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代表選考会

トーナメント戦

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 ──そして、魔法競技会の学園代表を決めるトーナメント戦が行われる日取りになった。
 参加者は全員が第一魔道場に集められており、その数は総勢三二名。
 一年次からも数人参加しておりそのほとんどがAクラスに所属する貴族の子弟なのだが、アルと同じFクラスからも一人だけ参戦を決めた者がいる。

「まさか、リリーナが参加するとは思わなかったよ」
「実は、アル様が参加されることをお父様にお話ししたら、よい経験だと言って参加するようにと……」
「あー、それはなんだかすまない」
「いえ! その、私も自分の力がどの程度なのか知りたかったのも事実ですから、よい機会だったのです」

 リリーナはそう言っているが、その体は少しだけ震えている。
 この震えが緊張から来るものなのか、または恐怖からなのかは分からない。
 というのも、今回のトーナメント戦は一対一で模擬戦を行うのだが、実際に戦うということで怪我の心配も懸念されている。
 致命傷に関しては自動治癒が発動するようになされているが、小さな傷に関してはその限りではなく痛みを伴ってしまう。
 傷が残らないから、死なないからと言って気軽に参加できるものではない。ましてや相手のほとんどが格上のクラスから参加するとなれば無事で済むはずがないのだ。

「リリーナも学園に入学してからの数ヶ月で相当腕を磨いている。チグサとの模擬戦では素晴らしい魔法技術を見せたじゃないか」
「そうですが、やはり不安になります。あの時はアル様やクルル様も一緒でしたけど、今回は私一人ですから」
「問題ないよ。ダンジョンでの実戦も、ここにいる誰よりも多く経験しているんだ。咄嗟の判断力や観察力、その全てが抜きん出ている。もしかしたら、学園代表になることも夢じゃないかもしれないぞ」
「そ、そこまではさすがに考えていませんよ」

 苦笑を浮かべてそう返したリリーナだったが、アルは本気でリリーナが代表になれる実力を秘めていると感じていた。
 模擬戦と実戦は確かに違うが、違うがゆえに得られる経験値は大きく異なってくる。
 先ほど口にした判断力や観察力は良い例であり、死と隣り合わせで得た経験はどのような場面であっても役に立つものだ。
 そして、この場にいる参加者にはその経験が大きく欠如している。
 中には下層に潜れるだけの実力を秘めた者もいるだろうが、危険を冒してまでそこまで足を運ぼうとは思わないのだろう。

「これは、本当にヴォレスト先生の言った通りになるかもしれない──!」

 自分と渡り合える実力者がいない、そう思っていた矢先に異質な存在感にアルは気がついた。

(殺気? だが、リリーナは気づいていないということは……俺にだけ放たれたものか?)

 殺気の出所に視線を向けると、そこにはジーレインではない別の人物がアルを睨みつけていた。

(……誰だ?)

 睨みつけていた女子学生はアルと目が合うと顔を逸らしてどこかへと歩き去ってしまう。
 首を傾げていると、そんなアルに気づいたリリーナが視線の方向へ目を向けて口を開いた。

「あの方は……」
「リリーナ、知っているのか?」
「はい。確か一年次のAクラスで、名前はシエラ・クロケット様です」
「クロケット……確か、中級貴族か?」
「はい。あの、どうかなさったんですか?」
「……いや、なんでもない」

 心配そうに見つめるリリーナを安心させるために笑顔でそう口にしたのだが、内心では強敵が現れたと胸を躍らせていた。
 シエラから感じられた殺気には心当たりがないものの、その迫力はジーレインに睨みつけられた時以上のものがある。

(……どうやら、変に目立つのも時にはありがたいことかもしれないな)

 シエラなら確実に勝ち上がってくる。それは上級生が相手でも問題はないだろう。
 そう思うだけでもアルの気持ちは高揚していった。

「……わ、私も負けませんから!」
「ん? お、おう、期待してるよ、リリーナ」
「もう!」

 そして、何故か隣で頬を膨らませているリリーナに困惑していると、学園長のアミルダが参加者の前にやって来た。

「さーて、今日から魔法競技会のユージュラッド魔法学園代表を決めるトーナメント戦を開催する。上級生は不満かもしれないが、私は実戦に耐えうる魔法師を育成することを目標としており、その機会をより多くの学生に与えるために今年からは少しばかり趣向を変えてみたのだ」

 アミルダの話が始まると、再びアルへ視線が注がれていることに気がついた。
 しかし、今回はシエラから感じたような異質さは感じられず、そして数日前に感じた視線であることから特に気にすることはない。

「……ア、アル様? 先ほどから、フットザール家の方が睨んでおられるようですが?」

 だが、リリーナとしてはとても気になることのようでアルにそのことを教えてくれた。

「あー、うん。ヴォレスト先生のせいで顔を合わせたことがあるんだが、あっちが一方的に俺へ敵意を向けていてな。まあ、特に何かするとかはないから安心しろ」
「て、敵意って……アル様はどうしてこう上級貴族に目を付けられるんですかね」
「……それは俺が聞きたいって」

 そこからはアミルダの話も頭には入ってこず、ジーレインから注がれる嫌な視線が妙に気になって仕方がなかったアルなのだった。
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