々痴態は見せてきたが、こういうムードはかなり緊張する。
ドキドキと激しく胸が高鳴りながら、ぽすんとベッドに寝かされると、その上に乗っかる篠田くん。しゅるりと腰に巻いた帯紐が解かれると、更に胸が煩く響く。
「…未南さん、好きです」
「…俺も好きだよ」
はだけた浴衣の中に差し込まれる手は、俺の弱い箇所を撫で回す。その手のひらが擽ったくて体を捩らせると、ぐいっと腕を頭上へ持って行かれて押さえつけられた。
「…っ」
その行為に無性に体が熱を帯びた。今までは機械や謎の触手で拘束されることが多かったので、篠田くんの手で押さえられるのがやけに──興奮した。
「……何か凄く反応したみたいですけどどうしました?」
「…煩い」
「っ、い"!?──~~っっ」
足を振り上げると、思いっきり篠田くんの篠田くんに当たってしまい、今まで見たことない程に悶絶した顔。
「ぶっ……ごめんごめん!そこ蹴る気はなくて!」
「謝るなら…その前に吹き出すのやめてくれません?」
「悪い悪い。…今まで、機械とか…そういうので縛られるの多かったから、篠田くんの手で押さえられると何か恥ずかしくて……照れ隠しに蹴っちゃった」
「へぇ。この帯で拘束プレイしようと思ったけど僕の手で押さえてた方が興奮します?」
「……それは、何かエロいから…別に、いい」
「…じゃあいっぱい可愛がってあげたいので、少しだけ縛りますね。万歳しててね」
先程まで巻いていた帯紐が手首にしゅるりと固定していく。最後にリボン結びで縛られた帯紐は、可愛らしい見た目ながらにちゃんと動きを制限した。
ギシッとベッドが軋む音と共に、篠田くんの体は密着するように俺の体に覆い被さった。そして顔が近付いてきたので目を閉じると、また触れるだけのキスが贈られた。
口を開けてみても相変わらず深いキスにはならないことが少しだけ淋しい。
「……篠田くん、ちょーだい」
「ん?」
「…舌、出せ」
「深いのがいいの?」
「…うん」
見つめながらそうおねだりすると、少しだけS気を含ませた表情を見せながらも要望通り深いキスをくれた。舌が絡まり合う感覚は何処か懐かしい。
「──未南さん。ずっと気になってたことがあったんですけど」
ある程度深いキスを交わした後、真剣な声で彼は質問を続けた。
「最初に苦手な場所聞いた時、言いましたよね。上顎とか擽ったいからキスは苦手だって。そんな深いキス、誰としたの」
「え?」
「……未南さんがするなら分かりますけど、そんなテクニックあるキスを"される"ってことは、やっぱり自称Sなあなたが受けに回ってたってことですよね」
子供みたいに不貞腐れた顔をしているのを見て、つい笑いが溢れそうになった。
(もしかしてずっと気にしてたの?)
俺はあまり過去には拘りがないのでそういう感覚が分からないが、目の前にいる篠田くんは明らかに過去の俺の相手に嫉妬している。
アルコールも入っているからか、むすっとした表情も隠さない彼は、じっと俺を見つめて返事を待っている。
とはいえ、俺も成人した男だしある程度経験はしてきた。過去に深いキスをしたのも事実。隠してもきっと嫌だろうし、包み隠さず話すときっとそれも嫌だろう。
「そんな明らかに嫌な思いさせちゃうって分かってて言いたくないんだけど。過去は過去、今は今」
「…その人とは、もう接点はないんですか」
「うん。今の仕事を始めてすぐに振られたよ。というより、俺が何かを作ることに夢中になって、特定の人が欲しいと思えなくなったから。──今も変わらず何かを作ることは好きで堪らない。俺は両立なんて出来ねーから、もう二度と誰かとこういう関係になることはないって思ってた。けど、俺の仕事も性格も全て分かった上で付き合える奴が居たの。それってすごいと思わない?俺は縛られるのが嫌いだし、相手のことを考える時間も全て仕事に回したいタイプ。けど、篠田くんはそんな俺のままでも付き合っていけて、それでいて俺の大切な技術を高め合っていける最高の存在なの。だから、もう俺にはお前しか無理だよ」
しっかりと目を見つめてそう言うと、今まで見せたことのないようなめちゃくちゃ嬉しそうな表情をした篠田くん。必死に喜びを出さないように表情筋に力を入れていてもわかるくらいなニヤけ具合。
「……やっぱり、未南さんは格好良いです。けど一ついいですか」
「何」
「縛られるの、今は大好きになってますよ」
「今この状況で言うな。意味が違う」
「ふふ。僕はこういう雰囲気、嬉しいけど擽ったくて苦手なんです。だから、照れ隠しだと思って許してよ」
「はいはい、分かったよ」
「…昔のこと、今まで気にしたことなんてなかったけど未南さんのことは本当に好きだからちょっと気になっちゃって。深いキスしたらその人のこと思い出すんじゃないかとか」
「こういう雰囲気になって一番に思い浮かぶのは、今はあの触手だわ」
「…それもどうなんですか」
「でも篠田くんが一生懸命作った物なんだから、俺は嫌じゃないよ。けどやっぱり、それも思い出せなくなるくらいに、目の前しか見えないくらいに…今頑張ればいいんじゃね?現にさっきキスされた時も、もっとしてほしいって気持ちしかなくて昔のことなんて思い出せなかったし。俺は目の前に居るお前しか見てねーから、あんま気にすんなよ」
「……うん」
「篠田くん、好き」
「…俺も好きです」
「何も分かんなくなるくらい、して。いっぱい」
「……はい」
手が頬に添えられると、今日何度目か分からないキスが降ってきた。それが気持ち良くて、過去のことなんて何も思い出せないくらい頭の中はこいつでいっぱいだ。
頬に添えられていた手が首筋を滑っていき、クイッと首の後ろに角度がついた。少し上向きになって届きやすくなった上顎に這う大好きな人の舌。
「っん」
「──俺しか見えないくらいにしてあげるね」
「!? っんぅっ!?」
首に添えられて上顎をなぞる舌はそのままに、空いた片方の手が浴衣の中へ入ってきた。こしょこしょと脇腹を擽り出す指にゾクゾクとした感覚が襲う。
「~~っ、んん、んぅっ」
「暴れちゃだーめ」
小さく呟いた後は、暫くは深いキスが続いて俺の呻き声とベッドが軋む音しか聞こえなくなった。
脇腹を擽る指が上へ上がり、胸元をなぞるとビクンと体が跳ねたが、覆い被さった体に阻まれて動けない。
ポスポスと両手をベッドのシーツで暴れさせても、キッチリと縛られた帯紐は解けることはない。
「んんぅっっ」
深いキスを繰り返したことにより、いやらしい水音を響き出した頃、首を支えていた指も肌に添えられ、両側から脇腹を優しく擽られた。それでも口は離れないのでビクビクと跳ねることしか出来なくて。
頭が痺れるような擽ったさに苦しくなってきても、口内を掻き回す舌は出ていかない。
「鼻で息してね」
そう言われて、今まで普通に出来ていたことが出来なくなる程に余裕がなかったことに気付いた。鼻で呼吸をして少し楽になったと感じたのも束の間、脇腹を擽る指が激しくなったことにより、再び息苦しさが生まれた。
「んっ、ふふ…ぅぅう……っ、ンッ、」
脇腹から脇の下を往復する手つきに激しく反応してしまうと、指は執拗に同じ動きを繰り返した。擽ったくて気持ち良くて頭がおかしくなりそうな所に、口内を弄っていた舌が上顎から届く範囲の奥の方まで侵入してきた。
「っ、~~~………!!」
バタバタ暴れてもどの刺激も離れていかず、寧ろ敏感になってより強い快感が襲ってきた。
(やばい!やばい!やばい!)
頭の中にそんな言葉が浮かんだ後、指は胸元へやってきては人差し指でくるくると乳首をなぞり出した。
「んんんん、ッッ」
人差し指でピシピシと弾かれると股間に響く熱。指で弾いたり擽ったり、たまに爪で引っ掻いたりと直接的な快感に背中がのけ反った。
「くっ……ちぃ、はなし、」
「…だめ」
必死に逃げようとしても、口内を解放されることはなく、飲み込みきれなかったどちらのものか分からない唾液が口からこぼれ始めた。その間も指は動き続け、完全にぷっくりと主張した乳首。
人差し指だけだった刺激が変わったのはすぐ後で、きゅっと親指と人差し指で摘まれると、優しく捏ね回された。
「ふぅ…!んぅッ」
捏ね回される度に跳ねる腰。何とも言えない切なくも響くような刺激は、かなり気持ち良い。
(だめ……溶ける、やばい)
上手く呼吸が出来ず、酸素が取り込めない状況は頭がふわふわとし始める。目の前に見える篠田くんの顔は、モヤがかかったかのようになってきた。
「…可愛い」
漸く唇が離れても、乳首を捏ねる指は変わらないので口からは甘い声が出る。
「っ、ぁ……離しっ……恥ずかしい、やっ」
「今まで散々未南さんの恥ずかしい姿は見てきてるので、今更ですって」
「んんっ、……はぁ!あっ」
「こうやって触れると気持ちいですか?──下、すごく濡れてますよ」
「っ、るさい…煽んな…っ」
「敏感なくせしてそうやって強気な所も最高に可愛いです」
指で弄られ続けて完全に出来上がった乳首への次の刺激は温かい舌。唇を移動させると、舌先で転がすように舐められてゾクッと強い快感が駆け巡る。
「っ、あ、あッ」
今まで散々機械や触手で攻められてきた。そういう刺激に特化して作ってきたので、刺激には多少耐性があるはずなのに、今少し舐められただけで今までの快感を上回ってくる。
優しく甘噛みしたり吸い上げられたりすると、もう我慢なんて出来なくて。
「やっ……ばい、無理…!もう、っ、我慢出来なっ…」
「そうですね。僕ももう我慢出来ないです」
咥えたまま喋られると細かな歯の振動ですら気持ち良い。ピリピリと痺れるような快感に息を荒くしていると、指が脇に添えられた。
「っ!?」
「僕ね、未南さんの笑顔が好きです」
「お、おう…?」
あれ、この流れって普通の恋人なら……激しく肌をぶつけ合うんじゃ…?いや、でも今までの俺たちの流れならこれは──。
「ひゃっ!? ぁ、あ!ぁぁぁっ、やめ、何す──ッ」
「可愛い…未南さんの笑顔を見れたら俺はそれで満足です」
「いやはははは!!おいこらぁぁぁあっ、ちょ、あ"ははっ…!待っ、あっ、」
こちょこちょと動き出した指に対応出来ずに笑い転げると、完全に変な性癖に目覚めた篠田くんは蕩けた顔をしながら俺を見下ろした。
「ぁはははっ、やぁぁっ、擽ったいっ、くすぐったぃ…っ!!だめ、だめ!だめだめだめっっ!!」
「その割に下は大きなままですよ」
グリグリと膝で股間を刺激されると、目の前がチカっと光る。唇も乳首へ戻ってきたので、優しく愛撫されながら擽ったい刺激も送り続けられた。
「やははははは!!ちょ、…待っ、ぇへへっ、ぁはぁっ、ぁぁっ、ばかっ…」
擽ったい刺激が襲う度に、何故か高まってくる体の熱。
(嘘だ、待て。待つんだ俺の体!)
このままじゃ笑い転げながらイク未来が近い。そんなの絶対に嫌だ。せめて、せめて。
「キスしてっ…やだ、これで、イクのはっ、はずいっ、ぁはっ、はははは、キスしてお願いっっ!!」
「…はいはい、擽っただけでイッたら一生笑ってあげようと思ったけど流石に酷ですね」
「!!」
乳首から離れた唇がもう一度口へ戻ってくると、俺は堪らずに舌を入れた。
キスも、擽ったい刺激も快感も全て幸せだけど、恥ずかしながらさっきの言葉が一番胸に刺さった。
(一生、傍に居てくれるんだ)
簡単に使われる"一生"という夢物語。それでも、一時でも、一秒でも、俺と添い遂げたいと思ってくれた気持ちが嬉しくて。
「好き……っ、…ずっと、俺の隣に居ろよ、ばかっ」
「……未南さんも居てね、俺の隣に」
「うん」
そう言葉を交わした後、俺は深いキスに身を委ねた。
◇ ◆
「あーあ、あと少しで浴衣やベッドがえらいこっちゃなるところでしたね」
「……ごめん」
「まぁイク前に盛大にイクイクイクイクぅぅ!って言ってくれたので対処出来ましたけど」
「言ってねーわぼけぇぇぇ!!」
その後、相変わらずの俺達の雰囲気のままスッキリしてから月明かり輝く露天風呂に浸かった。
「それにしても、本当に夢みたいです。未南さんと一緒に暮らすことが出来て、恋人というポジションになれるなんて」
「…俺もお前とこんな関係になるとは思わなかったよ」
「あはは。本当にね。恋愛なんてどうなるか分かりませんねぇ。ラブラブで両思いのオーラ出してて漸く成就しても儚く終わってしまうこともあるでしょうし」
「俺はもう散々ド鬼畜なお前見てきたから簡単に嫌いになれそうにねーわ」
「未南さんの中で最下層から上がってきたでしょうしねぇ。僕も簡単に未南さんの事、嫌いになんかなりませんよ。入社した時からずっとずっと尊敬してましたから。好きで居続けるのって絶対「尊敬する部分」も必要だと思うんですよ。けどそれだけだとその部分が薄まると恋も冷めちゃう可能性はありますが、人間性的にはバカでお間抜けなので、それすらも愛しく思うから、僕はずっと好きですよ!特に篠田泣かすは最高でした。挙句目隠しされてめちゃくちゃビビって漏らしてる姿も間抜けでしたし」
「思いっきりディスってんじゃねーよ。つーか記憶改竄すんな」
「ふふ。…俺は、未南さんの全部が好き」
「…ん、俺も好き」
「またキスしていいですか」
「…お前だけは聞かなくもしていい存在なんだから勝手にしろよ」
そう伝えると、篠田くんは嬉しそうに目を細めながら深いキスをしてくれた。
──のだが。
「んぅぅ!!お前っ、長すぎるんだよばかぁぁ!」
end.
桃瀬編 おまけ(栗原視点)
「へぇ、お前と二人で旅行はどうかと思うが、温泉好きだし、たまにはゆっくりするか」
Irisのトップ、花宮さんからもらったペアチケットについて桃瀬に話しかけると、「は?」と素の声が返ってきた。
「俺と栗原さんが二人で旅行して誰得なんですか?もう千隼くん誘って日程決めたんで。未成年の泊まりになるんで同意書にサインだけお願いします」
「は!?誰得とか関係ねぇだろ!俺とお前にってもらったんだぞ!?」
「あのスノードーム作ったのは俺ですよ?」
「俺のアドバイスもあっただろうが!」
「いや、正直栗原さんはただそこに居ただけで何の影響も受けてません。ってことで、千隼くんも楽しみにしてるんで俺は千隼くんと楽しんできます。栗原さんも行きたかったらご自由にどうぞ。あ、俺はこの日に行くんで、行くんならその日以外でお願いしますね。プライベートでまで会うの面倒なので」
こいつ、いつか絶対に泣かせてやるからなと思いながらも、同意書にサインをした。
end.
いつか桃瀬と千隼ver.も書く予定ですが、いつになるか分からないのでとりあえず。
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