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最強剣士

入学試験

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 三年が経ち、アルはとうとう魔法学園へ入学する年になった。
 キリアンやガルボのようにレベル3以上の属性を持っているわけではないアルは他の人と同じように入学試験が待っている。
 エミリアからは合格に太鼓判を押されているものの、何が起こるかは分からないと考えているアルとしてはしっかりと結果が出るまでは安心できないでいた。

「──ノワール家の三男の方ですか?」

 試験会場で壁にもたれたまま時間を潰していたアルだったが、そこに声を掛けてきた人物がいた。

「そうですが……すみません、お会いしたことがありましたか?」

 声の主を見たアルだったが、その顔に見覚えがなかったため申し訳なさそうに質問を口にする。

「あっ! ご、ごめんなさい! 直接顔を合わせたことはございません。私はエルドア家の二女でリリーナ・エルドアと申します」
「そうでしたか。私はノワール家の三男でアル・ノワールと申します」

 お互いに自己紹介を終えると、リリーナはアルと同じように壁にもたれて会場を見渡す。

「以前にエルドア家に来てくれましたよね?」
「だいぶ前ではなかったですか? 確か……二年前くらいでしょうか」
「そうです! 私、同年代の知り合いがいなくて、その時にアル様をお見受けしたのです。それで、もし魔法学園へ入学することになればお声掛けしたいと思っていたものですから」
「そうだったんですね、気づかずにすみませんでした。私も知り合いは少ない方でして、今もこうしてボーっと会場を眺めていたんですよ」

 アルの言う通り、社交の場にもほとんど顔を出していなかったアルは庶民はもちろんだが貴族の知り合いも少なかった。
 他の人たちは顔見知りと一緒にまとまり話をしているのだが、リリーナが来るまでは完全に壁と同化するのではないかというくらいに身動き一つせず会場を眺めていた。

「リリーナ様、もしよろしければ学園生活では友人として仲良くしてください」
「も、もちろんです! よろしくお願いします!」

 お互いに笑みを浮かべたタイミングで集合の声が掛かり、後でまた会おうと約束を交わすとそれぞれの場所へと移動していった。

 試験を受ける人数は三二名。
 四列になって並んでいる中でアルは二列目の一番後ろにいる。
 列の前には教師が四人並んでおり、その中の一人が前に進み出て声を張り上げた。

「これから入学試験を開始する! 私は試験官の一人であるアミルダ・ヴォレストである! 列の先頭から一人ずつ前に進み出て指定の魔法を発動するように! 合否は全員の試験が終わってからこの場で行うので、試験が終わった者も残っておくように!」

 その後には残る三人の試験官も名乗りを上げてから試験は開始された。
 全員が同じ魔法を使うわけではなく、試験官が相手に合わせて魔法を指定していく。
 というのも、試験方法は心の属性をどれだけ使いこなせるかに掛かっている。
 基本的には心の属性は他の属性に比べて扱いやすいのでここで落ちるという人はほとんどいない。
 稀に勉強を怠り心の属性すらもまともに扱えない人がいることもあるので、確認のための入学試験になることが多い。
 そのはずなのだが──

「あ、あれ?」
「こんなはずじゃあ!」
「どうして上手くできないのよ!」
「くそっ! 何がどうなってるんだ!」

 最初の人から失敗の嵐になってしまった。
 誰もが困惑顔を浮かべているのだが、それは試験官も同じだった。
 心の属性が問題なく使えれば入学なので毎年のように確認だけをして終わりだと思っていたのだが、その予定が完全に崩れてしまったのだ。

「……こ、これは、どういうことでしょうか」

 いつの間にか隣に移動していたリリーナから声を掛けられたアル。
 周囲に視線を向けたアルは誰も気づいていないのかと頭を掻いてしまう。

「……なあ、リリーナ様。この状況を改善できるとしたら、試験官に話し掛けても問題はないのかな?」
「な、何かあるのですか? 問題はないと思いますけど……」
「そうか……うん、分かった」
「えっと、あの、アル様?」

 そう口にしたアルはおもむろに歩き出す。
 周囲は前で試験のために魔法を使っている人に目が集まっているので誰もアルの行動に気づいていない──いや、一人だけ近づいてきているアルに気がついていた。

「──ヴォレスト先生」
「……お前は確か、アル・ノワールだったな。どうしたんだ?」

 アルが声を掛けた相手はまさに試験官として魔法の確認を行っていたアミルダ。
 他の試験官は何事だと顔を見合わせているのだが、アルは気にすることなく言葉を続けていく。

「この状況、ヴォレスト先生の仕業ですよね?」
「……何を根拠にそのようなことを言っているんだ? ノワール家の人間だとしても、事と場合によっては不敬罪にあたるのだが?」
「周囲を満たしている魔力に乱れが感じられます。おそらく、そのせいでみんなが魔法を上手く使えていないのだと」
「それがどうして私の仕業だと?」
「魔力の乱れですが、明らかにヴォレスト先生の魔力に反応しているからです。魔法、使ってますよね?」

 睨み合うアルとアミルダ。
 周囲では試験官も含めて二人のやり取りに視線が集まっている。
 しばらく静寂が続いたのだが──

「……くくく。全く、ノワール家は優秀な魔法師が多いなあ!」
「……ということは、やっぱりそうでしたか?」
「誰にも気づかせないつもりだったが、まさか気づかれるとはな! 後の試験は任せたぞ、お前たち! それとさっきは魔法が上手く使えなかった者はもう一度試験を受けることを許可するぞ、今なら問題なくできるはずだからな!」

 笑いながらそう言ったアミルダはアルの肩を一度叩くとそのまま試験会場を後にしてしまった。

「……いったいなんだったんだ?」

 首を傾げながら元の場所に戻って行ったアル。
 アミルダがいなくなった分、全員の視線がアルだけに集まっていたのだが試験官の一人が再試験を行うと声をあげると視線は前の方に向いた。
 ただ、リリーナだけは頬を朱に染めてアルをしばらく見つめていたのだった。
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