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最強剣士

ダンジョン・七階層

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 六階層は森のダンジョンということと、カンフーモンキーの数以外では特に目新しい魔獣は存在せず、一度対処法を理解してしまうと足を止めることなく攻略を進めていき、気づけば七階層への階段を見つけてしまっていた。

「七階層はどんなダンジョンになるだろうな」
「同じ森のダンジョンなら少しはやりやすいのですけど」
「これでまた変わったら、ちょっと大変するかもね」

 三者三様の感想を述べながらも、今回はすぐに階段を下りていく。
 今日で八階層まで進まなければならないという思いからでもあるが、内心では八階層で待っている苦難を乗り越えるために時間を作っておきたいと考えていた。

「ただ、六階層と比べてさらに厳しくなることは間違いないだろうな」
「そうですね。五階層だけがきっと特殊だったんでしょう」
「今考えたら、五階層で野営をしてよかったわよねー」
「……うん、そうだな」

 アルとしては何とも返事をしにくい話題を口にしながら七階層に足を踏み入れると、そこは森のダンジョンなのだが何とも異質な雰囲気を醸し出している。
 それは感覚が研ぎ澄まされているアルだけではなく、リリーナとクルルでも感じ取れるほどの異質なものだった。

「……なんだか、呼吸が、しづらい?」
「……空気が重く、感じるわね」
「……二人とも、周囲を最大限に警戒しながら進むぞ」

 アルの今までに聞いたことのない真剣な声音に、二人は大きく頷き返す。
 しかし、アルは進みながら一つの疑問を感じていた。

(ここは七階層のはず。キリアン兄上は八階層まで行って引き返しているから、ここに強い魔獣がいるとは考えにくいんだがな)

 魔獣が階層を跨いで上がってきたとも考えられたが、そうなると上層が弱い魔獣で占められる理由が分からなくなる。

(……稀にある、ということだろうか)

 実際のところ、魔獣が階層を跨ぐことはほとんどない。
 アルが思っている通りに稀にある程度であり、それも一階層分というのがほとんど。
 それは、縄張りにしている階層がその魔獣にとって過ごしやすい環境であることが大きな理由になっている。
 八階層の魔獣が七階層に上がってくる場合、一階層分ということと、八階層が七階層と同じ森のダンジョンであれば、可能性はゼロではない。

 警戒を強めていたものの、七階層では魔獣との遭遇がない――一度も。

「……アル様、これは明らかにおかしくないですか?」
「……そうよね。どうしよう、アル?」

 二人の言葉を受け、アルは考える。
 話し合いの結果、目標を全て達成させることはほぼ不可能だと理解している。
 八階層まで足を延ばせば突破はできなくても、三人で立てた目標を達成することはできる。
 しかし、それにはこの異質な雰囲気を放っている魔獣と対峙する危険が伴ってしまう。
 仮に避けて八階層まで下りられたとしても、戻る時に遭遇してしまっては目も当てられない。

 ならばともう一つの目標に着目してみる。
 魔法装具として使える素材を手に入れるということは、強敵を倒すことが至上命題となってくる。
 その強敵が、この異質な雰囲気を醸し出している魔獣ではないかと、アルは密かに思っていた。

「……二人とも、俺の考えを聞いてほしい」

 八階層まで向かうか、魔獣をここで迎え撃つか。
 二人もアルがどちらも諦めるという選択を取らないだろうということは短い付き合いながら理解している。
 だからだろう、何も言うことなくただアルの言葉を待っていた。

「俺たちは――七階層で魔獣を迎え撃つ」
「……まあ、そうなるわよね」
「……私も、そんな気がしていました」
「……反対は、しないのか? 一応、危険なことに変わりはないんだぞ?」

 苦笑しながら了承してくれた二人に対して、アルの方が不思議になってしまい質問を口にしていた。

「だって、アルが両方を諦めるなんて考えられないんだもの」
「それに、アル様となら魔獣を相手にしても倒せる気がしているんです」
「あっ! それは私も思ったかも!」
「うふふ、クルル様もなんですね」

 異質な雰囲気が消えたわけではない。
 それにもかかわらず二人は地上にいるかのような、普段の声音で話している。

「……はは、なんだか、俺もやれそうな気がしてきたよ」
「アル様がいるからですよ」
「そうそう。それに、アルがいなかったらここにいないわけだし、アルが決めたことなら大丈夫だって思えるのよ」
「……ありがとう、二人とも」

 二人の決意を確認できたアルは、一路進路を変更して道のない森の中に足を踏み入れていく。

「ちょっと、アル、どうしたのよ!」
「そこには道なんてありませんよ?」
「だからこそいいんだよ。実はな――魔獣の居場所は分かっているんだ」
「「……えっ?」」

 当然の反応を示す二人に笑みを返し、アルは森の中へドンドンと入っていく。
 その様子を見た二人は顔を見合わせながらも、仕方なく後をついて行くのだった。
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